新妻【贖罪】 私は牝になる

一秒でも早く料理を完成させようと思ったそのとき、酒井は尻たぶを鷲掴みにしたまま、なんとソファーに座っている夫に話しかけてしまう。

「旦那さんはエビフライがお好きなんですか?」

「はい? あ……じつは大好物なんです」

夫人と話していた晃司が初めて振り向いた。同時に綾乃もこちらを見るが、カウンターの下で行われていることには、やはり気づいていないようだ。

「これは見事なエビですなぁ。プリプリしてますよ」

酒井がわざとらしく言いながら、左右の尻たぶを交互に揉みまくる。瑞々しい弾力を楽しむような、尻肉に指先を食いこませる乱暴な手つきだ。

「ン……ンン……」

きつく閉じた唇の隙間から、小さな呻き声が溢れだす。

スカートの上から触られるのとはまったく異なる嫌悪感がこみあげて、腰をくねらせずにはいられない。

「旦那さん、指が弾き返されそうですよ。新鮮だから美味そうですねぇ」

この男が絶賛しているのは、もちろんエビなどではない。新妻の張りつめた桃尻のことを、先ほどからしきりに褒め称えているのだ。

「これなら旦那さんも満足でしょうな。なにしろピチピチですから」

「夫の僕が言うのもなんですが、妻の料理の腕前はかなりのものですよ」

晃司は少し自慢げに言うと、同意を求めるように愛妻を見つめた。

中年男にヒップを悪戯されている美帆は、夫の視線に気づかないふりをするつもりだった。しかし、受け答えを強要するように尻の谷間に指をねじこまれて、反射的にビクッと顔をあげてしまう。

「あぅっ……」

視界が真正面に向き、晃司が不思議そうに首をかしげるのが映った。綾乃夫人とも目が合い、思わず頬の筋肉が硬直してしまう。

「い、いやです……お客様の前でそんなに褒められたら……恥ずかしいです」

美帆は必死に平静を装って言葉を紡いだ。

顔が赤く染まっているのは下半身を悪戯されている羞恥のためだが、晃司は照れているのだと誤解したようだ。「ごめんごめん」と笑いながら言って、再び酒井に視線を向けていく。

「本人は謙遜してますが、妻の食材を見極める目は確かだと思います」

「贖罪? ああ、食材ですか。でしょうな。これだけの素材はなかなか見つけることができませんよ」

すぐ隣に立っている酒井は、夫と会話を交わしながら、まったく動じることなく手を動かしていた。太い中指を後ろから股間に潜りこませて、膣と肛門の間の敏感な部分──蟻の門渡りをくすぐってくる。

「や……ンンっ……」

美帆は下唇をキュッと噛み、声がもれそうになるのを懸命にこらえていた。

指の侵入を防ごうとして内腿を擦り合わせると、強引に手のひら全体を脚の間に押しこまれる。そうやって腿を割り開いてから、あらためて蟻の門渡りを指先でそっと掃くように刺激されてしまう。

「ンっ……はっ……ンぅっ」

触れるか触れないかの微妙なタッチが、異常な状況にもかかわらず妖しい感覚を呼び起こそうとする。中年男によって無理やり教えこまれた愉悦が、少しずつ確実にひろがろうとしていた。

(ああ、そんなところ触らないでください……晃司さんがいるのに……)

ねちっこいテクニックで肉体を蕩かされながらも、夫の存在が意識から消えることはない。確認しようとカウンターの向こうをチラリと見やった瞬間、美帆は金縛りにあったように全身を硬直させた。

「美帆……どこか具合でも悪いのかい?」

じっとこちらを凝視していた晃司が、怖いくらいに硬い表情をしている。ワイシャツの肩が小刻みに震えているように見えるのは気のせいだろうか。

もしかしたら異変に気づかれたのかもしれない。だが、酒井は喉の奥でククッと笑い、ためらうことなく陰唇にまで指を伸ばしてきた。

(だ、駄目です、そこは……ああっ、声が出てしまいます)

美帆はシンクの縁を強く掴んで、押し寄せてくる愉悦の波に耐えようとする。

もし晃司が立ちあがってキッチンに入ってきたりしたら、酒井に悪戯されていることを知られてしまう。しかし、ついに女の割れ目をざらつく指先で撫でられて、ビリビリと痺れるような快美感が沸き起こった。

「くっ……」

もう耐えられない。いやらしい声がもれてしまうと思ったそのとき、それまで黙っていた綾乃夫人が唐突に口を開いた。

「藍沢さんが褒めすぎたからよ。美帆さん耳まで真っ赤になってるわ」

まるで助け船を出すようなひと言だった。その言葉で場の空気がふっと和み、晃司は苦笑いをもらしながら頭を掻いた。

「あ、僕のせいでしたか」

「そうよ。ただ褒めちぎればいいってものじゃないの。女は殿方と違ってデリケートで感じやすいんですから。ね? 美帆さん」

綾乃に話を振られた美帆は、引きつった笑みを浮かべて曖昧に頷く。窮地を脱した思ったのも束の間、酒井の魔指はいまだに股間を弄っていた。

(お願いです……もう許してください……)

眉を歪めて哀願の視線を向けるが、新妻への色責めはまだ終わる気配がなかった。

「さあて、そろそろ揚げましょうか」

酒井の指示で、パン粉をまぶしたエビを次々と鍋のなかへ入れていく。そうしている間も、陰唇にはごつい指があてがわれたままだった。

晃司と綾乃は再びテレビのほうを向いて、なにやら話しはじめる。二人に見られていないことが、せめてもの救いだった。