放課後の蜜肌教室 人妻女教師と優等生

「朝の授業のときもあたしの胸をじいっと見ていたでしょう。ちゃんと気づいてるんだからね。授業に身が入ってないわよ、浅野くん」

茶に染めたショートヘアを苛立たしげにかきあげる。眉間にかすかな皺を寄せ、真弓の視線が幸太を射抜いた。

「先生を見ていると、頭の中がカーッとなっちゃって。すみませんでした……先生に見とれて、どうしても授業に集中できなくて」

幸太は深々と頭を下げて謝った。大好きな女教師の不興を買ってしまったことが心苦しくて、ひたすらに謝罪を続ける。

「もういいわ、頭を上げなさい」

真弓が小さくため息をついた。眉間に寄っていた皺はいつの間にか消え、瞳には穏やかな光が灯っている。

「あたしこそごめんなさい。冗談のつもりで怒ってみせたんだけど、少しからかいすぎたわね。そこまで真に受けるとは思わなかったの」

ルージュの塗られた朱唇がカーブを描き、優しい笑みを形作った。

大人の包容力を感じさせる魅惑的な笑顔に、幸太はぽうっと見とれてしまう。

「浅野くんって真面目なのね。可愛いわ。ふふ、うちの旦那とは大違い」

興味津々とばかりに真弓が顔を寄せた。唇が触れあわんばかりに二人の顔が接近する。すぐ間近に女教師の美しい相貌があった。

(キスしてみたい)

ぷるん、とかすかに震える朱唇を見つめ、本能的な衝動がこみあげる。生まれて初めての口づけを憧れの女教師に捧げられたら──そんな想像が脳裏をよぎり、胸の鼓動が高鳴った。なかば反射的に目をつぶる。

次の瞬間、幸太の唇に柔らかな感触が触れた。

(えっ……!?)

熱い肉塊を口に含んでいるような、不思議な感触だった。幸太は、自分が真弓とキスをしているという事実にたちまちパニック状態となる。ずっと憧れていた女教師の唇は柔らかく、それでいて蕩けるような甘さがあった。

相手の唇の隙間からもれる吐息にくすぐられ、夢見心地になる。互いの唇が触れあっていた時間は数秒程度だったが、幸太にはまるで三十分にも一時間にも感じられた。

「驚いた? お詫びのしるしよ。浅野くんがあんまり可愛いから、つい」

唇を離すと、真弓は悪戯っぽく微笑んだ。朱唇が幸太の唾液でわずかに濡れている。

「あ……あ……」

幸太は呆然と目を見開き、自分の唇を指の腹で撫でた。熱い。生まれて初めて異性に触れた唇は信じられないほど熱を持っていた。

「君のファーストキス、先生が奪っちゃったかしら」

(本当にあの真弓先生とキスしちゃったんだ……)

理性が一気に赤熱し、はじけとんだ。無我夢中で女教師に歩み寄った。

襲いかかるような勢いで抱きつき、唇を突きだす。童貞の少年らしいぎこちない動きで、今度は自分から真弓に口づけを迫った。

「うふ、若いのね」

真弓は嬉しげに微笑んだまま避けなかった。

「んっ……」

二人の唇がふたたび重なりあう。今度はファーストキスのときと違い、感触を味わう余裕があった。グミのように柔らかい唇に自分の唇を触れあわせていく。まろやかで、蕩けるようで……極上の感触に幸太は酔いしれた。

(夢じゃないんだ。僕が、あの真弓先生とキスしてる……)

ずっと夢見ていた女教師との口づけは、想像以上に甘美で心地よかった。

と、上下の唇を割って、ぬるりとしたなにかが押し入ってきた。あっという間に深々と差しこまれ、幸太の舌の先端から腹までをねぶる。さらには頬の裏側や口蓋までを舐めまわされた。

「んむっ……くぅっ」

真弓の舌が口内に侵入しているのだ。ただ唇を触れあわせるだけの口づけとはまるで違う、大人のディープキスだった。

(わわっ、舌なんて入ってきちゃった! ど、どうすればいいんだろ……)

無論幸太には攻め返すようなテクニックはない。妖艶な舌使いに鼻腔から息をもらし、女教師のなすがままに口の中いっぱいを舐められ、しゃぶりつくされる。

(ふわ、気持ちいいよぉ……先生に、食べられちゃいそうだ)

「ふうっ」

唇を離すと真弓が艶っぽい吐息をこぼした。二人の唇の間を唾液の糸がつなぎ、透明な橋のようになっていた。軽く茶に染めたショートヘアを軽くかきあげ、わずかに上気した顔を幸太に向ける。

一方の幸太は魂が抜けたような心地だった。初めてのキス、そして今のディープキスで身も心も蕩けるようだ。唇にはまだ燃えるような火照りが残っているし、口の中には女教師の甘い唾液の味が広がっていた。

それでもまだまだ満足できない。何度でもキスしたい。そんな思いに駆られ、幸太は熱に浮かされたような歩調で真弓に近づく。

みたび女教師と唇を重ねようと、幸太が顔を寄せた。真弓もまた熱っぽい息を吐き出しながら、同じように顔を近づける。

その瞬間、突然教室の扉が開き、幸太と真弓は同時に硬直した。

扉を開けて入ってきたのは一人の女子生徒だった。

キスしようとした体勢のまま幸太は硬直する。

「補習中にすみません。忘れ物をしてしまって」

「──気にしないでいいのよ、しんどうさん」

一方の真弓は即座に表情を切り替えると、軽くうなずき、何事もなかったかのように振る舞う。このあたりはさすがに大人の余裕だ、とおかしなところで感心した。

彼女……新藤はつぶらな黒瞳を遠慮がちに伏せ、自分の席まで歩いていく。肩のあたりで切りそろえた黒髪のショートボブが童顔によく似合っていた。おとなしく引っこみ思案な性格のためか、よく見れば可憐な容姿をしている割にクラスでは目立たない存在だ。