家庭教師と隣の母娘 誘惑の個人授業

白いブラウスにダークブルーの膝丈スカートという、品行方正を絵に描いたようなきっちりファッション。

茉莉が外出するときの定番スタイルだが、優也の部屋に来るときはTシャツやショートパンツといったラフな服が多い。

「あれ、どうしたの、茉莉ちゃん?」

「先生もわかるんですか。今日の服はわたしの一番のお気に入りなんです」

ドアを入ったところで、茉莉はモデルの決めポーズをまねた動きを見せた。

優也は困惑するだけだ。大学にはやたらと服にくわしくて、意味不明のファッション用語を使う男もけっこういるが、優也にはさっぱりわからない。

「いや、ぼくには、服の細かい違いはよくわからないなあ」

「やっぱり」

茉莉の顔に浮かぶわずかな落胆を発見して、優也はますます困惑させられる。茉莉が自分のファッションのことを優也にたずねたのは、一年あまりのつきあいで、今日がはじめてだ。

「ぼくがどうしたのと言ったのは、今日は繭さんだけが来ると聞いてたからだよ」

茉莉は靴を脱いで、ダイニングキッチンに上がった。

「母さんは、午前中に出版社から、次に出る本について大問題が起きたという電話があって、飛んでいきました。そのうち先生にも、母さんから連絡の電話があると思います。今日はわたしが予定を変更して、昼ご飯を作りに来ました」

「それはありがたいけど、茉莉ちゃんも大事な用事があるんじゃなかったのかな」

「ただ友達と遊びに行くだけだから、わたしがいなくても平気」

茉莉はブラウスの上に、優也のキッチンに置きっぱなしの自分用エプロンをつけた。冷蔵庫を開けて、鶏肉を出し、慣れた手つきで包丁で切っていく。

(おかしいな)

と、優也は首をかしげた。

(料理を作りに来たのに、どうして茉莉ちゃんは今日にかぎって、いい服を着てるんだろう?)

疑問に思いながら、キッチンシンクの前で動く茉莉の後ろ姿をながめた。

いつもなら、なんでもない日常の光景だ。現在のギプス生活になる前から、隣の仁志乃家のキッチンでよく目にしてきた。

見慣れた茉莉の後ろ姿に、ふいに白い裸体が重なる。

「あっ」

つい、声が漏れた。カーキ色のハーフパンツの中で男根が暴れている。

茉莉が鍋を手にしたまま、腰をひねってふりかえる。

「どうしたの、先生?」

「なんでもないよ」

優也はさりげなく脚を動かして、なんとかハーフパンツの前のつっぱりが目立たない体勢になった。

「えーと、昨日の夜から思い出そうとして思い出せなかったものが、今、急に頭に閃いたんだ。それだけさ」

ごまかしながら、優也は茉莉の姿態を見つめてしまう。身体をひねったおかげで、茉莉の全身が絶妙なラインを描き、また繭の裸身を思い起こさせた。

(なにを考えてる。茉莉ちゃんはまだ十六歳だぞ。高校一年生だ。ぼくの生徒なんだ。そんな目で見てどうする!)

下半身の昂りに、静まれ、静まれ、と命じながら、優也は茉莉を見つづけた。どうしても視線をそらせることができない。

テーブルを挟んで二人で昼ご飯を食べているときにも、優也の視線はついつい茉莉の胸にそそがれてしまう。白いブラウスの布地は充分に厚く、素肌やブラジャーが透けることはないのに、母親の色白の肌が重なって見える。そのことに自分で気づくたびに、優也は自責の念に駆られた。

二人で食器をかたづけると、優也の正面に茉莉が立った。

「えっ?」

ダイニングキッチンのテーブルのわきで、優也はわけもわからず立ちすくむ。今にも緑のランニングシャツの胸と、白いブラウスの豊かなふくらみが触れ合いそうな距離で、茉莉はじっと優也の顔を見つめてくる。優也のほうが背は高いので少し上げた顔は、委員長タイプの端正な美貌。にらみつけられると、女子高生らしくないけっこうな迫力があった。

「なに? いきなりどうしたの、茉莉ちゃん?」

「先生、すっごくガッカリしてるでしょう。母さんが来なくて」

「そんなことないよ。茉莉ちゃんが作ってくれるおかずはおいしいよ。まあ、確かに、料理の腕前は繭さんのほうが上だけど、それは年齢のなせる技だ。茉莉ちゃんも経験を積めば。いや、ろくな料理も作れないぼくが、上から目線で、なにを偉そうなことを言ってるんだか」

「ごまかさないでください。先生は母さんと」

茉莉は言葉を切り、深く息を吸う。小鼻がかわいくふくらむ。形のよい眉をキリリと吊り上げて、きっぱりと宣告した。

「セックスする予定だったんでしょう」

優也は思わずキッチンから隣の居間へ、あたふたと後ずさりする。茉莉はすたすたと脚を動かし、優也を追って居間に入った。

茉莉は後ろ手で、居間とキッチンを仕切る引き戸を閉めると、再び優也に迫る。密室の中で、二人の距離は今にも胸がくっつきそうなまま。

優也はしどろもどろに告げる。

「ままま茉莉ちゃん、セ、セックスなんて、そんな言葉を言っちゃだめだよ」

「女子高生がセックスと言っては、いけないんですか? 十六歳なら、セックスくらい口にして当然です!」

「でも、それは女同士のガールズトークだろ。男の前でエッチなことを言うのは」

「そんなことはどうだっていいんです。先生は今日、母さんとセックスして、童貞を卒業するつもりだった。そうですよね!」

優也は無言になるしかなかった。口を開けば、どんな言葉も、真実につながってしまう気がする。しかし真実はすでに知られていた。