母娘喰い 奪われた媚肉

母親の顔には驚愕の色が浮かんでいる。なにが起こっているのか理解できないといった様子だった。

「由香里くん。久しぶりだね」

社長と呼ばれた男がニヤリと笑う。だが、その目には異様な光が宿っている。牛島と同じ種類の、欲望にまみれた獣の目だった。

「お嬢ちゃんは知らないだろうから教えてやるよ。このお方はフューチャー事務機の社長、くろさんだ。つまり、お嬢ちゃんのパパの会社の偉い人ってことだ」

牛島が自慢気に説明する。社長を紹介することで自分まで偉くなったつもりでいるのか、無駄に胸を張って反っくり返っていた。

「どうして、黒木社長がここに?」

由香里の疑問に答えたのは、やはり牛島だった。

「それなんだけどね、奥さん。ちょっといろいろあって、黒木社長のお相手をしてもらいたいんだよ。普段着を指定したのは社長の好みだ。人妻っぽさがいいんだよ」

「お相手、って……つまり……」

そうつぶやいたきり、由香里は黙りこんだ。その瞳には驚きと怯え、それに恐怖が浮かんでいた。

「お嬢ちゃんも頼むよ。くれぐれも失礼のないように」

牛島に笑いかけられて、沙緒里は思わず首を左右に振った。

お相手をしろというのは、つまりはいやらしい接待をしろということだ。父親が働いている会社の社長に、なぜそんなことをしなければならないのだろう。

「わかんない……どうして社長さんの相手をしないといけないの?」

沙緒里の頭のなかは疑問だらけだった。

牛島と黒木はグルだったのだろうか。それとも、じつは黒木の指示で牛島が動いていたとか……。いずれにせよ、ホテルの一室で淫らな行為を強要されるのは間違いなかった。

「牛島、肝心なところが抜けてるじゃないか」

黒木が薄笑いを浮かべながらしゃべりだした。

「この男は知ってのとおり、まったく仕事ができなくてね。いよいよ辞めてもらおうと思ったら、女を紹介するから待ってくれと言ってきたんだ」

それを聞いた牛島は、苦笑いを浮かべながら頭を掻いている。つまりは社長を性接待することで、解雇をまぬがれようという魂胆らしい。いかにもこの卑劣な男が考えそうなことだった。

「ママ……」

沙緒里は恐ろしくなり、隣に立っている母親の腕を掴んだ。すると、由香里は大丈夫と言うように、手をしっかりと握ってくれた。

「で、でも……どうして、わたしたちなのです?」

由香里が震えた声で質問する。すると黒木は遠い目をしてつぶやいた。

「キミがまだ新入社員だった頃から気になっていたんだ。いやぁ、じつに可憐だったよ。由香里くんが結婚退職すると聞いたときはショックだったな」

どうやら昔から一方的に想いを寄せていたらしい。しかし、それは純粋な片想いだったようだ。それが、なぜこのような事態に発展したのだろう。

「去年還暦を迎えたことで、人生を振り返ってみたんだよ。真面目にこつこつ生きてきた自分へのご褒美に、昔の恋を成就させたいと思うようになってね。恥ずかしながら、ここのところ家内とはすっかりご無沙汰なんだよ」

「まさか、それでわたしを?」

「うむ。牛島がキミを紹介してくれると言ってきたときは驚いたよ。こんな偶然があるとはね。なんでも、キミは牛島に逆らえないそうじゃないか」

黒木は目をギラつかせて、唇のまわりを好色そうにペロリと舐めた。そして牛島よりもひとまわり大きい体を揺らし「ハハハッ」と、さも愉快そうに笑うのだ。

「もちろんふたつ返事で承諾したよ。なにしろ由香里くんを抱けるんだからね。しかも、お嬢さんもいっしょだというじゃないか」

欲望丸出しの目を向けられて、沙緒里は反射的に肩を竦めた。

母親の腕に縋りつくと、そっと抱き寄せてくれる。しかし、その母親の腕も小刻みに震えていた。

「大丈夫……大丈夫よ」

一所懸命に励まそうとしてくれる。だが、その言葉になんの根拠もないことは、母親自身が一番よくわかっているのだろう。声はあまりにも小さく自信なさげで、すぐに黙りこくってしまった。

シティホテルの豪奢な部屋で、いよいよ淫らな饗宴が開催されようとしていた。

牛島はソファにどっかりと腰掛けている。社長の邪魔をしないように傍観者に徹するつもりらしい。その顔には期待に満ちた笑みが浮かんでいた。

「二人とも、さっそくだが服を脱いでもらおうか」

黒木が嗄れた声で語りかける。口調こそ柔らかいが、それは命令に他ならない。逆らえば、牛島がすべてを浩志に話してしまうのだ。

「そんな……ママ、どうしたらいいの?」

沙緒里は母親の腕を掴み、駄々をこねるように揺らした。牛島だけでも嫌だったのに、さらに別の男の人にも裸を見られてしまう。そんなことを簡単に受け入れられるはずがなかった。

「黒木社長……冗談、ですよね?」

由香里がこわばった表情で尋ねる。沙緒里と同じで、この状況に戸惑いを覚えているようだった。

「冗談でこんなことが言えるかね。早く脱ぐんだ」

その目には強要するような光が宿っている。本気で部下の妻と娘を嬲ろうとしているのだ。とても一企業の社長とは思えない、欲望に満ちた表情だった。

「ご主人がリストラされたら困るだろう?」

「な……ひ、ひどいです……」

「新築のローンはどうやって払うつもりだ? 家族三人で路頭に迷うことになるぞ」