放課後の蜜肌教室 人妻女教師と優等生

「私、浅野くんと先生が……しているところを見たの」

幸太は心臓が止まるほどの衝撃を受ける。昨日は夢中だったから誰かに見られているなどと考えもしなかった。

「見たって、な、なにを」

「いやだ、そんなこと……だから、えっと……」

百合がますます恥ずかしそうな顔をすると、その表情で幸太はすべてを悟った。

(まさか新藤さんに見られていたなんて)

女教師との関係は誰にも明かすわけにはいかない絶対の禁忌だった。

──君には将来があるもの。それを壊すような真似はしたくないの。

かつて真弓に言われた言葉を思い出す。幸太のことを思い、関係が公にならないよう気遣ってくれていたのに。

(僕のせいだ。放課後の教室なんて誰に見られるかも分からないのに、僕が調子に乗って先生を誘ったから)

後悔の念がこみあげるがもはや遅かった。

「あっ……か、勘違いしないで」

百合があわてたようなそぶりで言葉を継いだ。

「私、このことは誰にも話してないの。浅野くんを困らせたくないから。誰かに話すつもりもないし」

「秘密にしてくれるってこと? ……ありがとう、新藤さん」

幸太は安堵の気持ちでほっと胸を撫で下ろす。てっきり真弓との関係が公になってしまうのかと危惧したが、どうやら杞憂に終わりそうだ。考えてみれば百合はそういう噂話を広めて喜ぶようなタイプには見えない。

「いつから、なの?」

ふいに百合が口を開いた。どこか思いつめたような顔で声を震わせる。

「真弓先生との関係はいつから続いていたの? 昨日のことは秘密にするから……その代わりに教えてほしい」

(新藤さん……?)

どうも百合のようすがおかしかった。血の気の失せた顔でじっと幸太を見つめている。彼女の真意がどこにあるのかまるで理解できない。

「秘密にするって約束なんだ。先生との。だからこれ以上は……ごめん」

「私には教えてくれないの……? 私だけ、仲間外れなのね」

悲しげに目を伏せる百合に幸太は戸惑いながら言葉を返した。

「な、仲間外れっていうか。真弓先生と約束したことだから、破りたくないんだよ」

「……私だってちゃんと秘密にする、って約束したわ。だから教えてほしいの……お願い」

百合が潤んだ瞳で上目遣いに幸太を見上げた。吸いこまれそうなほど深い漆黒の瞳に見つめられて息が詰まる。二人の間に重苦しい沈黙が流れる。

「──分かったよ。全部話す。話すから、このことは僕らだけの秘密にして」

それ以上はとても断れる雰囲気ではなく、やむなく幸太は真弓との関係を洗いざらい暴露することになった。

二人きりの補習授業のときに初キスを交わし、童貞を捧げたこと。階段の踊り場でフェラチオやクンニリングスをしたこと。夜のプールや屋上で真弓と交わったこと。

百合は一言も発さずに幸太の話を聞いていた。聞けば聞くほどに白い相貌を真っ赤に染め上げ、最後には深々とため息をこぼす。

「これで全部だよ。気がすんだ、新藤さん?」

「……どうして」

ようやく解放される、と安心したのもつかの間、先ほどまで黙っていた百合が突然口を開いた。か細い肩を小刻みに震わせながら叫ぶ。

「どうして真弓先生なの? たしかに真弓先生は美人だし、スタイルもいいし、素敵な女の人だと思う。でも……でも、私は──私だって」

「新藤さん?」

驚く幸太の前で百合は堰を切ったように言葉を投げかける。あふれだして止まらない。潤んだ瞳でまっすぐに幸太を見つめ、とうとう決定的な一言を告げた。

「私だって……浅野くんのことが好きなのに」

幸太は呆然としておとなしい同級生を見つめていた。やがて、なかばパニックに陥りながら、思考だけが加速し、先ほど言われた台詞を反すうする。

(新藤さんが、僕を好き? 聞き間違いかな? いや、たしかに『好き』って言った……僕のことを、新藤さんが好きだって……)

めまぐるしく巡る思考とは裏腹に心の中には嵐が吹き荒れているようだった。息が詰まるような思いとともに、あらためて百合の顔を見つめた。おとなしい性格のために目立たないが、百合はかなりの美少女だ。

綺麗な卵形の輪郭に縁取られた可憐な顔だち。いかにも男の保護欲をそそる大きくつぶらな瞳。ショートボブにした艶のある黒髪。

勝気で派手な美貌の持ち主である真弓とは対極的な容姿で、まったく別種の魅力と美しさを備えている。

「あ、浅野くんは……私のこと、どう思っているの?」

百合が一歩近づいた。羞じらいと緊張で爆発しそうになっているのか、可愛らしい顔を真っ赤に染めている。

幸太は完全に気圧されてしまう。全身がこわばったまま動けなかった。

「迷惑だった? それとも──」

(こんな近くに、新藤さんがいる)

幸太は百合の息遣いを、体温までをも肌で感じていた。衝動的に身体を前に乗り出した。同じく百合も最後の一歩踏み出す。互いの熱情をぶつけあうようにして二人は顔を寄せた。

幸太の視界に百合の顔が近づいてくる。閉じたまぶたの下で長い睫が震えていた。

(新藤さん……可愛い)

胸の奥が熱くうずく。清潔なシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。

幸太と百合は同時に、さらにもう一歩足を踏み出し──

ちゅっ、と可愛らしい音を立てて二人の唇が重なりあう。もぎたての果実を口にしているような清涼感があった。舌を絡めることもなく唇を軽く触れあわせ、そして離れる。いつも真弓としているようなキスとは比べ物にならないほど稚拙で子供っぽいキスだ。