小声で懇願する声は、途中で意味を成さない呻き声に変わってしまう。口にタオルを噛まされたのだ。最初から口を塞ぐために用意していたらしい。そのままうつぶせに転がされて、後頭部でタオルをきつく縛りあげられた。
「うむむっ……」
「これで無駄口を叩けなくなったな。両手を背中にまわすんだ」
牛島が耳もとで囁いてくる。恐ろしかったが抗うわけにはいかなかった。枕に頬を押しつけたまま、両腕をゆっくりと腰の上に置く。すると手首に硬くて冷たい物が押しつけられた。
金属的なガチャッという音とともに、両手首になにかを嵌められてしまう。ずっしりとした重さが、言いようのない不安を煽りたてた。
「手錠だよ。SMショップで買ったオモチャだけど、よくできてるだろう?」
疑問に答えるように、牛島が耳打ちしてくる。こんな物まで準備しているということは、最初から計画的だったと考えていいだろう。
(手錠だなんて、そんな……)
慌てて腕に力をこめるが、手首に硬い物が食いこむだけでびくともしない。鎖のジャラジャラという音が、拘束された事実を伝えるように響いていた。
刑事ドラマでしか見たことのない手錠が、自分の手首に嵌められている。そう思うと身震いするほどの恐怖が湧きあがってきた。
(引っ越しの手伝いに来たのも、浩志さんにビールを飲ませたのも、きっと……)
考えれば考えるほど恐ろしくなる。突発的な犯行ではないとしたら、この男はどういうつもりで我が家を訪れたのだろう。
そういえば、牛島はこの春から夫が課長を務める部署に異動になったという。もしかしたら、後輩である浩志が上司になったのが面白くなくて、こんなことをしているのかもしれない。
「うくっ……」
そのとき、仰向けに戻されて思わず呻き声が漏れた。
手錠をかけられた両手に自分の体重がかかり、鈍い痛みがひろがっている。手首に金属の輪が食いこんでいるのだ。しかし、それよりも牛島の異様に血走った目のほうが気がかりだった。
スタンドライトの光が、由香里の腰をまたいで膝立ちになった男を照らしだしている。脂肪だらけの醜い体と禿頭が、闇のなかに浮かびあがっていた。
(ひっ……な……なに?)
タオルで猿轡を噛まされていなければ悲鳴をあげていただろう。
やはり牛島は全裸になっており、その股間から野太い男根が天に向かってそそり勃っていた。それは、まるでバットのように巨大な逸物だった。
漆塗りを思わせるほど黒光りしており、大木の枝のごとくゴツゴツしている。先端は破裂しそうなほど膨らんで、胴体部分との段差が凄まじい。とにかく人間離れした圧倒的な巨根だった。
(や、やだ……浩志さんと全然違うわ)
由香里は夫としか経験がない。だから、夫のペニスが大きいのか小さいのか、まったくわからなかった。しかし、牛島のそれは普通ではない迫力がある。見せつけるだけで女を屈服させるような威容を誇っていた。
浩志のどこかユーモラスな可愛らしさのあるジュニアとはまったく違う。牛島のペニスは、肉の凶器と呼んでもいいほどの暴力的な雰囲気を漂わせていた。
(怖い……浩志さん)
思わず隣をちらりと見やる。
夫は妻の危機も知らず、幸せそうに眠っていた。あれだけビールを飲まされたのだから起きるはずがない。それはわかっているが、どうして助けてくれないのと少し恨めしい気持ちになってしまう。
「寝るときはノーブラか。おっぱいが透けてるじゃないか」
由香里が大人しくなっていることに気をよくしたのか、牛島は唇の端を吊りあげてにやりと笑う。そして、包丁を脇に置くと、いきなりネグリジェの胸の膨らみを鷲掴みにした。
「はううっ……」
嫌悪感に身を捩るが、手錠をかけられていては逃げられない。タオルを噛まされているので声をあげることもできなかった。
(いやっ、触らないでっ)
夫以外の男に触れられるのは初めてだ。嫌悪感が全身にひろがり、こらえきれない涙が溢れだした。
「これこれ。このでかい胸を揉んでみたかったんだ」
薄い布地越しに、柔らかい乳房を揉みしだかれる。ねっとりとした手つきがいやらしい。牛島は粗暴そうな外観に反して、妙にやさしく胸を弄んだ。
「どうせなら生で揉ませてくれよ。減るもんじゃないし、構わないよな?」
ゆったりとしたネグリジェの襟もとをひろげられ、双乳を無理やり露出させられてしまう。たわわに実った乳房が、男の目の前で剥きだしになったのだ。
(やめてっ、見ないでっ、あああっ)
夫にしか見せたことのない柔肌に、無遠慮な視線が這いまわる。とても現実のこととは思えず、悪夢を見ているような錯覚に陥っていた。
「乳首はピンク色だし、このモチモチした手触り、おおっ、気持ちいいっ」
牛島は間髪を容れずに手のひらを這わせて、吸いつくような肌触りを堪能する。乳首を指の間に挟みこみ、時間をかけて柔肉を揉みまくった。
「んんっ……うむううっ」
乳房から全身へと駆け巡る汚辱感は、残念ながら悪夢ではなく現実のものだ。抗議の呻きを漏らすが、牛島がやめる気配はない。毎晩たっぷりの乳液を擦りこんでいる乳房は、皮肉なことに男を激しく興奮させていた。
さらに乳首を摘まれて、電流のような刺激が突き抜ける。絶妙な力加減で、痛みを感じない程度に強く乳首を転がすのだ。