家庭教師と隣の母娘 誘惑の個人授業

玄関からつづく池があり、いろいろな種類の草や苔、背の低い木々、さらにはきのこまで生えている。植物の狭間に、作品を見る人たちの靴で踏みならされた一種のけもの道が、部屋の中を細く伸びていた。

床は自然、あるいは自然に見せた庭なのに、壁には掛け時計や日めくりカレンダーがあり、棚の上に日用品が並んでいる。

青葉里ビエンナーレに展示される作品のなかでも、変といえば、これほど変な気分になるものはないだろう。

植物の葉の上や、土の表面、あるいは池の中で、なにかが動いているのがわかる。きっと虫だろう。はじめから放してあるのか、自然に外から入ってきたのか。

他の部屋へ移動しても同様だ。床のかわりに地面があり、草木が生えて、小さな動物がいる。そのくせ壁には、ハンガーに服がかかり、丸い鏡があり、子供が描いたらしい絵が飾られていた。

一番大きな十畳の部屋に入ると、土の上に箪笥があり、奥には木戸で仕切られた押入れまである。

不思議すぎる光景の中で、優也は股間が燃え盛るのを感じた。最初の驚きが治まってくると、あらためて射精直前で待たされた下半身を意識してしまう。

精液の放出を求める熱量は、家に入る前よりもはるかに大きい。ただ焦らされただけでなく、家の中に繁茂する濃密な生命が、優也の生物としての本能を高めている気がする。

優也には、作者の制作意図はわからないが、この芸術作品から感じ取ったのは、生命の力だ。

(ここでしたい!)

生命力が、欲望となって発現する。

(ここで裸になって、茉莉ちゃんとしたい!)

脳内の冷静な部分が、こんな土の上でするのか、と言ってくる。屋外でセックスすると言っても、アスファルトやコンクリートで舗装された上で、と漠然と考えていた。

優也の常識では、土の上で裸になるなど、不潔としか思えない。

今までは。

冷静な意見を、身体の奥底から湧き上がる欲望が押しつぶす。

「茉莉ちゃん、ここでしよう!」

優也の声に、お願いする響きはない、と茉莉は聞き取った。やさしい声音だけれど、命令している。

身体がゾクゾクした。

(先生が本心から、わたしを求めてくれてる!)

元気よく同意する。

「はい、先生!」

優也が命じたことは、茉莉にとっても意外ではない。茉莉も、この土の上で優也と交わる欲望にとらわれていた。

(わたしと先生は、同じことを望んでる!)

茉莉は無意識に顔をめぐらせ、周囲の藪を見まわした。繁る木の葉の陰に、母親の姿を探す。いるわけがないとわかっていても、怪談好きの母親の生き霊がいるかもしれないと思う。きっと嫉妬に染まった顔をしているだろう。

(本当に母さんがいれば、思いっきり自慢してあげるのに)

優也はまず靴とソックスを脱いだ。ならって茉莉も裸足になる。

靴で踏み固められていない土を狙って、二人は素足を下ろした。やわらかい土に、足の裏が沈む。指と指の間に、黒い土がにゅるっと入ってくる。

「はううっ、この感触、小学校以来だ」

「新鮮で、気持ちいいです」

優也は手早くポロシャツとデニムパンツとトランクスを脱ぎ、壁際にある箪笥の引き出しの中に入れた。

茉莉も急いでブラウスとショートパンツ、ブラジャーとショーツを脱いで、優也の服のとなりに入れる。

優也と茉莉は全裸になり、向かい合う。優也の股間からは、芸術の力を吸収した男根が、精気をみなぎらせてそそり勃つ。

「先生の立派なペニス、すてきです」

茉莉の肉体も、アートのエネルギーを浴びて、豊潤に輝いている。

「茉莉ちゃんの裸も、一段ときれいだ」

裸足で土を踏み、裸身で多種多様な草木にかこまれていると、二人とも同じ感想が出る。

「なんだか、動物になった気がする」

「わたしも。動物か、妖怪になった気分です」

(妖怪なんてすらっと出てくるところが、繭さんの娘だな)

と、優也は思ったが、口には出さなかった。

「じゃあ、せーの」

「せーの」

二人は身体の向きを変えて、横に並んで手をつないた。そのまま背中から、草が生える地面に倒れた。

背中に、尻に、両腕と両脚に、やわらかい土と草の感触が押しつけられる。生々しい土の匂いと青々とした草いきれが全身を包み、鼻孔から肺に充満した。

「土って、こんな匂いがするんだ。忘れてた」

「草の香りも、とっても気持ちいい」

二人は並んで横たわったまま、深呼吸をくりかえす。

土と植物の匂いを蓄えたまま、優也は身体を起こして、上から茉莉にキスをした。互いの呼気が口の中で混ざり合い、鼻から出る吐息の香りを味わい合う。

(キスの味が、いつもと違う)

(先生の香りが変わってる)

キスをつづけながら、優也は土のついた手で巨乳をなでる。白い柔肌に黒い土が塗られて、鮮やかな模様を描く。指先と乳房の間で、湿った土が転がり、かつてない刺激となった。

「あん、あああ、不思議な気持ちよさです」

指で乳首をつままれてしごかれると、熱い快感が背筋を走る。横たわる胴体が自然にくねり、裸の背中が土を掘りかえす。下敷きになった草がちぎれてすりつぶされ、さらに青い匂いを立ち昇らせた。

茉莉も両手を、優也の背中に這わせる。筋肉の凹凸に土が引っかかり、滑り落ちて、茉莉の腹の上に乗る。

処女喪失から八日目にして、ベッドや布団の上ではけっして知りえない喜悦を味わい、女の本能が一気に高まった。