新妻【贖罪】 私は牝になる

畳の上で震える淫具を摘みあげると、酒井はさも嬉しそうにつぶやいた。

「ああ……言わないでください……」

美帆は双眸を潤ませながら、耳まで染まった美貌をうつむかせる。ようやくローター責めから解放されたが、燃えあがった肉体まではどうにもならない。むしろ肌を晒したことで、ますます疼きが大きくなったような気がする。

(いやだわ、私ったら……この身体、どうなってしまったの?)

美帆は自分の裸体を強く抱き締めると、眉を切なげにたわめていく。中年男に無理やり開発されたことで、はしたなく欲情するようになってしまった。

「恥ずかしいです……こんな格好……」

無意識のうちにくびれた腰をくねらせる。すると大きくてごつい手が腰にまわされて、部屋に備えつけの風呂場へと連れていかれた。

「バスルームだけ改修したんですよ。ここが汚かったら商売になりませんからね」

酒井が言うように、ひなびた旅館に似つかわしくないほど浴室は綺麗だった。タイル張りで洗い場が異様に広く、ビニール製の奇妙なマットが置いてある。空気を入れて使うゴムボートのような、厚みのあるシルバーのマットだった。

「これはソープランドで使用されてるマットです。見るのは初めてですよね?」

美帆が顔を引きつらせながら頷くと、酒井は満足そうな笑みをもらしてマットにあお向けになる。そして、すぐ横に置かれている洗面器を手渡してきた。

「あ、あの……これは?」

洗面器にはどぎついピンク色の液体がたっぷりと入っている。なにやらトロトロとしており、いかにも卑猥そうな雰囲気が漂っていた。

「ローションですよ。プレイに必要な物は、電話一本で女将が用意してくれます。ほら、そこにも道具があるでしょう」

シャンプーやリンスのボトルに並んで、男根を模した禍々しいバイブレーターが置いてある。シリコン製の黒い男根は、酒井のモノに迫るくらいの巨根だった。

「やっ……怖い……」

美帆はローション入りの洗面器を持ったまま、恐ろしい現実から視線をそらすように顔を背けた。いやらしいマットも、おぞましい淫具も、中年男の醜い肥満体も、なにも見なかったことにしたかった。

「フフフッ。初々しくて可愛いですね、奥さん。ソープ嬢のテクニックを、順を追って教えてあげます。なにも怖がることはありませんよ」

「し、知りたくありません……」

消え入りそうな声で拒絶するが、酒井は構わずに話し続ける。

「今日はローションプレイを覚えてもらいます。でも、こと細かに手順を覚える必要はありません。なんとなくのほうが素人っぽくて受けるんです」

話の主旨がまったく見えてこない。ここに来てからの酒井の言動は、腑に落ちないことばかりだった。

「男を悦ばせるテクニックを身に着けておけば、そのうち役に立ちますからねぇ」

「酒井さん……どういう意味、ですか?」

恐ろしかったが確認せずにはいられない。この宿では売春も行われていると言っていた。まさかとは思うが、本気で客を取らせるつもりだろうか。

「フッ……奥さんが私の言うとおりにしているうちは大丈夫ですよ」

酒井は意味深な物言いをすると、喉の奥でククッと低く笑った。

機嫌を損ねるようなことをしたら、売春させるという脅しかもしれない。レイプされただけでもショックなのに、そのうえ身体を売らされるなんて考えられない。恐ろしさのあまり、ますます逆らえなくなってしまう。

「それじゃあ、はじめますよ。まずは私にローションを塗ってもらいましょうか」

高圧的に命じられて、美帆はおずおずとマットのかたわらにしゃがみこんだ。そして洗面器のなかに手を入れて、ヌルヌルした液体を手で掬いあげる。

「こ、これを……塗ればいいんですね?」

男の脂肪だらけの胸板にトローッと垂らし、言われるままに塗り伸ばしていく。

「いいですよ。その調子で全身をローションまみれにするんです」

「ううっ……こう、ですか?」

ローションのヌメリが気色悪くて、思わず眉間に皺が寄ってしまう。それでも途中でやめるわけにはいかず、男の皮膚に手のひらを這わせていく。

胸板から腹部にかけてを、円を描くように柔らかく撫でまわす。すると、あっという間に薄汚い皮膚がヌメ光り、卑猥な雰囲気が色濃く漂いはじめる。

「ほうっ、なかなか気持ちいいですよ」

中年男の気持ちよさそうな溜め息が、生理的にどうしても受けつけられない。夫以外の男に奉仕していることを実感して、猛烈に嫌悪感が煽りたてられる。美帆は苦悩しながらも気持ちを奮い立たせて、懸命にローションを塗り続けた。

「奥さん、チンポはとくに入念にお願いしますね」

「や……いやらしいことばっかり……もういやです……」

つい拒絶の言葉をつぶやいてしまうが、酒井は余裕の笑みを浮かべている。そして人妻を行為に引きこむために、譲歩したと見せかける条件を提示してきた。

「射精させれば終わりにしてあげます。だから一生懸命やってください」

「そんなことまで……ひどいです……うっぅぅっ」

美帆は嗚咽しながらも覚悟を決めると、中年男の股間に手を滑らせていく。

すでに陰茎は激しくいきり勃ち、巨大な亀頭もパンパンに充血していた。ローションまみれの指を太幹に絡めると、火傷するような熱気が伝わってくる。ゴツゴツした異様な感触に怯えながらも、ゆっくりと指をスライドさせた。