家庭教師と隣の母娘 誘惑の個人授業

「そうだ。芸術が、茉莉ちゃんを愛してる!」

優也はまたペニスを、茉莉の奥へ突き入れる。あと少しで、優也の射精のスイッチが入る、と感じたとき、茉莉が叫びかける。

「イッ」

とっさに下唇を強く噛み、爆発しそうな声を押しとどめた。かわりに体内で叫びを激しく渦巻かせる。

(イッちゃううっ! 先生っ、イキますううっっ!!)

声なき絶頂の歓声に呼応するように、風車がさらに速くなり、様々なパーツもにぎやかにまわりつづける。

「…………」

口をきつく閉じたまま、鼻から熱い息を出して、茉莉は路面にへたりこんだ。

乳房の中から男根が抜けて、強く反りかえる。射精寸前で外に放り出されて、優也は焦れた声を洩らす。

「あっ、あと」

少しで出せる、と茉莉に言おうとしたが、また声が聞こえた。優也はあわててしゃがみこみ、エクスタシーの余韻にひたってぽうっとする茉莉のブラウスのボタンを、必死ではめ直す。

「誰か、いるのか?」

と、声がして、中年の男が路地を覗きこむ寸前に、優也は自分の勃起ペニスを力まかせにデニムパンツに押しこんだ。

「次の作品に行くよ」

優也は路地に入ってくる男に背を向けて、茉莉の腰に腕をまわして立ち上がらせる。そのまま速足で、路地の反対側の出口へ進む。

頭上では二人の熱気を吸収して、風車がまわりつづけていた。

(まいったなあ。さっきの茉莉ちゃんと同じ状態だよ)

優也はややがに股になり、腰が引けた不格好な姿勢で、ひょこひょこ歩いていた。

デニムパンツの中では、射精の直前でおあずけされたペニスが、足を動かすたびにトランクスの内側にこすれる。欲望の炎がくすぶる亀頭が、ジリジリと疼く。

射精に至るほどの刺激ではないが、それだけにどうしようもなくじれったい。男根から不満を訴えつづけられている状態だ。

逆に、茉莉はスッキリした顔。

二度目の乳絶頂を迎え、路地を出た後で、別の物陰でブラジャーをつけ直した。今は乳首が責められることなく、落ち着いている。

とはいえ、まだ体内の火が消えたわけではない。

(大事なことを、先生にしてもらってない)

そう、頭の中で考えつづけている。

茉莉が持つスマホの案内図にしたがって歩きつづけると、家並みを離れた。途端に街灯もなくなり、真っ暗になる。都会の明るい夜に慣れた優也と茉莉には、真の闇に感じた。

二人とも濃厚な闇に包まれて、ベルトからハンドライトをはずして点灯した。二筋の白い光が、歩く道の先を照らす。闇をわずかに切り取るだけの心もとない光が、歩調に合わせてゆらゆらと揺れる。

「真っ暗だけど、こっちでいいのかな」

「はい。わたしの好きなイタリアのアーチストのアリダ・サバチーニの作品があるはずです」

「できれば、一刻も早くたどりつきたいな。暗すぎて、どんなところを歩いてるのか、さっぱりわからないよ。また繭さんから聞かされた怖い話を思い出しそうだ」

「真夜中の山道で、赤い三輪車に乗っている幼女の話? それとも夜の道路に、犬の首がいくつも生えているあれ?」

「思い出したくなかったよ。あ、明かりが見える」

黒々とした闇の向こうに、ぼんやりと光が存在した。炎に引き寄せられる虫さながらに、二人は小走りになる。

展示用に設置された照明に浮かぶ作品がはっきり見えると、優也は青葉里ビエンナーレに来てから、何度目かの疑問の言葉を言ってしまう。

「え、家? ただの家?」

道のわきにあるのは、普通の木造の家だ。田舎なら珍しくもない民家。ここに来るまでにいくつも目にした、青葉里にある古い家と区別がつかない造りのもの。

今まで見てきた現代芸術作品は、どれも優也には変てこで、キテレツで、すっとんきょうなものだった。

普通の和式の木造家屋を現代芸術だと言われても、まったく納得できない。

「このいかにも日本な家を、さっき茉莉ちゃんが言ってたイタリア人が建てたのかな?」

「そうです。サバチーニです」

「ぼくにとっては、今日の一番の謎かもしれない」

民家の前には木製の立て札があり、筆と墨で『自由に、土足でお入りください』と記してある。茉莉が目を輝かせる。

ぼっこんりんとして、すばらしい書体」

「茉莉ちゃん、書道も好きなんだ。とにかく、家の中が本番ということか」

優也は先に立って、玄関の木戸を開けた。またもや特大の疑問の言葉が、猛烈に噴き上がる。

「なんだ、これ!? どうなってるの?」

玄関の中に、池がある。

天井のライトに照らされた水面の半分が、光を反射している。もう半分は、緑の水草におおわれて、深淵な色合いを描いた。

普通の家の作りなら、土間があり、その先に高くなった床があるはずだ。しかし、この家には床がない。木の壁に仕切られた地面に、細長い池があり、ほとりには青々とした草が密生している。

優也は足先の池と木製の壁や天井を見くらべた。

「この家は外側の壁と屋根だけを作って、中は自然のままになってるのか?」

「そうみたいです。見たところ本物の自然ではなくて、自然ふうに作った庭のようだけど」

優也と茉莉は池のほとりの草むらを、足でさわさわとかきわけて、本来なら廊下があるはずの方向へ歩いた。

壁に仕切られた地面を曲がると、六畳ほどの部屋があった。部屋といっても壁があるだけで、やはり床はなく、下は地面だ。