新妻【贖罪】 私は牝になる

「ああっ……そのことは言わないでください……」

美帆は双眸を潤ませると、悲哀を滲ませた美貌を弱々しく左右に振った。

しかし、そんなことで卑劣な中年男が怯むはずもない。徐々にローターの振動を強くしながら、さらに意地の悪い言葉を投げかけてくる。

「そのあと、対面座位で腰を振り合ったんですよね。奥さん、ずいぶん乱れてましたけど、やっぱり旦那さんの前で悪戯されて興奮してたんですか?」

「あっ……あっ……そ、そんなはず……ああっ、また強くなって……あふっ、痺れちゃう、いやです、もうとめてくださいっ」

否応にも喘ぎ声が高まり、無意識のうちに腰をググッと迫りだしてしまう。遠くに見えていたエクスタシーの高波が、猛烈な勢いで接近してくるのを感じていた。

「だ、駄目っ、あッ、あッ……こんなの、ああッ、ああッ、駄目ぇっ」

愛蜜がドクドク溢れて、このままイカされてしまうと思ったそのときだった。ローターがピタリと動きをとめて、またしても絶頂をはぐらかされた。

「勝手にイッたら駄目だと言いましたよね、奥さん」

「うっ……うぅっ……あんまりです──はううッ! も、もう、いやぁっ」

こらえきれずに嗚咽をもらすと、再びローターがブルブルと震えだす。性感を無理やり高められて、頂上が見えたところでおろされる。官能は蕩けたバターのようになっているのに、決してとどめは刺してもらえない。

「も、もう許して……あううっ……もう許してください……」

「楽になりたかったら素直になるんです。イキたいですか?」

酒井が抑揚のない冷徹な声で訊ねてくる。

ここで機嫌を損ねたら、また焦らし責めにかけられるに違いない。これ以上嬲られ続けたら、きっと頭がおかしくなってしまう。美帆は恐怖に駆られて涙を流しながら、小さくコクコクと何度も頷いていた。

「いいでしょう、イカせてあげますよ。でも、少しだけ我慢してください。いいところに連れていってあげます。心おきなくイキまくれる場所にね」

酒井は唇の端を吊りあげると、濡れそぼった膣穴にローターを埋めこんだまま、脇にずらしてあったパンティの股布を元に戻した。そして振動を微弱にセットしたコントローラーを、ウエストゴムにしっかりと挟みこんだ。

また犯されるのかと怯えていた美帆は、なぜか車の助手席に乗せられていた。酒井は鼻歌交じりにハンドルを握り、ご機嫌な様子で昼間の街を走らせていく。

国産の白いセダンは、すっかり街並みに溶けこんでいる。でも、後ろめたい気持ちがあるせいか、道行く人たちが注目しているような錯覚に陥っていた。

「困ります……誰かに見られたら……」

美帆は不安げな瞳を運転席に向けると、切なそうに腰をもじつかせた。

膣に挿入されているローターは相変わらず小刻みな振動を続けて、蕩けるような刺激を送りこんでくる。こんな状態で外に連れだされていると考えただけで、羞恥のあまりに気が遠くなってしまう。

「大丈夫ですよ。誰も気にしてませんから」

酒井はまったく取り合う様子もなく、わざとゆっくり車を走らせる。美帆は知り合いに目撃されないことを祈りながら、顔を隠すようにがっくりとうつむいた。

しかし、こうしている間もローターは容赦なく媚肉を揺さぶってくる。身体の奥で低い音を響かせながら、妖しい快感を絶えず生みだしていた。

「ン……はぅ……ンン……」

小さく息を吐きだしてみるが、この焦燥感からは逃れられない。絶頂の手前まで高められて、とろ火で炙られている状態が続いているのだ。

頭の芯がボーッとしているのに、性感を揺さぶられるだけで次のステップへ進むことはできない。そのとき、ふとオルガスムスを求めていることに気づいて、自分のあさましさに赤面してしまう。

(やだわ、私……誰かに見られてるかもしれないのに……)

ワンピースのスカートのなかで、そっと内腿を擦り合わせる。すると股間でクチュリと小さな音が鳴り、パンティがじっとりと湿っていくのがわかった。

「はぁ……」

膝の上に置いた両手を握り締めて、思わず艶っぽい溜め息を吐いてしまう。熱くもないのに頬が妖しく火照り、全身の皮膚がじっとりと汗ばんでいた。

「フフフッ。たまらなくなってきたみたいですね」

酒井がからかうように声をかけてくる。苦しむ様子を眺めるのが楽しいらしい。

「さ……酒井さん……もう、許してください」

美帆は苦しげに喘ぎながら、涙をこらえて哀願した。

「奥さんも楽しんでたじゃないですか。それに、もうすぐ目的地ですよ」

酒井の言葉に釣られて窓の外を見やると、そこはすでに自宅から遠く離れた場所だった。顔見知りに会う可能性が低くなった反面、別の不安が頭をもたげてくる。

「あの……どこへ向かっているのですか?」

羞恥に身悶えながらも聞かずにはいられない。このまま、見知らぬ土地へ連れ去られるのではないかと恐ろしくなってくる。

「心配しなくても大丈夫ですよ。ご主人が出張から帰ってくるまでには、必ずご自宅に送り届けますから」

酒井はくぐもった声で告げると、薄笑いを浮かべてアクセルを踏みこんだ。

車から降り立った美帆は、目の前の建物を見つめて頬を引きつらせた。

酒井に連れてこられたのは、街はずれにある妖しげな旅館だった。今にも朽ち果てそうな和風家屋で、おどろおどろしい雰囲気が漂っている。獣道のような細い砂利道を進んだ先に、まるで人目を忍ぶようにひっそりと建っていた。