優也は予感を得て、優しく名前を呼ぶ。
「繭さん」
「あ、イ、イクッ……」
肛門と腸粘膜が強く締まり、ペニスの射精欲求を搾られる。豊かな快感に抱擁されて、優也の中のスイッチが入りかけた。このまま出そうかと一瞬思う。
しかし、もっと繭が悶えながら這い進む姿を見たくて、懸命に押しとどめた。
くたくたと崩れそうになる繭の胴体を、優也は両手をまわして支える。
「まだです。ぼくはまだ出してない」
「……はああ……わかっているわ」
繭は息を吹き返し、手足を動かして居間へ入った。途端に、まだ収まっていない絶頂の波の上に、さらに快感の波が重なる。
「はうううっ! すごひぃ!」
また止まりそうになる繭の尻を、優也は肉棒で操り、追いたてる。繭はまっすぐに進むことができなくなり、ゆらゆらと蛇行しながら、居間の中をさまよう。
「くっぅんんん、だめよ……また……また、お尻が」
再び、繭の手足が止まり、背筋から尻まで震えた。
今度は、優也も声をかすれさせる。一度は我慢した衝動が、今は抑えられない。
「ぼくも、もう出ます!」
「ああ、出して……優也くんの精液を、わたしのお尻に呑ませて、ううんっ、イク」
四度目の絶頂が、熟した女体を駆けめぐった。唇が力なく開き、端から唾液の糸を垂れる。極まりの震源地である尻の内奥では、腸粘膜と肛門の筋肉がペニスを絞るように締めつける。
「おおお、気持ちいいっ!」
優也の尻の筋肉が緊縮して、腰を前へ突き上げていた。熟尻の中の男根が跳ね上がり、繭の下半身を浮かせる。凄まじい勢いで、燃える精液が尿道を疾駆する。
「繭さん、出るううっ!!」
繭は尻の奥に、精液の水圧と高熱を感じた。十年ぶりの腸への射精を味わい、さらなる歓喜と幸福の高みへと翔け昇っていく。
「イク。ああああ、イクのが止まらない」
痙攣する繭の身体を、優也は背後から抱きしめ、下半身をつなげたまま床に倒れた。
「はあああ…………」
大きく息を吐き出すと、繭の首筋に鼻をつけて、かぐわしい随喜の汗の匂いを吸う。繭もおとなしく優也にされるがままになり、甘い愉悦の波にたゆたっている。
*
チャイムが鳴った。
耳慣れない音色だ。
優也はまぶたを閉じたまま、ベッドの中でもぞもぞと動きながら、頭の中で応える。
(こんなチャイム、知らないなあ)
ゆるゆるとまぶたを開くと、眼前に繭の寝顔がある。
顔をまわすと、自分のマンションの寝室とは似ても似つかない豪華な寝室だ。
(あ、ホテルに宿泊してるんだっけ!)
昨夜はいろいろした後に、クローゼットにあったパジャマを着て、二人でひとつのベッドで眠った。
クローゼットには、スケスケのネグリジェをはじめとしてセクシーな寝間着もあったが、優也は青い縦縞、繭はピンクの縦縞のおそろいのパジャマを選んだ。眠るときは落ち着いたものにしたい。
ベッドサイドの目覚まし時計を見ると、午後十時すぎ。やはり昨日の夜更かしがひびいている。
優也は繭を起こさないようにそっとベッドから下りると、居間のドアの前まで行く。
さすがに特殊なホテルというべきか、ドアの脇にインタホンのモニターがある。ボタンを押して画面を表示させると、廊下に知らない女が二人、並んで立っていた。
二人とも、寝ぼけまなこがパッチリと覚める美女だ。
「はい、なんですか」
ひとりがあでやかに笑って名乗る。
「仁志乃先生、いらっしゃるんでしょう。坂田よ。約束通り、恋人を見物に来たわ」
坂田が、自分たちをホテル新月に紹介してくれた人だと思い出し、気をつけて返事をする。
「仁志乃はまだ眠ってます。ぼくは仁志乃の連れです」
「その声は、仁志乃先生が十年ぶりに見つけた恋人ね。ずいぶん声が若いわ。もう、やるわね」
「あの、仁志乃への伝言なら」
背後から繭の声がした。
「坂田先生、今、わたしたちはパジャマなんです。着替えるので、少しだけ待ってください」
インターホンからの声がさらに明るく弾む。
「まあ、仁志乃先生のパジャマ姿をぜひ見たいわ。さぞかし愛らしいんでしょうね」
優也はふりかえって、繭の顔をうかがう。やれやれ、という表情だ。
「坂田先生にはかなわないわね。優也くんはいいかしら?」
「少なくとも顔は洗いたいです」
「そうね」
繭がインターホンに少しだけ待ってくれるように告げると、二人はバスルームにある洗面台で歯を磨き、顔を洗い、髪を整えた。繭は手際よくすっぴんから薄化粧を施した顔になる。
「パジャマなのに化粧をするなんて、変な気分だわ」
つぶやきながら、ドアのロックをはずして開いた。
人よりも先に、声が部屋に飛びこんでくる。
「仁志乃先生のパジャマ、かぁわいい────────っ!」
ワンテンポ遅れて、二人の美女がいっしょに入ってきた。
二人とも、ホテル新月のドレスコードに沿ったスーツにスカート、ハイヒールスタイル。一人は全身が光沢のある漆黒、もうひとりは全身が濃密な真紅。ホテル新月の外を歩くには、人目を引きすぎるファッションだ。
漆黒のほうの美女が、優也へ向けて頭を下げた。
「はじめまして。わたしは坂田早紀。仁志乃先生の同業者よ。おもに後味の悪い嫌ぁなミステリーを書いているわ」
「ミステリーファンの間では、読後感最悪の女王と讃えられているのよ」