家庭教師と隣の母娘 誘惑の個人授業

翌日。優也と繭はひとつの布団で眠っていると、インターホンのチャイムが何度も鳴って起こされた。

枕もとの目覚まし時計に目をやると、午前七時ちょうど。二人してパジャマのままキッチンへ行き、モニターを見ると、予想通りにドアの前に茉莉が立っている。

繭は余裕の顔を優也へ見せて、娘の行動を評した。

「こんなに朝早くから来るなんて、余裕がないわね」

母親の言葉通り、茉莉に笑顔はない。なにかの決勝戦を待つスポーツ選手さながらの表情だ。

優也がドアを開けると、茉莉はけわしい顔のまま、おそろいのパジャマを着た二人を見つめて、サンダルを脱ぎ、キッチンに上がってくる。

「先生、教えて。この二日間で、わたしと母さんのどちらの恋人になるのか、決めたんでしょう!」

勢いよく迫ってくる茉莉へ、優也は本気で答えた。

「この二日間のことは、そういうイベントだったの!?」

背後から、繭が告げた。

「もちろん、そうよ、優也くん」

正面の茉莉が言いつのる。

「なんのために、順番にいろいろやったと思ってるんですか」

「いや、その……とりあえず、ぼくと繭さんはパジャマから着替えるから、居間で待ってて」

優也と繭は急いで着替えると、居間へ移動した。なにも言わないまま自然に、あぐらをかく優也の対面に母娘が横座りする配置になった。

畳に腰を下ろしたまま口を開かない優也に、熟女と女子高生が同時に質問する。

「優也くん、わたしを選んでくれるわね」

「先生、わたしでしょう」

沈黙の後に、優也は本気の返答をした。

「やっぱり無理です。ひとりを選ぶなんてできない」

繭と茉莉がへなへなと肩を落とした。

「あー」

と、茉莉がぼやけた声をあげる。

「そう言うと思ったわ」

と、繭は苦笑する。

母娘は顔を見合わせて、血のつながった親子ならでは、というより同じ男に恋した女ならではの以心伝心を起こした。

(ここで、わたしたちが争ったら)

(優也くんは引いちゃうでしょうね)

また自分たちが優也を奪い合って、仲が悪くなったら、優也は自分のせいで母娘の絆を壊してしまったと考えて、マンションから引っ越してしまうだろう。優也の父親の財力なら、それも簡単だ。

そしてまた二人同時に言う。

「優也くん、今はまだ」

「選ばなくていいです、先生」

優也は想像上の右手で胸をなでおろした。

第四章 家庭教師と女体ビエンナーレ

ギプスをはずした優也の右腕に向けて、担当医は宣言した。

「もうギプスは必要ありません。普通に生活してもらっていいですよ」

医者に礼を言って、すっきりした顔で病院を出ると、玄関の前で繭と茉莉が待っている。

優也は両手を高く掲げて、声を出さずに万歳をして見せた。さらに右腕をグルグルまわしてから、前へ突き出してVサインをする。

母娘が拍手で迎え、駆け寄って、右腕をぺたぺたと触った。

「先生の右腕、久しぶり」

茉莉は今にも感涙をこぼしそうな顔だが、繭はどこか淫蕩な笑顔になる。玄関に出入りする人々に聞こえないように、声をひそめて告げた。

「これで、優也くんの両手に抱いてもらえるわ」

茉莉の頬がみるみる赤くなって、母親よりも小さい声でクレームをつける。

「母さん、病院の前でエッチなことを言わないで」

「茉莉だって、すごく期待しているくせに」

茉莉と結ばれ、繭と結ばれてから、ギプスが取れた今日まで、一週間だった。

その間にも、優也は母と娘と交わった。はじめてのときのように、もうひとりに見られながらではなく、一対一の普通の行為だ。一つ屋根の下に住む親子の両方と肉体関係を持つことが、普通といえるかは、わからないが。

優也自身も、利き腕である右手を使えないセックスは、いろいろ不便を感じていた。両手が使えれば、もっといろいろできると妄想している。

亡夫との経験が豊富な繭は、優也以上に様々なことを妄想しているだろう。隠す気のない艶めかしい笑顔だ。

「うふふふ。それじゃあさっそく、今夜はわたしと、あら」

繭が携えるバッグから、軽快なメロディが流れる。喜びに水をさされた顔で、バッグから取り出したスマートホンを耳に当てる。

「はい、仁志乃です。はい、ええ」

さっきまでの弾んだ口調から、一転して仕事用のしゃべり方になった。

「本当ですか。今まで、ずっと断られていたのに、どうして……まあ、そんなことがあったなんて……わかりました。おうかがいします」

スマホをバッグにもどすと、真摯な顔を優也へ向けた。

「残念だけど、今すぐ取材に出かけなくちゃならなくなったの。かなり前から取材を申しこんでいた北海道のおおはらさんが、今すぐになら受けてもいい、と連絡をくださったわ」

優也にはなんのことやらわからないが、茉莉は胸の前でパンッと手をたたいた。

「大原さんが! すごいわ、母さん。念願がかなったのね。でも、どうして、今になって」

「先方のプライベートなことだから理由は言えないけど、今だけしか取材の機会がないわ。わたしは今すぐマンションへ帰って準備をして、羽田空港へ向かう。たぶん取材に何日もかかるから、後で連絡するわね」

繭はくるりと背を向けて、全速力で走っていった。たちまち小さくなる繭の背中を、優也は目で追う。

「繭さん、すごくはりきってる」

「母さんは、この取材をずっと願っていたのよ。先生とのエッチなことばかり考えていても、仕事には真剣なんだから」