「そんなんじゃない……百合ちゃんの初めてをもらえて、僕は嬉しかった。満足してるよ。本当だ」
せめて嘘だけはつくまいと幸太は真剣な口調で言った。小手先のごまかしをしても、この純真な少女を傷つけてしまうだけだ。
百合はうつむいたまま何事かを考えこんでいるようだった。流れた沈黙が、全身に重くのしかかる。
「──私、幸太くんの家に行きたい」
やがて顔を上げた百合は、か細い声に驚くほどの熱情をこめて告げた。
「教室でも、プールでも……誰かが来るのを気にしながらするのは、いや。誰もいない場所で思いっきり抱きしめてほしいの」
(百合ちゃんから積極的に誘いかけてくるなんて)
大胆な提案に幸太は驚きを禁じえなかった。今にも泣き出しそうな顔をしている百合と正面から見つめあう。
(もしかしたら百合ちゃん、真弓先生に劣等感を持って──)
先ほどから百合の視線は一度も揺らぐことなく幸太をまっすぐに見つめている。濡れたような黒瞳に燃え上がりそうな恋心をこめて。あらためて彼女の、幸太に対する想いが胸に染み入ってくる。
「だめかな、幸太くん? 私、幸太くんともっと……」
百合は自信なさげにうつむき、細い両肩を細かく震わせた。崩れ落ちてしまいそうなほど儚い表情に、幸太は胸の奥を錐で突き通されるような痛みを覚えた。
(百合ちゃんをこのまま不安にさせたくない。安心させてあげたい……!)
同時に燃え上がるような衝動がこみあげ全身を火照らせる。百合の抱いているネガティブな感情を払拭させるためには気がすむまで彼女を抱きしめ、睦みあうことだと思った。
「い、いやなら、いいよ。ごめんなさい、幸太くんを困らせるつもりは……」
「いやじゃない!」
幸太は、自分でも驚くほど大きな声で否定した。
「僕の家に行こう。僕も──もっと百合ちゃんと一緒に過ごしたいから。誰の邪魔も入らない場所で」
心臓が痛いほど早鐘を打つのを感じながら、幸太は百合の手を引いて駆け出した。教室に戻ってせわしなく帰宅準備を整え、二人で連れ立って幸太のアパートへと移動する。
八畳一間1DKのアパートに入ると、フローリングの床にクッションを二つ用意し、それぞれ腰を下ろした。
「押しかけたみたいでごめんね。私、ついカーッとなって」
「百合ちゃんって意外に気が強いところ、あるのかな」
「わからない……私、こんな気持ちになったのは初めてだから。真弓先生とのこと──ヤキモチ妬いてる」
百合が素直に告白する。
「嫉妬深い女でごめんね。幸太くんもいやだよね、こんなの……」
「何回も謝らないで。百合ちゃんは悪くないよ」
(むしろ悪いのは僕なのに)
幸太は自己嫌悪に陥り、うつむいてしまう。
「私は幸太くんと一緒に過ごせたら、それでいいよ。幸太くんを好きな気持ちはずっと変わらないから」
百合は声を震わせ、詰まらせながらの言葉に自分の思いを乗せていく。
「いつかあなたが振り向いてくれるまで──私、がんばるから」
(この子に、これ以上悲しい思いをさせたくない)
幸太は無言で百合を引き寄せると、華奢な身体を両腕でしっかりと抱きしめた。相手の身体の震えがつたわってくる。喜びと、そして興奮の脈動だ。
幸太はそのままの勢いで百合を押し倒し、フローリングの床の上で二人の身体が折り重なった。
「百合ちゃんっ、百合ちゃんっ」
何度も相手の名前を叫びながら綺麗な桃色の唇にむしゃぶりつく。どちらからともなく舌を絡め、互いの唾液をすすりあった。
「ふ、んむっ」
百合の唾液は果汁を思わせる甘い味だった。たっぷりとすすりあげると、今度はお返しとばかりに自分の唾液を相手の口中に注ぎこむ。
「んちゅ、ん、ぐっ」
濃厚なキスを重ねながら相手の身体に体重をかける。
「痛い……」
百合がかすかに顔をしかめた。フローリングの床の上は固すぎて背中が痛むようだ。
「待ってて。すぐに布団敷くから」
幸太は押入れを開けて布団を取り出した。布団を床に敷いている間の沈黙が妙に息苦しい。緊張感と期待感が入り混じり、胸がざわつく。やがて部屋の中央に布団を敷き終え、幸太と百合はその上に正座をして向かい合う。
「じゃあ……」
それ以上言葉が出てこなかった。初めてでもないのに妙に緊張する。だが考えてみれば自分の部屋で誰かと身体を重ねるのは初めてだ。真弓との行為は常に学校内でおこなわれていたのだから。
(ふう、外でする以上に緊張するな。どうしてだろ)
部屋の中の静寂にかえって圧迫感を覚えるせいだろうか。幸太は百合のベストを脱がせ、さらにブラウスのボタンをひとつひとつ外していった。
ブラウスの下からあらわれたのはこの間と似たデザインの白いブラジャーだ。清純な少女にふさわしい色合い。カップの縁には小さなレースがついている。
「……な、なるべく可愛いデザインのを選んできたの。幸太くんに見られてもいいように、と思って」
百合が気恥ずかしそうにささやいた。
幸太は小さなカップごと百合の乳房を手のひらで包みこんだ。ちょうど手の中にすっぽり収まるサイズだ。ギュッと絞り、瑞々しい感触を楽しむ。
「あんまり大きくないから、私……恥ずかしい」
「恥ずかしがることないよ。すごく可愛いと思う」
素直な感想を告げると、百合は羞恥と喜びがないまぜになったような顔をした。