家政婦は蜜尻女子大生 初恋の君と恋人の甘いご奉仕

昨日のキスで、二人の距離は確実に縮まっていた。さらに言うなら、さりげないふりをしているけれど、遥香も裕と同様、どこか緊張している気もする。

「ひと口」

遥香はいきなり裕のソフトに顔を近づけ、舌を出してひと舐めした。悪戯っぽい笑顔で「うふっ」と笑い、朱唇についたクリームを拭う仕草に、つい胸がときめく。

「はい、裕君もひと口」

目の前に苺のソフトを突き出された。まわりは遊園地内を楽しそうに行き交うカップルや親子連れで賑わっていて、何だか照れ臭い。

それでも、「いかにも恋人同士」という気がして幸せだった。学校の知り合いに見られていないことを祈りつつ、ソフトに顔を近づけてぺろりと舐める。

口のなかいっぱいに酸味の混じった甘さが広がった。

すると遥香が、裕の舐めたあとをすかさず自分の舌で舐める。

「あっ」

「うふ。間接キス。ほら、裕君もして」

いつも凛々しい美貌がほんのりと朱色に染まった。恥ずかしそうにうながされ、裕もさらに照れ臭さが増す。遥香の舌のあとがついた自分のクリームをそっと舐めた。

「裕君も私と間接キス」

幸せそうに笑った。滅多に見せてくれない、無垢な子供みたいな笑顔だった。映画館でのファーストキスを思い出し、裕は股間がムズムズした。

「それにしても、ずいぶん若い家政婦さんね」

観覧車の順番待ちをしながら、遥香がまた紬を話題にした。

昨夜家に帰ると家政婦希望の女性が待っていたといういきさつから、ことここに至るまでのことは、すでにほとんど説明していた。

家政婦さんが来てくれて本当によかったと一緒に喜んでくれはしたが、たいして年齢が自分と違わないとなると、やはり気になるのだろう。

「女子大生なんでしょ? どこの大学?」

「聞いてないです」

「履歴書とか見てないの?」

呆れたように遥香が言った。

「そういったものは全部母親の方に送ったみたいなんで」

「そうなんだ……」

遥香にしては珍しく、どこか拗ねた顔つきになった。

「どんな人?」

「えっ?」

「可愛い……感じ?」

遥香の態度や言葉には、さっきまでよりさらに濃厚に、嫉妬めいた感情が見え隠れした。焼きもちを焼かれていると思うと、無性に可愛くなる。

「わりと可愛いタイプですよ」

わざとにこやかに答えた。

「そ、そうなの?」

「ええ。でも、遥香先輩の方が一万倍も美人で可愛いですけど」

遥香は口を半開きにしたまま、裕を見た。

見る見る顔が真っ赤になり、いたたまれなさそうにあらぬ方を向く。

「先輩、今日、とっても可愛いです」

「と、年上をからかわないの、馬鹿!」

凛々しい美貌を紅潮させたまま、目を逸らして言った。裕のフォローで機嫌をよくしたらしい遥香は、それ以上紬について聞いてこなかった。

裕は内心ホッとした。紬を話題にされるとなぜか胸がときめいてしまい、思わぬ誤解を招きそうな気がしたからだ。

(とにかく今日は、遥香先輩とのデートをたっぷり楽しもう)

自身に言い聞かせるように心のなかで呟いた。

三十分近くも並んだろうか。ようやく順番が回ってきた。

二人は係員に誘導され、降りてきたゴンドラに素早く乗り込む。扉が閉じ、巨大な車輪にも似たゴンドラがゆっくりと上昇を始めた。

地上の景色が見る見る遠ざかり、人や建物が小さくなっていく。

「そっちに行っていい?」

かなりためらってから、意を決したように遥香が言った。

「僕も今、そう言おうと思っていたところでした」

裕は答える。ゴンドラという密室に二人きりになったことで、昨夜遥香からメールで受け取った『明日、二人の記念日にしよう♪ 私、裕君と一緒に大人になりたい!』という文面を思い出し、早くも浮き足立つような気持ちが増し始めていた。

裕の言葉を聞き、遥香は嬉しそうに隣に移ってきた。

ぴたりと身体を密着させる。遥香の身体は淫靡な熱を帯びていた。

上品なグレイのシフォンブラウスに、シックな黒のシフォンスカートという装い。

襟ぐりが丸く開いたブラウスの背中には黒いリボンが縦一列に並んでいて、とても愛らしい。ふわっとしたスカートはふとももを半分覆うほどの丈で、もっちりしつつもすらりと形のいい美脚は、リボンと同じ色をした黒いミュールに包まれていた。

「勇気を出して、告白してよかった」

遥香の声音に甘ったるいものが滲み出した。ぎこちない笑みを向けられる。

「どうして今ごろになって、いきなり裕君に『好き』なんて言ったか分かる?」

裕はかぶりを振った。今まで聞くのを躊躇していたが、その点は裕も、告白されたときから不思議に思っていたのだ。

「仲のいい大学の先輩にね、昔別れちゃった男の子のことをいまだにたいせつに想ってる人がいるの。その先輩に、『好きな人がいるなら、絶対後悔しないようにした方がいい』って背中を押されて。だから、その人のおかげかな」

おもゆいのか、高さを増していく窓外の景色に目をやりながら遥香が言った。

「そうだったんですか」

なるほどと思いつつ、裕は答えた。自分もその人に感謝しなければならない。

「別に自慢するわけじゃないけど、私、男の人から告白されることはあっても自分からしたことなんてなかったし。平気そうな顔してたけど、いくら裕君が年下でも、女の子から告白するって、けっこう恥ずかしかったのよ」