夏色誘惑アイランド 艶色母娘とビーチラブ

島出身の娘だろうか。船に乗っている若者たちの中で、ひとりだけまるで美しいビーチに佇んでいるかのような南国の雰囲気をまとっていた。

ハイビスカスやブーゲンビリアの華やかさというよりは、清楚な魅力に溢れるプルメリアの花を彷彿とさせる美しい少女。その姿に見惚れていると、少女が不思議そうに、それでいてはにかんだ微笑を浮かべた。

(ひとりなのかな。ちょっとでもいいから話してみたいな)

そう思った、その時──。

「きゃぁっ!」

横腹に波を受けた船が大きく揺れ、その弾みでバランスを崩した少女が宣英の胸に倒れこんできた。

(うわっ、ち、近いっ!)

腕の中にすっぽりと収まってしまった少女の身体は、華奢でいて、若さが弾けるようなすべすべの肌をしていた。ふくよかな胸が宣英の胸板にぷよんと押し付けられ、その柔らかな感触にドキリと心臓が高鳴る。甘酸っぱいパッションフルーツのような匂いが鼻腔をくすぐり、まるで南の島に歓迎されているかのような気分だ。

(ううっ、これはナイスハプニング……)

小玉スイカでも隠しているようなボリュームたっぷりの胸の膨らみが、宣英の胸板に当たりぐにゅりと横にひしゃげている。

(うっ、おっぱいが……このまま、時間が止まってくれたらいいのに……)

しかし、当然のこと、そんな宣英の願いが叶うことはなく、胸の中へとちんまりと収まっていた少女は、慌てて宣英の胸から離れると顔をまるでトマトのように真っ赤に染めてうろたえた。

「ご、ごめんなさいっ!」

「あっ、俺のほうこそ……いや、その、事故だから、気にしないで」

「はい……すみませんでした」

羞恥に頬を赤らめながら、少女が顔を上げると、照れくさそうな笑みを浮かべた。その口元から、小さな八重歯がちらりと零れ見えた。

(ううっ、このコ、すっごくカワイイなぁ……)

飾り気がなく素朴な笑顔に、健康的かつ生命力に溢れた身体。東京では滅多にみることのできないほどに、ナチュラルな魅力に溢れている少女。

(いきなり……名前とか聞いたらヘンに思われるかな。純そうだから、ナンパだとか思われたら引かれちゃうだろうし……年とか、いくつくらいなんだろう)

話してみたいが、うまく言葉が見つからない。何といって話しかければいいだろうと悩んでいると、少女が消えそうな声で言った。

「……あの。歯磨きしてもいいですか。もうすぐ、船が島に着いちゃうから」

「あっ。そうだよね。ごめん! 今どくからっ!」

慌てて身体をずらして蛇口の前を譲ると、少女はペコリと頭を下げて一歩前へと踏み出した。またも甘い果実の香りがふわりと鼻へ届く。

(うわぁ、いい匂いだ……けど、失恋したばかりだっていうのに、すぐに目移りだなんて……俺、何考えてるんだよ)

船の中に満ちているうずうずとするようなエネルギーに当てられてしまったようだ。

(でも……新しい恋が始まれば、この心の傷も癒えるわけで)

その相手が少女なら……そう思う気持ちがあるが、その恋を始めるきっかけの掴み方がわからないし、ぶつかって玉砕するほどの精神力が今の宣英にはない。

「じゃあ……バイバイ」

後ろ髪を引かれながらも、別れの挨拶をすると、少女は歯ブラシを口に咥えたまま、ぺこりと頭を下げた。

(ううっ……俺って……ヘたれだよなぁ……)

惜しむ気持ちで洗面所を後にすると、到着をつげるアナウンスが流れた。

「うわぁ、暑いなーっ!」

船から浮桟橋へと降りると、むあっとした湿気混じりの熱気に身体が包まれた。

雲ひとつない青空にぎらつく太陽からは、強烈な日差しが降り注ぎ、肌がジリジリと焦げていくのがわかる。

あらかじめ調べておいた地図によると、目的地の民宿は、港から徒歩二十分ほどの海岸沿いにあるらしい。バスに乗れば十分もかからないようだが、長時間の船旅からようやく解放された高揚感も手伝い、歩いて行くことに決めた。すぐ近くにあった自動販売機でミネラルウォーターを買うと、港から数メートルほど小高くなった道路をガードレールに沿って歩き始める。

十艘ほどの漁船が停泊している小さな港を出ると、沿岸はすぐに美しい砂浜へと変わった。メインのビーチではないせいか、海の家などはないが、ちらほらと水着姿で水遊びをしている若者たちの姿が見える。

水辺できゃっきゃと駆け遊んでいる、きわどいビキニ姿の女のコたちに目を奪われながら足を進めていると、すぐに額にじっとりと汗が浮かんできた。水滴が浮かんだボトルを口に運ぶと、冷たい水が喉を通り過ぎていく。

(みんな青春してるなぁ……本当だったら、俺もあっち側だったはずなのになぁ……実香ちゃんと夏の海でバカンスとかしちゃって……)

どこまでも高く青い空の下、美しいマリンブルーの澄んだ海ではしゃぐ若者たちの姿に、うらやましさがこみ上げてくる。ため息を漏らしてやりきれない気持ちになっていると、十メートルほど先の、ぱっと目を惹く華やかな顔立ちの少女が目に入った。

(うわぁ、可愛いけど、派手なコだなぁ)

こんがりとほどよく焼けた肌に、明るい茶色に染めた髪の毛。むっちりとした身体を包むミニ丈の花柄ワンピースの上に男好きする愛嬌のある童顔が乗っている。大きく開いた胸元からは上乳が大胆に覗き、その双胸の膨らみが、誇らしげにせり出している。そんな性的魅力に満ち溢れた少女を、水着姿の男たちが四人、囲んでいるのだが、どうやら様子がおかしい。