夏色誘惑アイランド 艶色母娘とビーチラブ

瞼の裏で、凪子の痴態を反芻しつつ、足音を立てないようにそっと踵を返す。

そろそろと抜き足差し足で廊下を歩いていると、背後で扉を開く音が聞こえた。

「あら、吉川くん、どうしたの、そんなところで」

心臓が口から飛び出しそうにドキンと飛び跳ねた。

慌てて振り返ると、タオル地のガウンを羽織って、髪を乱したままの凪子がいた。ほんのり上気して赤味を帯びた頬に、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。

「あっ、ええと……その……ちょ、ちょっとお風呂のタオルってどこかなぁって思って探してまして……」

「あら、脱衣場になかったかしら?」

凪子が気だるげな表情で首をかしげた。

どことなく淫靡な空気をまとったままの凪子に、まだ強張ったままの下半身を気づかれないように手でさりげなく隠すと、ドギマギと口を開く。

「あ、えっと、その……はい。なかったみたいで」

「……じゃあ、新しいの、出さないといけないわね。ストックは納戸に置いてあるの。キッチンの横の扉の棚の上だからすぐわかると思うわ」

「あ……じゃあ、俺、補充しておくんで……その……遅くにバタバタしてすみませんっ、お、お休みなさい」

「おやすみなさい」

凪子はにこりと微笑むと扉の中へと消えていった。

(覗いてたの……バレて……ないよな)

まだバクバクと高鳴っている。凪子が姿を消した後の廊下には、ボディローションの甘ったるい匂いがかすかに残っていた。

第二章 寂しい人妻の誘惑 ─露天風呂で不倫H─

「ふっあーあっ、眠い……」

目覚まし時計のアラーム音で目が覚めた。

時刻を見れば朝の六時。できればもうひと眠りしたい欲望に囚われながらも、布団から這い出る。

(こんな早起き、東京じゃ滅多にしないもんな……)

それだけでも眠いというのに、昨晩は目を閉じるたびに、瞼の裏に凪子の痴態が浮かび上がってきて悶々としてしまい、結局明け方まで眠りにつけなかった。

(挙句の果てに三回も自分でしちゃって、俺ってば恥ずかしいなぁ)

そのせいか、身体中がどんよりとだるい。

(今日はこれから仕事だってのに、気合入れていかないとな)

両頬を手のひらでぴしゃぴしゃと叩いて気分を奮わせると、布団から身体を起こした。

「おはようございますっ!」

手早く身なりを整えると、洗面所で洗顔を済ませてキッチンへと向かった。

味噌汁のいい匂いに鼻をひくつかせながら、大鍋を掻き回している凪子の背中に朝の挨拶をすると、凪子は手を止めて振り返った。

「おはよう、昨日はよく眠れたかしら?」

「あっ……はい。おかげさまで……」

真っ白に洗いざらしたシャツと活動的なデニムパンツに、エプロンという今朝の凪子の姿は家庭的な温かみに満ちていて、昨晩の淫猥な雰囲気など一かけらも漂っていない。そのギャップが逆にいやらしく思え、胸がどくんと高鳴った。下半身にたちまち血が流れ込んで、パンツをぐっと押し上げる。

(うわっ、朝からやばい……)

しかし、考えてはいけないと思えば思うほどに、昨晩の淫らな姿が脳裏に蘇ってくる。

「あのっ、何か、そのお手伝いすることありますでしょうか!?」

妄想を掻き消すように声を張り上げると、凪子には、その様子がよほどに張り切っているように見えたらしく、くすりと笑った。

「そうね、じゃあ、そろそろ朝ごはんもできるから、美波を呼んできてもらえるかしら。ここの前の道を右手にちょっと行ったところに小さな浜があるの。岬の手前のあたり。そこで潜ってるはずだから」

「はい、わかりましたっ」

台所を後にすると、玄関へ回ってサンダルをつっかけ、民宿の前の道路へと出る。

今日も晴天だった。さすがは南国の島。まだ七時にもなっていないというのに、すでに太陽の光はきつく、肌を焦がすようにジリジリと焼き付けてくる。

アルファルトの照り返しを感じながら、歩道を右に向かって歩きだした。津波対策か、砂浜から五メートルほど高くなっている歩道のガードレール越しにはマリンブルーの大海原が広がり、ところどころに白いさざ波が立っている。

(うわぁ、気持ちいいなぁ)

日差しこそ強烈だが、まだ温まりきっていない朝の空気はかすかにひんやりとした湿気を持っていて、肌に心地よく清々しい。磯の匂いを感じながら、白い砂浜と澄んだ海とを見下ろして歩いていると、砂浜に黒い岩が混じるようになってきた。

やがて砂浜はわずかな幅を残して、ごつごつとした岩面が大部分を占める磯へと変わった。海面下の岩色を映してか、吸い込まれそうな紺碧色だ。やがて小さな入り江へとたどり着いた。

(この辺だと思うんだけど……美波ちゃん、どこかな)

こんもりと茂った岬の手前で立ち止まると、磯場に目を凝らす。

(あっ、あれかな)

きらきらと眩しい光を反射する海面に、ウエットスーツにゴーグルをした人影が見えた。他に人気はないので、おそらく美波に違いない。

「美波ちゃーん、朝ごはんだってー」

ガードレールのこちらから叫んでみたが、美波は気がつかない様子で、再び海へと潜ってしまった。

(ここから呼んでも、聞こえないみたいだな)

浜まで呼びにいくしかないかと、辺りを見回すとコンクリートで作られた階段を見つけた。歩道の隅に自転車を止めると階段を下りる。