「わたし、昨日、見たんです。先生と母さんがセックスしているところを」
「あのときは」
「わたしは先生の部屋の合鍵を持ってるでしょう。こっそりと入って驚かそうと思って、声が聞こえる寝室に忍び寄って、見ちゃった。驚いたわ。どうしていいのかわからなくて、身体が動かなくなって、じっと覗いていることしかできなかった。でも、母さんが」
優也の顔が映る茉莉の瞳に、激しい光が宿る。
「母さんが、先生の童貞を奪おうとするから、インターホンのチャイムを鳴らして止めたわ! 先生と母さんとそんなことをするなんて、絶対に認めない!」
優也はハッとして、頭を下げた。ずっと母ひとり娘ひとりで暮らしてきた肉親を、自分は茉莉から奪ってしまったのだ。父子家庭で育った自分が、それをわかってやらなくてどうするのか、とおのれを叱りつける。
「ごめん。茉莉ちゃんから、お母さんを奪うことになって申し訳ない」
「違います! わたしからたいせつなものを奪うのは、母さんのほうよ。母さんが、わたしから、先生を奪おうとしているんです!」
「えっ、どういうこと?」
茉莉の眉根がキュッと寄り、握りしめた両手の拳がわなわなと震える。
「ここまで言って、まだわからないんですか。本当に鈍感なんだから!」
右手の人差し指がまっすぐに立ち上がり、優也の顔を指さす。
「わたしは先生が好きです!」
突きつけられた指先を、優也は丸い目で凝視して沈黙した。再び声が出たのは、何秒もたってから。
「えっ、えええええーええっ!」
「そこまでビックリしなくてもいいのに」
両肩を落としてため息をつく茉莉に、優也は聞き返す。
「だって、ぼくは十九歳で、茉莉ちゃんは十六歳だよ。三年も年上だ」
「わたしは、年上の男の人が好みなんです。小さいときに父親を亡くしたから、自分で言うのも変だけど、やっぱりファザコンなのかな」
「ファザコンだからと好きだと言われちゃうと、ちょっと複雑な気分になるなあ」
「もちろん、年齢だけじゃありません。先生は母さんと同じようにイギリス文学を専攻していて、しかも数学ができるのは、とてもすてきです。先生はわたしの理想の男性なんです」
女からこれほど熱意のこもった言葉を聞かされるのは、優也は生まれてはじめてだ。昨日の繭の裸の求愛よりも熱く感じる。聞いているだけで、心臓がどんどん高鳴っていく。
「こんなに大好きな先生を、母さんに奪われるなんて、絶対にいやです。先生のファーストキスやいろいろなものは、母さんに奪われちゃったけど、正真正銘の先生の童貞だけは、わたしがもらいます! そして、わたしの処女を、先生がもらってください!」
「だから、それは無理だよ。茉莉ちゃんに好きになってもらうのはうれしいけど、女子高生と身体の関係になるなんて、できるわけないよ」
「もう、やっぱり、まだそんなことを言う。先生のそういう真面目なところも好きです。でも今日は、わたしの決意は変わりません」
茉莉は目の前の想い人に見せつけるように、ブラウスの前のボタンに指をかける。優也が言葉を出す前に、連続してすばやくボタンをはずしていき、ブラウスを脱ぎ捨てた。
優也は力ずくで止めようかと考えたが、茉莉の素肌に触ってしまうことを考えて、躊躇してしまう。
その間に、ダークブルーのスカートが脚から抜かれる。
優也の目の前に、白いブラジャーとショーツだけを着けた半裸身がすっくと立った。まるで体育の時間の気をつけの姿勢のごとく、背筋を反り気味に伸ばし、大きなバストを優也へ向けて突き出す。両腕も下へピンと伸ばして、手のひらを太腿の側面に押しつけた。
直立不動の茉莉のブラジャーは、装飾のない清楚なデザイン。カップは乳房全体をしっかりと包みこむタイプだが、それでも茉莉のFカップのバストサイズの大きさは隠しようがない。
ショーツもおそろいの地味なもの。飾りも模様もなく、下腹部と尻全体を覆う大きさだ。今どきの女子高生が、わざわざこんなショーツを選んで穿くだろうか、と優也のほうが疑問に思う。
同時に、ブラジャーもショーツも、いかにも茉莉にふさわしいと感じる。昨日の繭が勝負衣装として選んだきわどいビキニの水着とは、色こそ同じ白だが、なにもかも対照的な下着姿だ。
もちろん優也は、茉莉の下着を見るなどはじめてだが、想像以上に美しい身体に感歎させられる。
優也の前に差し出されたブラジャーに抱かれる豊かな乳房も、きれいにくびれたウエストのラインも、ショーツの白布を高く押し上げる尻も、充分に成長していた。
そして若い。十代ならではの若さが、全身の肌を健康的に輝かせて、まぶしいほど。
優也の記憶に今も鮮明に残る繭の肉体の、豊潤に熟した魅力もすばらしいが、目の前の青春の魅力もみずみずしい。母と娘の身体に優劣をつけろと言われれば、優也は無理だと答えるだろう。
口では否定的なことを言いながら、優也は茉莉の下着姿に魅せられてしまう。熱い視線を、女子高生の頭の上からつま先まで移動させる。
さまよう視線は、すぐに一か所に留まった。
白いカップに包まれた大きなバストに、意識が集中する。
優也がはじめて会った中学三年生のときから、茉莉は高校二、三年生に間違われるような、発育のよい体格だ。背はすらりと高く、手足もしなやかに長い。