(なにを……されるの?)
由香里はうつむいたまま、おずおずと歩み寄った。
膝が情けないほど震えているのは、羞恥のためだけではない。どんな卑猥なことを要求されるのか、考えただけでも恐ろしかった。
「見てみろ。全然勃ってないぞ」
牛島は自分の股間を指差し、由香里のことをにらみつけてきた。
「こうなったら、お嬢ちゃんをやるしかないなぁ」
「ま、待ってください、わたしが……わたしがなんとかしますから」
意地の悪い言葉をかけられて、由香里は慌てて懇願する。娘を守るため、恥を忍んでストリップをしたのだ。ここで引きさがるわけにはいかなかった。
「そんなこと言われてもねぇ。奥さんになにができるんだい?」
牛島が口もとにいやらしい笑みを浮かべながら語りかけてくる。暗になにかを要求しているのは間違いなかった。
無理やり口でさせられたことが脳裏に浮かんだ。
あのフェラチオという卑猥極まりない行為ならば、萎えた男根を奮いたたせることができるかもしれない。
「く……口で……させてください」
言葉にした途端、身震いするほどの屈辱に苛まれる。娘を守るためとはいえ、自らの意志で夫を裏切る罪悪感がこみあげてきた。
それでもやらなければならない。
由香里はくずおれるようにしゃがみこんだ。巨漢の牛島が大きく脚を開いてベッドに腰掛けており、その膝の間で正座をするような格好だ。すぐ目の前には、醜悪な肉塊が力なくぶらさがっていた。
「や……」
「できないなら、お嬢ちゃんの部屋に行くぞ」
思わず視線を逸らすと、早くしろと急かされる。由香里は震える指先を伸ばすと、ペニスの根元に絡みつかせた。
(グニャグニャして気持ち悪い……)
背筋がゾゾッと寒くなる。
男根はやけに柔らかくて、芯がまったく感じられない。それに生温かいだけで、火傷しそうな熱気は皆無だった。これが興奮すると鉄のように硬くなり、強烈な熱を発するのだ。そうなるように刺激しなければならなかった。
「やるのかやらないのか、はっきりしろ」
「や、やります……やりますから、娘だけは……」
由香里は慌てて返事をすると、前屈みになって男の股間に顔を近づける。途端に蒸れたような悪臭が鼻腔に流れこみ、眉間に縦皺を刻みこむ。胸のむかつきを覚えながら、亀頭の裏側にそっと唇を触れさせた。
「ンンっ……」
グニッとした気色悪い感触が伝わり、思わず肩を竦ませる。それでも舌先を覗かせて、裏筋にそっと這わせていった。
「気持ち……いいですか?」
「おうっ、いいぞ。その調子でやってくれ」
牛島の嬉しそうな声が聞こえてくると、嫌悪感はなおのこと大きくなる。なにしろ自分の唇で卑劣な陵辱者が感じているのだ。勃たせなければならないとはいえ、素直に喜ぶことはできなかった。
縫い目をたっぷりと舐めまわして唾液まみれにすると、カリの周囲に舌先を這いまわらせる。牛島はときおり呻き声をあげるが、ペニスはまだ柔らかいままだ。焦りを募らせながら、亀頭部分をヌルヌルと舐めまわした。
「ンぅっ……ンふぅっ」
先端部分はとくに匂いが強烈だ。汚辱の涙を流しつつ、唾液を乗せた舌腹を擦りつけていった。
(早く、大きくなって……)
心のなかで祈るが、いっこうに勃起する気配はない。すでに亀頭はたっぷりの唾液で濡れ光っている。牛島もうっとりした溜め息を漏らしているのに、肝心のペニスは無反応なのだ。
時間ばかりが無駄に過ぎていく。このままでは、また牛島の機嫌が悪くなってしまうかもしれない。
(そんなことになったら、今度こそ沙緒里が……)
由香里は脅迫観念に駆られ、思いきって亀頭に唇を被せていった。
「はむううっ……」
魚が腐ったような生臭さが口内にひろがっていく。吐き気がこみあげるが、我慢して根元まで咥えこんだ。
「自分から咥えてくるとはな。奥さん、本当は俺のチンポをしゃぶりたかったんじゃないのか?」
揶揄する声を頭上から浴びせかけられた。
夫婦の寝室で、好きでもない中年男のペニスを口に含んでいるのだ。由香里は屈辱に震えながら、口内の男根に舌を絡みつかせる。全体に唾液を塗りつけると、頬を窪ませて猛烈に吸いあげた。
「ンふうっ……うぶううっ」
「くっ、これはすごいぞ、おおっ」
牛島の腰がヒクッと震えて、男根が急激に膨らみはじめる。胴体部分が唇を押し返すように太くなり、先端部分は喉の奥に到達した。太幹は瞬く間に熱気を帯びて、唇が灼けそうなほど熱くなった。
「むはっ……こ、これで、いいですよね?」
由香里は勃起した男根を吐きだすと、濡れた瞳で男の顔を見あげた。すると牛島の表情が見るみる険しくなった。
「おい、誰がやめていいって言った。いいところだったのに台無しじゃないか」
明らかに気分を害している。フェラチオを中断したことがよほど気に入らなかったらしい。今にも立ちあがって娘の部屋に向かいそうな雰囲気だった。
「す、すみません。もう一度最初からしますから」
「もういい。奥さんには失望したよ」
慌てて亀頭を咥えこもうとするが、冷たい声で拒絶された。
このままでは、また娘が餌食にされてしまう。由香里は顔を引き攣らせて、必死の思いで唾液にまみれたペニスを扱きはじめた。
「お願いです。今度はしっかりおしゃぶりします。だから……」