ブラウスとブラジャー越しに腕が当たる左右の胸が、内側から静電気が発生しているように疼きが止まらない。
茉莉は小さく、しかし激しい声を出した。
「先生! 早く、中へ入って!」
茉莉の声の変化を、優也も気づいた。
「よし、入ろう」
優也は茉莉を抱いたまま前に進もうとする。だが二人の足がぶつかってまともに歩けないことが、あっさりとわかった。
「漫画でこういう場面を見たけど、現実にはうまくいかないもんだなあ」
「そうですね」
二人そろって苦笑して、横に並んで手をつないで進んだ。ちょうど二人を歓迎するように、木製と銅製の人型が身体の向きを変え、その間を優也と茉莉が通る。
集団の内側に入ると、外から見た印象よりもゆったりとしている。足下の地面には大小様々の足跡があり、昼間には大勢の人が入って遊んでいたようだ。
まわりを見まわすと、予想した以上に外から隠されている。街灯の光が人型に分断されて、優也と茉莉の身体に光と影のまだら模様を投げかけた。
夜の暗さもあって、作品に近づかなければ、高さ三メートルの人型の間でなにをしているのかはわからないだろう。
「キスするよ」
優也の宣言に、茉莉は顔を上げた。
「はい、先生」
そろそろ先生ではなく、優也さんと呼ぶべきではないか、とも思う。でも先生と呼ぶのが好きだった。
唇が触れ合い、重なる。
優也の背後で、プラスチックの人型がまわった。
茉莉の背後で、強化ガラスの人型が向きを変える。
人型の動く気配を肌に感じて、茉莉は身体を震わせた。
(キスを見られてる!)
なにかの動力で回転する厚さ十センチの板に、茉莉ははっきりと視線を感じた。作品を通して、視線は広場の外、日本の外へつながっていると思う。
(世界中に見られてる!)
キスが甘くなる。その認識が、優也の唇を甘くする。そして口の中に入ってくる舌もたっぷりと甘い。
「ん、んふ」
蕩けた息を鳴らして、茉莉は男の舌をすすり、もっと奥まで引き寄せる。
優也が舌を動かし、茉莉の舌にからみはじめると、力を抜いて身をまかせる。口の中でピチャペチャと粘つく音色が鳴り、鼓膜を通さずに直接脳に響く。キスでしか聞けない音が、茉莉は大好きだった。
「うっんん、んくっ」
二人とも、息が苦しくなる。茉莉はいったん頭をのけぞらせて大きく息を吐き、空気を吸う。
「はああああ」
また貪るように口を密着させた。
(先生とのキスを、終わらせたくない!)
茉莉の強い願いが、優也にも伝わる。また舌をからませながら、優也は両手の指で、茉莉のブラウスの前のボタンをはずしにかかった。
自分でも驚く奇跡のごとき器用さを発揮して、あっという間にブラウスの前をはだける。
優也は思わず唇を離して、自分が発見した宝物を凝視する。今日までに何回も見た茉莉のブラジャーは、Fカップの乳房全体を包み隠すデザインだった。
今は違う。
「ブラジャーが小さくなってる!」
「せっかくの旅行だから」
頬を赤く染めた若い美貌の下で、色白の巨乳が半分も露出している。ブラジャーは純白のハーフカップで、乳輪より上の乳肉がいちじるしくあふれている。
「少し冒険しようと思って。こういう下着をつける女はいやですか」
「はじめて来た町の屋外の広場で、エッチなことをする女の子が大好きなのに? そのブラジャーも大好きだよ」
「うれしいです、先生」
「はじめて見るけど、これはフロントホックというタイプなのかな?」
「はい。これも冒険です」
優也は慎重に指を使い、二つのカップの間のホックをはずした。ブラジャーが左右に分断され、カップがショルダーストラップにぶら下がる。
押さえられていた乳房が、優也へ向かってどっとあふれた。弾む乳球の先端では、解放された桃色の乳首が、キスだけでくっきりと勃ち上がっていて、存在を強く主張している。
「すごい!」
女性用下着の神秘に感歎する優也の前で、茉莉はカップを手に取る。
「ショルダーストラップもはずれます」
左右のストラップとカップをつなぐホックをはずすと、自身の手で身体とはだけたブラウスの間からブラジャーを抜き取り、すばやくショートパンツのポケットにねじこむ。
下着のない素肌の上半身に、前をはだけた白いブラウスを着ている茉莉の姿は、すばらしく扇情的だ。優也の胸と股間をカッと熱くする。
無言で両手をブラウスの中に差し入れ、下から巨乳をすくい上げて、キュッと握る。十本の指に、若い柔肉がみっちりとつまった弾力が返ってきた。
鼓膜を、茉莉の抑えた喘ぎが振動させる。
「あああっ、先生、いいです。今までより、胸が何倍も気持ちいい」
優也に愛撫されて、目覚めつつある茉莉の官能の神経回路が、一気に何倍も太くなり、流れる快感の量が倍増したようだ。
(これがアートの力なの! アートが、わたしの身体を母さんみたいにいやらしくしてくれてる!)
驚いている間にも、優也の十本の指が動き、乳肉の中に押しこまれる。乳房の中でまばゆい火花がパチパチと飛び散り、茉莉の神経を焼き、快感で染めていく。できるだけ声を抑えようとしても、勝手に声があふれてしまう。
「いいっ! 先生、すごくいいっ!」
茉莉の悩ましい声を聞いて昂ったかのように、アルミ製の人型、ダンボール製の人型、木製の人型、その他多くの人型が、ぐるりとまわった。二人を外から遮蔽していた人型の角度が変わり、茉莉を照らす街灯の光量が増える。あられもない半裸身に落ちるまだらの影が小さくなり、肌の白さが際立つ。