新妻【贖罪】 私は牝になる

美帆は頬を染めて顔を背けるが、激しく抵抗することはない。そんなことをしても無駄だとわかっている。早く陵辱を終わらせたいのなら、悲しいけれど黙って身をまかせるのが一番だった。

「何時間でも揉んでいたいです。旦那さんに独占させるのは、もったいないですよ」

酒井は嗜虐趣味を丸出しにして、わざと新妻が嫌がる言葉を投げかけてくる。

しかし、美帆はすでに諦めの境地に至っており、微かに眉を顰めるだけで反論しない。屈辱を耐え忍び、ただ時間が過ぎていくのを待っていた。

すると男の手が乳房からゆっくりと移動して、お腹をやさしく撫でまわす。爪の先でお臍をくすぐり、微妙なタッチで脇腹をそっと掃きあげていく。

「はぅっ……ンっ……ンふぅっ」

静かに閉じた唇の隙間から、吐息とともに小さな声が溢れだす。それでも美帆は人形のように無反応を装おうとしていた。

しかし、卑劣極まりない中年男はこれくらいで引きさがらない。執拗かつ悪辣な責めはここからが本番だ。すでに周到な姦計が張りめぐらされているのだが、初心で健気な新妻が知る由もなかった。

「奥さんのマン毛は薄くて可愛らしいですねぇ」

酒井は太い指で恥丘を弄り、こんもりとした肉の感触を楽しんだかと思うと、ささやかな繊毛をいやらしく梳いていく。さらには、ぴっちり密着させた内腿の間に、無理やり太い指をねじこもうとしてくる。

「はぅっ……い、いや──」

思わず拒絶の声が溢れそうになったとき、唇に人差し指を押し当てられた。

「シッ……奥さん、静かにしてください」

酒井はいつになく真剣な顔つきで囁いてくる。声を潜めて話すということは、誰かが近くにいるのだろうか。無意識のうちに剥きだしの乳房を手のひらで覆い隠し、薄暗い室内に視線を巡らせていた。

「ど……どうしたのですか?」

妙な緊張感が高まり、美帆も釣られるように小声になる。

そういえば和室に戻ってきてから、ほとんど話しかけられていない。美帆が答えないせいもあるが、酒井にしては大人しかったように思う。

(いやだわ……なんなのかしら……)

不気味な静寂が流れて、自分の裸体を強く抱き締めた。

沈黙に耐えかねて、もう一度問いかけようとしたそのとき、襖で仕切られた隣の部屋から微かに人の気配が漂ってきた。

「え……?」

右手で胸を隠したまま、思わず左手で口もとを覆った。

気のせいかと思って耳をこらすと、内容まではわからないが確かに男性と女性の話し声が聞こえてくるではないか。どうして隣の四畳半に人がいるのだろう。最初は誰もいなかったから、風呂に入っている間にやってきたのは間違いない。

夫以外の男と裸でいるところを、他人に見られてしまうかもしれない。襖が開くことを想像しただけで、頬の筋肉が引きつり顔から血の気が引いていく。

ワンピースと下着はきちんと畳んで、部屋の隅に置いてある。汚さないようにと布団から離したのは失敗だった。助けを求めるように中年男を見あげると、なぜか満面に妖しい笑みがひろがっていた。

「奥さん、こっちに来てもらえますか」

酒井は耳もとで囁くと、美帆の手首を掴んで立ちあがらせる。そして有無を言わさず襖の前まで連行していった。

「や、やめてください……酒井さん」

緊張で汗ばむ裸身をくねらせて、小声で必死に懇願する。とにかく服を着なければと思うが、男の腕力からは逃れられない。

「ご覧になってください。隣の部屋で面白いことをやってますよ」

肩をがっしりと抱かれて、襖の隙間に顔を押し当てられる。そして四畳半の光景が網膜に映った瞬間、驚愕のあまり双眸を大きく見開いた。

そこには、なぜか夫の姿があった。

出張に行っているはずの晃司が、なぜか全裸で和室の中央に敷かれた布団に横たわっている。しかも、どういうわけか一糸纏わぬ綾乃夫人が寄り添っているのだ。

「な……なに……これ?」

美帆は消え入りそうな声でつぶやき、妖しい二人の様子を凝視していた。

裸電球の弱々しい光が、信じられない光景を照らしだしている。あお向けになった晃司と、熟した裸身を晒した綾乃夫人。二人は身体をぴったりと密着させて脚を絡ませ合っていた。

「驚かれたようですね。私も初めて知ったときは言葉を失いました。まさか家内が不倫をしていたとはね。旦那さんの出張は嘘だったんですよ」

酒井が耳もとで語りかけてくるが、返答する余裕などあるはずがなかった。

四畳半には淫らな空気が充満しており、二人がただならぬ関係にあるのは疑いようがない。思わず襖に手をかけたとき、酒井が忠告するように囁いた。

「もっとも、私たちも不倫をしているようなものですけどね」

そのひと言で、自分が置かれている状況を認識して青ざめる。全裸で中年男と肩を寄せ合っているのだ。こんな姿を夫に見られたら、もう言いわけはできない。

(そんな、出張が嘘だったなんて……でも……私も、晃司さんのことを……)

双眸に熱い涙がこみあげる。脅されたとはいえ、愛する人を裏切ってきたことに変わりはなかった。夫が不倫をしたとしても責められる立場ではない。

それでも、美帆は夫の潔白を信じようとしていた。微動だにせず、いや微動だにできず、ただ祈るような気持ちで隣の部屋を覗き続けた。