夏色誘惑アイランド 艶色母娘とビーチラブ

「ちょっ、美波ちゃん、浴衣なのにこんな道、大丈夫?」

「大丈夫、慣れてるから」

その言葉は本当らしく、美波は下駄ばきだというのに、苦にする様子もなく、軽やかな足取りで草を掻き分けて山を登っていく。

(いったいどこに向かってるんだろう)

美波に導かれるまま、丸太を土に埋め込んだだけの階段を昇りきると、急に景色が開け、背の低い下草の生い茂った小さな広場があった。

「うわぁ、この先、こんなふうになってるんだ」

「うん、ここね、昔は展望台になってたの。今は港に新しい展望台ができたから、ここは閉鎖されちゃったんだけど。ね、吉川さん、あっち」

早足で進む美波の後について広場の隅へと向かうと、朽ち果てた木製の台があった。足元に注意しながら階段を昇ると、眼下に言葉をなくすほどの絶景が広がる。

「う……わぁ。すごい夕焼けだ……!」

目前は一面の大海原だった。

その広大な海の果ての水平線に、いままさに太陽が飲み込まれようとしていた。

オレンジから紫、そして紺色へとグラデーションする空。海面は夕日を反射してキラキラと輝き、波がうねるたびに海水の紺碧とオレンジとが交じり合うさまは、まさに自然の神秘を感じさせる美しさだ。

「ここ、島で一番、綺麗なサンセットが見れるところなの。吉川さんにどうしても見てもらいたくって。ね、ここ座って観よう」

「あ、じゃあ、これ、下に敷こうか」

「ありがとう」

ちょうど首に巻いていたタオルを地面に敷き、美波の隣に腰を降ろすと、沈みゆく夕陽を見つめる。

オレンジ色の陽を受けて美波の瞳も潤んだように輝いていた。走ったせいか、浴衣の下で胸が大きく上下し、形のいい唇が少し開いて荒い息が漏れている。

(夕陽も綺麗だけど……美波ちゃんも本当に綺麗だ)

うっとりと暮れ行く夕陽を見つめる、その横顔に見惚れていると、美波が宣英の視線に気がついて顔をあげた。

「ん? どうしたの、吉川さん」

「いや……その……別に……」

見惚れていたとはさすがに言えずに慌てて誤魔化すと、美波がすがるような表情を浮かべて宣英の顔を見上げた。

「……ねぇ、吉川さん……あの、わたしも……吉川さんのこと、ちえりみたいにノリくんって呼んでもいいかな」

「えっ……もちろん、いいけど」

「ありがとう。嬉しいっ!」

美波の顔にぱあっと花が咲いたような笑みが浮かんだ。その笑顔の愛らしさに胸がきゅんと弾む。

(ひょっとして、美波ちゃん、俺のこと……好きなのかな)

夏祭りに誘ってくれたり、名前をあだ名で呼びたいと言ったり。

(けど……もしも俺の勘違いだったりしたら……この先、さざなみでアルバイトを続けるのに気まずいし……)

美波に本当のところを聞いてみたいが、違っていたらこの後の身の置き場がない。しかし──。このまま放っておくには、美波はあまりに魅力的だった。

「あ、あのっ、美波ちゃんっ」

「うん?」

「そのっ、よかったら……君をぎゅって……抱き締めてもいいかな」

「えっ……」

驚きの声をあげた美波の顔が、みるみる泣きそうに変わっていく。

(やばい! やっぱり俺の勘違いだったんだ)

しかしもう後の祭りだ。

「あっ、ごめん、ヘンなこと言って。あっ、忘れていいから! いまの発言、なかったことに……ええっ!?」

慌てて弁解をする宣英の身体に美波が抱きついた。花のような匂いがふわりと香り、柔かな胸がむにっと胸板に押し付けられる。

「……わたしもノリくんに、抱き締められたいって思ってた」

腕の中にすっぽりと収まった美波の首筋から、女になりつつある少女特有の甘い体臭が立ち昇って頭がくらくらとする。

「美……波ちゃん」

「わたし、ノリくんのこと、好きなんですっ」

宣英を見上げる健気な眼、腕の中にすっぽりと収まってしまう華奢な身体、首筋から立ち昇る芳しい香り。そのすべてに胸がじんと打ち震える。

黒目がちの瞳に吸い寄せられるように唇を近づける。美波の睫が一瞬、戸惑うように揺れて、そっと瞼が閉じられた。

唇を合わせると、ふわりと柔らかな感触を感じた。すーっと溶けてなくなってしまいそうな極上の柔らかさを持った唇は、甘い果実のような味がする。

背中に手を回すと、緊張しているのか美波の身体は小刻みに震えていた。少女の純情に胸がほっと温かくなり、抱き寄せる手に思わず力が入る。

「はぁっ……初めてのキス、なの」

どれくらいの間、唇を重ねていただろう。さすがに息が苦しくなって一度離すと、美波の唇から熱っぽい吐息が漏れた。

(えっ……たしかにちえりちゃんが、美波ちゃんが男に慣れていないって言ってたけど……初めてのキスだったんだ!)

東京でも滅多に会うことができないほどの美少女のファーストキス。それを自分がもらうことができたという悦びが身体中に満ち満ちていく。

上昇した体温で甘やかな体臭がより濃く立ち昇り、宣英の脳髄をずきずきと刺激する。さっきまでの口づけの余韻を惜しむかのように、美波の唇の上を綺麗なピンク色の舌が無意識に這っている。宣英の顔をいとおしげに覗き込む瞳は、一層、しっとりと濡れて潤み、身体からは鼓動が伝わってくる。

「美波ちゃんっ! 俺も美波ちゃんのこと……好きだっ!!!」

情動に突き動かされるまま、ぎゅっと抱き寄せると、今度は貪るように唇を奪った。唇の間に舌を差し込み、熱い唾液で満たされた口内にぬるりと侵入させる。