「いや……その……はい」
手がかすかに震えてしまっているのがバレてしまっているのか、凪子が笑いを堪えて言った。恥ずかしさと興奮とで、心臓を痛いほどに打ち鳴らしながら慎重に手を動かす。
(近くで見ても……凪子さんの身体、本当に綺麗だ)
染みも傷もひとつもない滑らかな背中のラインは、しなやかで優雅な曲線を描いている。うなじの生え際は綺麗な富士山型で、蒸気とともにむっとするような女臭が鼻をくすぐる。
(……いったい、凪子さん、なんのつもりなんだろう)
十八の娘がいる凪子から見れば、宣英などまだまだ子供のように思えるのかもしれない。けれど、宣英だって男だ。
(ひょっとして、俺のことを誘ってるってとか……ないよな)
それならば説明はつく。けれど──。
(うーっ、俺から行くとか、できないよ!)
情けないと言われても、ただでさえ失恋したての傷心の身。勢いに任せていったところで、もしも拒否されたら、傷に塩の上塗りだ。
「あぁ、気持ちいいわ」
と、肩の辺りに触れた時に凪子が声を漏らした。
「あ、ここですか。けっこう硬いですよね。凝ってるみたいです。ほら、この辺とか」
「ん、そこも……すごくいい……」
タオルを剥ぎ取り、直接、肩甲骨の骨の上を強めに押すと、凪子は気持ちよさげな声をあげた。そのまま、背骨に沿って親指で押していくと、尻の上の小さな窪みをきゅっと刺激する。
(うわぁ、凪子さんの肌、綺麗だなぁ……)
温泉で毎日磨かれているせいだろうか。真っ白な肌はキメ細かで、その肌触りはまるで上質のシルクを撫でているかのようだった。
「あんっ、吉川くんってマッサージ上手なのね」
「そうでもないですよ」
「んっ、ううん、すっごく……上手……ああっ!」
凪子の滑らかな肌に誘われるように指をずらしていくと、声がだんだんと荒くなっていった。まるであの時の声のようだ。
(ううっ、凪子さんの声、すごくエロい……)
ドキドキと胸を鳴らしながら、腰骨の辺りを両の手のひらで優しく撫でると、凪子がびくんと身体を震わせた。
「あっ、すみません、くすぐったかったですか?」
「ううん、そういうんじゃなくって……気持ちはいいんだけど……そこ弱いのよ」
「でも、ほら、ここの辺りも……凝ってるみたいですけど」
背後から手を回し、腰骨の上あたりを円を描くようにゆっくりと撫でると、凪子はこそばゆそうに身体を捻った。顎がくいっと上がり、だらしなく半開きに開いた唇から息が漏れる。
「あぅん、ダメだってばぁ」
「じゃあ……やめちゃいます……か?」
「……やめちゃダメ」
凪子が懇願と羞恥とが入り混じった潤んだ瞳で宣英を見上げた。
「それは、もっとして欲しいってこと……ですよね?」
「お願い……もう、これ以上は……言わせないで……そうよ、もっと……して欲しいの」
しつこいかと思ったが、しかし、恥じらいに頬を染めている人妻の表情は婀娜っぽくて艶めかしい。もっと見たくてさらに執拗に問うと、凪子は真っ赤に染まった頬を両手で包み込んで瞼を伏せ小さく頷いた。
(やっぱり……凪子さん、俺のこと誘ってたんだ!)
ようやく確信を得られると、もう戸惑いの気持ちはなかった。
人のものであることは重々承知しているが、魅惑的に熟した色香溢れる女体を前にどうぞと投げ出されているのだ。断るには惜しすぎる熟れた裸体に、食いつかないわけにはいかない!
「凪子さんッ!」
人妻の身体を後ろから抱き締めると、耳元から石鹸の香りがぷんと香った。誘われるように首筋に唇を寄せると、凪子はびくんと身体を揺らす。
「本当に……本当にいいんですねっ!?」
「恥ずかしいから……何も聞かないで……」
白く細い凪子の首筋に、ちゅっちゅっと音を立てて唇を這わせていくと、身体から力が抜けたのがわかった。腰骨の辺りを触っていた手先を腹からゆっくりと滑らせていくと、ぷにりと柔らかな触感に突き当たる。
(うわぁ、触るとこれまた大きい……)
見た目にもたっぷりとした胸の膨らみは触れてみると、想像以上のボリュームだった。
手に余るサイズというのはこのことだろう。宣英の手のひらで包み込むと、乳肉が指の間から溢れだしてしまうほどに柔らかだ。それでいて、ずっしりと持ち重りするのが手のひらに心地いい。
「すごい……凪子さんのおっぱい、柔らかくてすごく気持ちがいい……」
「あっ、あぁんっ……わたしも……吉川くんに揉み揉みされて……気持ちいいわ」
しっとりとした餅のような質感の、揉みごたえのある乳房を下から掬い上げては、たぷんたぷんと揺らし、波打つ柔肉の感触を楽しんでいると、火照った人妻は、くんと鼻を鳴らしキスをねだるように唇を寄せてきた。
「キスしたいんですか?」
「ええ、吉川くんのお口にキスがしたいの」
「凪子さん、すごく可愛い……」
甘えんぼの人妻に口づけると、ぷにりと蕩けそうに柔らかな唇が、宣英の唇へと当たる。
「ねぇ、お願い、舌も頂戴」
熱に浮かされたように囁く凪子の唇に舌を割り入れると、すぐさま差し込み返してきた。温かな舌粘膜が、ねっとりと宣英の舌に絡みつく。
(うわ、凪子さんのキス、情熱的だ……)
濡れた舌が宣英の歯茎から上顎までをねちょねちょとくすぐり、とろりとした唾液が流れ込んでくる。くちゅくちゅと淫らな音に催淫され、脳髄がじんじんと痺れていく。