家庭教師と隣の母娘 誘惑の個人授業

「ノーブラのままだったんだ」

「はい……だから、乳首がブラウスにこすれて、変な感じになっちゃって……」

途中で消えた茉莉の言葉の意味は、すぐに優也にも伝わった。白い布に包まれた巨乳を見つめる優也の顔が、自然とほころぶ。

「おっぱいが気持ちよくなったんだね」

「違います。ただ、むずむずするだけです!」

「つまり、おっぱいが疼く」

「…………」

無言になる茉莉に、優也は宣告する。

「次の作品まで、がまんして歩こう。目的の場所で、また茉莉ちゃんのすてきな乳首をかわいがるよ」

「ああ、次の作品で……」

ズクズクする乳首の疼きに悩まされる茉莉の脳内に、疼きを癒される行為のイメージが浮かぶ。反射的に背筋がブルッと震えた。自身の想像だけでたまらなくなり、熱い声が出てしまう。

「はぅん!」

「今の茉莉ちゃん、すごくエッチな顔してるよ」

優也の言葉に、茉莉の背筋が反応して震える。今度は意識して、声が出るのをこらえた。

(ああ、青葉里ビエンナーレに来てから、わたしの身体がどんどんエッチになっていってる。恥ずかしい)

優也は再び茉莉の右手を握り、先に立って歩きだした。手を引かれた茉莉は、足を踏み出すと、ノーブラの胸が揺れ、乳首だけでなく乳房全体がブラウスの布にこすられる。

それだけで胸全体が、ピリピリとした弱電流に包みこまれた。

一歩、一歩、また一歩、足を前に出すたびに、Fカップが揺れて、乳房が着衣になぶられる。優也の指で揉みたてられるような強い刺激ではなく、はっきりとした快感になる前のじれったい疼きが、道を進むたびにバストに蓄積されていく。

(あああ、早く、早く、先生に胸を触ってほしい。身体中がジリジリして、おかしくなっちゃいそう)

頭の中に胸を触ってほしいという欲望が充満して、耳の穴からあふれ出しそうだ、と心配していると、優也の声が聞こえた。

「なんだ、あれ!?」

茉莉が顔を上げると、二メートルほど先の通りの頭上が、鮮やかな色と形で埋まっている。道の上に金属の骨組みで、高さが二メートル五十センチほどの低いアーケードが作られ、様々なものが飾りつけられていた。

アーケードの中央には、下向きの風車が並ぶ。

きちんと一列につづく風車の左右には、様々な形の雑多な造形物がごちゃごちゃと配置されて、無秩序を構成していた。骨組みには照明がいくつもあり、夜でも混沌ぶりがよくわかる。

優也の目には、商店街によくあるアーケードに、いろんなものがデタラメにくっつけてあるとしか見えない。

「これが地図にある作品だよね」

顔を上に向けて、茉莉の手を引き、奇妙すぎる低いアーケードの下に入る。

風車が回転した。

「あれ!?」

優也と茉莉の頭上の風車が、くるくるとまわりだす。

今、風は吹いていない。その証拠に、頭の上以外の風車はまわっていない。

「どういう仕組みなんだろう?」

「先生とわたしの体温です」

茉莉も風車を見上げ、今までの疼きをわすれて瞳を煌めかせた。

「この作者の作品は、前に別の展覧会で見ました。よく風車をモチーフにするアーチストで、人間の体温が作る上昇気流でまわる風車を使うんです」

「そんなことができるんだ! すごい!」

頭上の風車の列にそって進むと、優也と茉莉の歩みにしたがって次々と風車がまわる。すると風車の左右にあるものまで動きはじめた。

赤い塗料で同心円を描いた皿が、クルクルと回転しだす。青と白の縞模様のボールがまわる。方位磁石を思わせる細長い菱形のものがまわる。黄色い星がまわる。黒い壺がまわる。緑のアヒルがまわる。銀色のピラミッドがまわる。白いプロペラがまわる。水色の帽子がまわる。ベージュの直角三角形がまわる。紫のネジがまわる。茶色い水晶の結晶がまわる。

とにかく、なんでもかんでも、アーケードに飾られたすべてがまわる。

「他のは、どういう仕組みなんだろう」

「いくつかの風車がまわると、スイッチが入って、モーターで他のパーツをまわしているんです」

「なるほど。面白いなあ」

優也と茉莉はアーケードの中央で立ち止まり、頭上の動く混沌をゆっくりとながめた。物理法則を無視した超常現象というわけではなく、金属の骨組みと機械の動力が作る光景だ。わかっていても、見ているだけで異次元やら別世界やらに連れていかれそうな気分になる。

不思議な情景を見上げて、魂を奪われたようにぼうっとしているうちに、優也は重要なことを思い出した。

「茉莉ちゃん、おっぱいが疼くのはどうしたかな?」

「あっ!」

茉莉は声をあげ、自分の胸をかかえた。

「作品を見入って、忘れてました。言われたら、思い出して、あああ、先生、どうにかしてください」

「そう言われても、さすがにここでは」

二人のいるアーケードの左右には、家が建ち並んでいる。今日見てきた青葉里のなかでは、一番の住宅密集地域だろう。両側の家々には明かりが灯って、人影もいくつも見える。

通りを歩く人こそいないが、すぐそこに人目があることには変わりない。

「前の広場よりも危険な場所だな」

あらためてまわりを見まわして、優也の目が一か所に留まった。青葉里では珍しく板塀をめぐらせた二軒の家の間に、狭い路地がある。アーケードはその路地まで伸びていた。

路地を覗くと、道幅は二メートルもない。向かい合う板塀同士の間に金属の骨組みが設置されて、幅の狭いアーケードを作ってある。そこにも風車が列をつくり、左右に様々なものが飾りつけられている。