家政婦は蜜尻女子大生 初恋の君と恋人の甘いご奉仕

むちむちと豊満な身体から香り立つ甘い匂いを嗅ぐたびに、まるで媚薬を嗅がされている気分になる。なぜなのかは分からなかったが、紬の女体が放つ香気には、裕の〝何か〟を刺激し、不思議なときめきを覚えさせるものがあった。

だから今日も、逃げるように家を出て図書館に籠もった。

家にいるとどうしても紬が気になり、勉強にも身が入らないからだ。

「あれ? あっ、あれは……」

もう家まで十分程度の距離だった。通りにあるスーパーから、両手にレジ袋を抱えて紬が出てきた。レジ袋にぎっしりと詰まっているのは、今夜の夕飯を含めた食材の数々だろう。紬は裕に気づかず、足早に家へと続く道を歩き始めた。

(重そうだな)

どうしようかとためらったが、結局小走りに紬に駆け寄り、か細い片手からさっとレジ袋を取った。レジ袋は見かけより、さらにずしりと重かった。

「あっ、ご主人様」

いきなり荷物を奪われて大声を上げそうになった紬は、相手が裕だと分かり、長い睫毛を伏せた。

「ずいぶん荷物重いね。もしかしてそっちの方がもっと重い?」

気になって、紬の手に残ったもう一方のレジ袋に手を伸ばす。

すると紬は慌ててレジ袋を裕から遠ざけ、「だ、大丈夫です。これも仕事の内ですから、お気遣いなく」とぎくしゃくしながら答えた。裕はそんな紬に「そう?」と返事をし、とりあえず並んで歩き出す。こうやって二人で歩くのは、初めての体験だ。

(何か、ドキドキする)

隣──というより、裕から一歩さがるような形で歩く紬の姿を盗み見た。

今日の紬は、オフホワイトの五分袖シフォンブラウスに、ふとももを半分隠すほどの丈しかないイエローのミニスカートという装いだ。

襟ぐりが丸く開いたブラウスの胸元には可愛いリボンがあり、紬のキュートさと艶やかさをエレガントに強調していた。

(くううっ、動くたびに、おっぱいがユサユサ揺れて……)

本人の意志とは関係なしに絶え間なく揺れる豊満な乳房は、さながら甘美な猛毒のようだった。

「紬さん、生まれはどこなの?」

身体が妖しく火照りだしてしまった裕は、自ら話題を持ち出して気を逸らそうとした。紬はほとんど、自身のプライベートなことについて語らなかった。裕も遠慮して特に聞きもしなかったが、二人して無言で歩き続けるのは気詰まりだ。

「え。わたしですか。あの、わたしは千葉……あ、いえ、神奈川です」

同じ首都圏とはいえ千葉と神奈川ではずいぶん違う。自分の出身地を聞かれてそんな言い間違いをするものだろうかと思ったが、「そうなんだ」と軽く受け流した。

(え、千葉?)

そのとき、ふと裕の心に何かが引っかかった。だがそれはもやもやした渦を巻くばかりで、自分が何に引っかかりを覚えたのかすらも分からない。

「あっ、ご主人様、危ない!」

「え? あっ……」

いきなり紬に腕を引っ張られた。足元をふらつかせ、紬に身体を密着させる。

そんな裕のすぐ脇を黒いワンボックスカーが猛スピードで通過していった。クラクションを鳴らされていたらしいが、物思いに耽っていて気づかなかった。

「大丈夫ですか、ご主人様?」

紬はこわばった声で聞いた。さっきまで持っていたレジ袋は道路に落ちている。紬は両手で、子供を守る母親のように裕を抱きしめていた。

「あ、う、うん、平気。あの、ありがとう……」

裕は紬の女体の柔らかさと温かさ、腕に押しつけられて艶めかしくひしゃげる乳房の感触に一気に体熱が上がるのを感じつつ、必死に平静を装った。

「あっ……」

心配そうに見ていた紬が我に返り、慌てて裕から身を放した。

裕の身の危険を感じ、とっさに取った行動だったのだろう。清楚な美貌を朱色に染め、道路に放りだしてしまったレジ袋を拾い上げる。

「袋の中味は、平気だった?」

照れ臭さを隠して聞いた。甘ったるい紬の残り香が今も身体にまとわりつき、鼻腔を刺激している。腕には、なおも柔らかなおっぱいの感触が残っていた。

なぜだろう──裕は「何だか懐かしい……」という奇妙な感覚に囚われた。

「……卵が……割れてしまいました」

なかを改めた紬は肩を落とし、がっくりとうなだれた。

「じゃあ、もう一度買いに行こう」

そんな紬の姿にいじらしいものを感じた裕は、元気づけようと明るい声で誘う。

「で、では、お代はお給料のなかから弁償させていただく形で──」

「何言ってるの。紬さんが悪いわけじゃないじゃない。むしろ、謝らなきゃいけないのは僕の方だよ。さあ」

きびすを返し、紬をうながして来た道を戻り始める。

紬は「申し訳ございません」と小声で言って、小走りにあとに続いた。

──まただ、と裕は思った。さっきとは別のもやもやが、心のなかに渦を巻く。

(何だろう、この感覚。あれ? どうして僕、こんな胸騒ぎが……)

わけが分からなかった。だが妙に甘酸っぱいものが、裕の身と心を疼かせる。

とっさに自分を守ろうとしてくれた紬に感謝しつつ、それとは別の不可思議な感情が、裕のなかでムクムクと膨張した。

「ご主人様、お風呂のご用意ができました」

その夜。二階の勉強部屋で教科書とノートを広げてぼーっとしていると、突然ドアがノックされ、紬の声が響いた。

「あ、ありがとう。すぐに入るから」

机に向かっていた裕は振り返り、ドアの向こうに答える。裕の返事を確かめた紬は廊下を遠ざかり、ゆっくりと階段を下りていった。