夏色誘惑アイランド 艶色母娘とビーチラブ

「そっか、早く帰ったほうがいいよ。どんどん風が強くなってるみたいだから。そんな高いヒールじゃ、吹き飛ばされちゃうよ」

「ありがと。ノリくんも気をつけてね。島の台風、初めてでしょ? 東京から来た人はみんな驚くみたいよ。こんなに凄いのかって」

「そっか。気をつけるよ」

「じゃあね! 台風が行ったらまた遊ぼ!」

ちえりは手を振ると、傘を風に取られながらも急ぎ足で去っていった。

「さてと……納戸の中の蝋燭、蝋燭っと……えっと……あった、これか」

後ろ姿を見送ると、庭へと回り込んで、隅に設えられたプレハブ倉庫の扉を開けた。

倉庫の中は綺麗に整理されているせいか、すぐに蝋燭を見つけることができた。まとめて十本ほど取ると、倉庫を後にする。

「うわぁっ」

外に出た瞬間に突風に吹かれた。この短時間でさらに風は激しくなったようだ。

電線が揺れ、看板が風に吹かれてガタガタと音を立てる。

(早く通り過ぎてくれないかな)

まるでミキサーで掻き回されでもしているかのように、大きな渦を巻く海面を横目で見ながら、小走りで玄関へと向かった。

夜が更けるにつれ、いよいよ雨風は強くなっていき、十時を回った頃には、強い風が吹くたびに、建物全体が揺れるようにきしむまでになってしまった。

しかし、宣英にできることといえば、ただじっとして台風が通り過ぎるのを待つだけだ。なすすべもなく、部屋に篭もって布団に寝転んで、本を読んではいるもののガタガタと雨戸が鳴る音が騒がしく、なかなか集中できない。

(……ちょっと見に行ってみようかな)

いったい外はどうなっているのか、確認してみたい気持ちはあるが、雨戸を開けるのは面倒だ。玄関に出て様子を見てこようと本を閉じようとしたその時、ドアを控えめにノックする音が聞こえた。

「あの……美波です。ノリくん、入ってもいいですか?」

一瞬、空耳かと疑ったが違っていたようだ。もう一度ノックされた後、扉の向こうから美波の声が聞こえてきた。

「あっ、美波ちゃん。ちょっと待って、いま開けるから」

念のためにさっと辺りを見回して立ち上がる。

散らかってはいるものの、別段、見られて困るようなものはない。格好もジャージ素材のハーフパンツにTシャツなら問題はないだろう。

布団だけ素早く畳むと部屋の隅に寄せた。そのまま扉を開けると、薄暗い廊下に、クマのぬいぐるみを抱いた美波が立っていた。

「ごめんなさい。こんな遅い時間に。なんか不安になっちゃって」

「確かに、外の音、騒がしいもんね。俺もなんか落ち着かないなぁって思ってたところ。よかったら入る?」

「うん……いいかな」

美波は不安げな顔にいくぶんかほっとした色を滲ませると、宣英の部屋の中へと身体を滑り込ませた。

「そこ、よかったら座って。喉が渇いてたら、これどうぞ」

「ありがとう」

備え付けの小さな冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して差し出す。美波は受け取ると、畳の上に置かれた座布団の上に体育座りになった。宣英もその隣に腰を降ろすと、自分の分のお茶のキャップを捻る。

「それにしても、すごい台風だね。毎年、こんな大きいのがくるの?」

「うん。でも今年はちょっと早いかな。いつもは九月に入ってからなんだけど……」

「そっか。フェリーも今日の便は欠航だったみたいだね」

雨戸の外からは激しい風の音が聞こえてくる。見るでもなく点いているテレビの映像が時折乱れるのは、アンテナの接触のせいだろうか。

「うん。帰れないお客さんとかが、いなくってよ……きぁゃっ!」

美波の声を遮るかのように空気を引き裂くような雷鳴の轟きが響いた。驚いた美波が宣英に抱きつく。

「あっ、ご、ごめんなさい、いきなりだったから……びっくりしちゃって」

「ううん、大丈夫。怖かったら、このままでもいいよ」

「……ありがとう。わたし、小さいときから雷が苦手で」

言葉の通り、相当に苦手らしく腕の中でぶるぶると、まるで小動物のように小刻みに震えている。

「大丈夫、きっと落ちたのは遠くだから」

「うん……もう少しこうしていてもいいよね?」

「もちろんだよ」

不安に震えているせいだろうか。宣英の胸の中にすっぽりと収まった美波の身体が、いつになくはかなく感じられた。不安に揺れる睫と潤んだ瞳、八重歯の覗く半開きの唇からは甘い息が漏れて、胸をどきどきと掻き乱す。

(美波ちゃんの身体、柔らかいなぁ……)

どこもかしこも女らしい丸みをたっぷりと湛えた身体のライン。胸板に押し付けられる軟らかな両胸の膨らみ、細い腰ときゅっと張り出した形のいいヒップ。エッチになると少しだけ大胆になってしまう恥ずかしがりの少女──。

(このコが、俺のことを好いていてくれてるんだ……)

いまさらながらにしみじみと喜びが沸き溢れてくると同時に、いつも溌剌とした美波のか弱い一面を見た思いで、なんだか胸が熱くなる。

(それにしても……部屋に二人っきりって初めて……だよな)

そう思うと、部屋の隅に寄せられた布団の存在が急に気になり始めた。今まで結ばれた二回とも外だった。それはそれで開放感に溢れていてよかったけど、部屋で落ち着いて、じっくりと美波を抱きたいという気持ちもある。

(今夜だったら……外もうるさいし……凪子さんにもバレないかも)