夏色誘惑アイランド 艶色母娘とビーチラブ

(なんだか無理やりナンパされてるっぽいけど、大丈夫かなぁ)

余計な世話かもしれないが、目にしてしまった以上は気になる。

さりげなく近づいて様子を窺うと、「離して」という少女の険しい声が聞こえた。

(……これって……助けたほうがいいよな)

暴力沙汰の喧嘩など、まるきり経験のない宣英にしてみれば、相当に勇気のいる行動だ。しかも多勢に無勢。迷う気持ちはあるが、しかし、困っている女のコを目の当たりにして、見て見ぬ振りも後味が悪い。

(困ったなぁ……)

それでも、怖気づく自らの気持ちを奮い立てるように、ダッシュで集団に駆け寄った。男たちの輪をするりと潜り抜けて少女の隣に並ぶと、精一杯に胸を張って言う。

「お、俺の彼女に何か用ですか?」

「え、彼女? このコ、君の彼女なの?」

男のひとりが首をかしげた。遠目で見た時は黒く焼けた胸板が怖そうに見えたが、近くで見るとわりと爽やかな大学生風だった。

(よかった、普通の人たちだ……)

少し安心しながらも、少女の手首を握って引っ張る。

「そ、そうです。さ、ナ、ナンパなんてひっかかってないで行くよっ」

「ちょっとぉ、いきなり何よ? 痛いんだけどぉ」

精一杯の勇気を出してみたものの、少女は不審そうな目を宣英に向けて唇を尖らせた。

「彼女、嫌がってるみたいだけど……」

「いえ。大丈夫です。早くっ。すみません、ではっ!」

少女の手首をぎゅっと強く握ったまま駆け出し、あっけにとられている男たちのもとから逃げ去ると、次の角を曲がる。

気温のせいか、五十メートルも駆けていないというのに息があがってしまった。

「ちょっと、ちょっと、何なのよ、君」

「しっ。ちょっと待って……はぁっ、よかった、逃げきれたみたいだ……」

角から向こうを覗くと、男たちが追いかけてきている様子はなかった。なんとか助け出せたと安堵しながら、水の入ったペットボトルを少女に手渡すと、少女は乱暴な手つきで奪い取ってごくごくと喉に流し込んだ。

「追いかけてきてないって、いったい、何なのぉ? いったい誰よ、君」

少女のぽってりとした唇から水が一筋零れて首筋へと垂れる。近くで見ると、思っていたよりも若そうだ。おそらく十八歳かそこらだと思うが、年のわりに妙な色気がある。

基本は丸顔の童顔であどけない顔立ちだが、しかしやや鋭い目つきが挑発的な表情を作り、その下の肉感的な唇がドキッとするほどセクシーだ。

顔だけではなく、身体付きもいやらしい。派手なワンピースの下、窮屈そうに張り上げているグラマラスなバストは、少女が身じろぎするたびにふるふると揺れ、その中心部は深い谷間が切れ込んでいる。細くくびれたウエストと対照的に、むっちりと張り上げたヒップがぷりんと張っていて、自然と視線が向いてしまう。

「ねぇ、君、ちえりになにか用?」

少女は唇を手の甲で拭うと、上目遣いで見上げてきた。

「いや、その……ナンパで困ってたみたいだから」

「えっ? 別にちえり、困ってとかないよ?」

「だって、『離して』って言ってたから……」

「え? なにそれ……離してなんて……あっ、それってひょっとして、『お話して』って言ってたのの聞き間違いじゃない?」

「……あ、そうだったんだ……」

「そうだよ、もうっ。あーあ、せっかく東京の男のコ、ゲットしたの邪魔されちゃったなぁ」

しまった。完全に勘違いしてしまったようだ。

(そっか、俺の早とちりだったのか……)

気まずい思いでちえりと名乗った少女を見遣ると、グロスでツヤツヤと光る厚めの唇を、拗ねたように窄めて膨れている。

(けどゲットってすごい表現だな。これが噂の肉食系女子ってヤツか……)

「すみません、完全にぼくの勘違いだったみたいで」

自分の周りにはまるでいないタイプのギャルを目の前にして、物怖じしながらもも頭を下げる。

「あーあ、どうしてくれるの? ……って、ねぇ、ひょっとして、お兄さんって東京の人かなぁ?」

「……そうだけど」

「ふーん……見た目も、悪くはないよね。かっこよくはないけどかわいい系?」

ちえりは宣英の全身を上から下まで見回すように視線を動かすと、おもむろに腕に自分の腕を絡めて、ぴとりと身体を寄せた。

「ね、ね、ね。お兄さんでいいや。さっきの人の代わりにちえりと遊んでよぉ」

「えっ、遊んでって……」

「あのね、ちえりにいろんなこと、教えて欲しいの。ねぇ、ダメ?」

ちえりは悪戯っぽい微笑みを浮かべ、まるで子猫のような愛らしさで擦り寄ってくる。

「え、教えて欲しいって……ダ、ダメだよ。そんないきなり……」

「えっ、なんで? なんでいきなりじゃダメなの? ちえりは大丈夫だよ?」

口ではそう言ってみるものの、正直なことを言えば、ココナッツのような甘い体臭とワンピースの薄い生地越しに伝わってくる熱い体温、そしてぷにっとしたおっぱいの感触に胸はドキドキと激しく騒いでしまっている。

ドギマギと視線を泳がす宣英を、小悪魔系少女はくりっとした瞳で見上げて、唇をつんととんがらせた。その表情が、これまた挑発的でいて、ひどく可愛らしく、胸がドキドキと高鳴ってしまう。

「とにかく……ダメだったらダメだよ! 女のコがそういうふうに自分を安売りしちゃダメなんだから。俺、用事があるからもう行くけど、知らない男の人を遊びに誘ったりなんかしちゃ危ないんだからね。男は狼なんだからっ!」