放課後の蜜肌教室 人妻女教師と優等生

前の席の楠木が振り返って幸太にささやきかけた。

「そう? 前から色気のある先生だったと思うよ。綺麗だしスタイル抜群だし」

「うーん……そういう外面だけじゃなくってさ、内側からほとばしる……なんかこうエロスっていうか」

と、力説される。

「え、エロス……?」

「とにかく前よりも、もっとずっと色っぽくなったってことだよ。最近の先生、もともと美人だけどもっと綺麗になってるって。ああ、憧れるなぁ。俺なんてもう授業受けてるだけで勃ってきて──」

下品な台詞を言いかけたところで女子生徒の一人ににらまれた。

朝からいやらしい話ばっかりして──そんな心の声を聞いた気がして、楠木ともども幸太もあわてて口をつぐんだ。

(たしかに言われてみれば……)

幸太はふたたび教壇の真弓へと視線を向ける。ボリュームのある胸元はより大きく張り出し、腰のあたりも丸みを帯びているように見えた。外面だけではなく内側からほとばしるエロスという先ほどの言葉も納得できる。幸太とセックスを重ねることで、もとから兼ね備えていた艶やかな色香により磨きがかかっているのだろうか。

(本当に綺麗になってるよな、真弓先生)

幸太は幾度となく抱いた女教師の裸身を思い浮かべ、股間を熱くした。かなうことなら今すぐにでも真弓とともに抜け出し、身体を求めたいくらいだ。

──やがて授業が終わると百合が話しかけてきた。彼女に話しかけられるのは今日二度目だ。ずいぶんと珍しい出来事に幸太は軽い驚きを覚える。

「えっと、なんだっけ?」

「今日は私と浅野くんが日直だから、確認に来たの……忘れてないとは思うけど」

「あ、そうだったっけ? ……ごめん、忘れてた」

幸太はアッと思い、頭をかいた。真弓のことばかり考えていて頭の中からすっかり消えていたのだ。正直に謝ると百合はおかしそうにくすりと笑った。

「放課後に教室の後片付け、手伝ってね。私もやるから、二人で……」

踵を返した百合に、幸太は背中越しに声をかける。

「そうだ、新藤さん。今朝のこと」

「えっ?」

「僕になにか言いかけてただろ。あれ、なんだったの?」

「今朝のって……それは、その……」

いったん振り返った同級生の少女はたちまち顔を真っ赤に染め、照れくさそうに顔を背けた。もじもじと身体をよじり、そのまま口をつぐんでしまう。

「……ごめんなさい。なんでもないの」

消え入りそうな声でつぶやき、百合は逃げるように去っていった。

「なんだったんだ?」

結局、百合が言わんとしたことは謎のままだ。去っていく同級生の後ろ姿を幸太は眉をひそめたまま見送った。

放課後。幸太と百合は二人で教室の片付けをおこなっていた。期末試験が近づいていることもあってみんな帰宅が早い。教室の中には幸太たちの他には誰もいなかった。

「ごめんなさい。結局、浅野くんにほとんど運んでもらって……」

百合がすまなさそうに頭を下げた。肩のあたりまである黒髪が蛍光灯の光に反射して綺麗な光沢を放つ。

幸太はふと、大和撫子などという古めかしい単語を頭の片隅に思い浮かべた。

「そんなこと気にしないでいいよ。僕、一応男だしね。力仕事なら任せて」

わざと冗談っぽい口調で笑う。

百合も小さく微笑んでもう一度礼を言った。

「ありがとう、浅野くん。……あら、もうすっかり夕方ね」

窓の外から差しこむ夕陽を見つめてつぶやいた。教室の床や机がオレンジ色の光と影に染め分けられている。日本史の資料を片付けているうちにすっかり遅くなってしまった。

「今日の日直ははずれだよな。なんであんなにたくさん資料がいるんだろ。片付けるほうはいい迷惑だよ」

うえはら先生は教育熱心だから……いつもたくさん資料を用意するもの」

幸太が文句を言っていると思ったのか、百合が日本史の教師をフォローした。

(けっこう細やかな気配りをする子なんだな、新藤さんって)

驚きと感心の入り混じった気持ちで同級生の少女を見つめる。

そこで会話が途切れて短い沈黙が流れると、薄暗い教室に二人っきりでいることもあり、微妙に気まずい思いがこみあげてきた。真弓とならいくらでも会話が続くのだが、口数の少ない百合が相手だとどうしてもこういう雰囲気になってしまう。

「もう遅くなっちゃったね」

「ええ……」

「じ、じゃあ、僕はそろそろ帰るから」

その雰囲気から逃れるように幸太は踵を返した。本来帰宅部の彼にとって放課後は一目散に家まで帰るだけだ。こんな時間まで残ることはほとんどない。

……ただし最近は放課後の教室で真弓と交わったりもするが。

「あ、あの……」

帰り支度を整え、教室を出ようとした幸太に百合が背中から声をかけた。いつも通りのか細い声を必死で張り上げるようにして。

何気なく振り返ると、百合がこちらをまっすぐに見つめていた。つぶらな黒瞳が潤んでいる。今にも泣き出しそうな表情だった。

「あの……今朝の話の、続き」

「今朝の話? ……ああ」

なんのことかと記憶を探り、数瞬後にようやく思い出した。

「私……私、昨日ね……」

百合が途切れ途切れに言葉を継ぐ。そこでまた恥ずかしそうに口ごもってしまう。言いたいことがあるならさっさと言ってくれ、とさすがにじれったさを覚えたそのとき、百合が決定的な一言を放った。