ハーレムマンション 僕と美人妻たちの秘蜜な昼下がり

脈がありそうなことに気をよくして、勢い込んでまくしたてると、「それじゃあ、お言葉に甘えて……」と、女体をくるりと反転させ、靴を脱ぎはじめた。左右に大きく張り出した熟女らしいまん丸のお尻に思わず見とれながら、夢のような展開に洋介は天にも昇らん心地がした。

「うふふ……ちょっと、ずうずうしいかしら。でも、わたしのファンだったって言ってくれる洋介くんに、ちょっと聞いてほしいことがあるものだから……」

大ファンだった彼女と名前で呼びあえる嬉しさは格別だ。雲の上の存在と思っていた彼女との距離が、急速に縮まった気がした。

「ど、どうぞ、どうぞ。散らかっていますけど」

まなみを居間に案内するとソファを勧めてから、大急ぎでキッチンへと向かう。水をいっぱいに満たしたケトルをクッキングヒーターの上に載せ通電してから、寝室に走り、本棚からDVDを取り出して居間に戻った。

「あの、ここにサインお願いできますか? まなみさんのイメージDVD……」

恐る恐る差し出したDVDを、躊躇いなく受け取ってくれるまなみ。白魚のような指が、一瞬洋介の手の甲に触れた瞬間、どきんと心臓が高鳴った。ばくばくと言いはじめた鼓動が、彼女の耳に届きそうで気が気ではない。

「うわぁ、これ懐かしいDVD。こんなのまだ持っていてくれたの? わたしのファンの中では、洋介くんは随分若い方ね」

「小学校の時に、一目惚れして以来、未だに大ファンです……。あの書く物これでいいですか?」

洋介からマジックも受け取ると、きゅきゅきゅっと小気味よい音を立て、マジックが曲線を描いていく。

「うふふ。サインなんて久しぶり。木原洋介さんへ、でいいわよね……」

おそらくは高野アンナと書かれているはずの脇に、木原洋介さんへと美しい文字が添えられた。

「はい。これでいいかしら?」

「ありがとうございます。大切にします」

「うふふ。そんな大切にだなんて。今のわたしのサインを欲しがってくれるだけでもうれしいのに、そんなことを言ってくれると本当にうれしくなっちゃう」

水晶の欠片を鏤めたようなキラキラした瞳で見つめられると、すーっとその中に吸い込まれてしまいそうな気がした。

「あ、あの、すぐにコーヒーを淹れますから……」

急に照れくさくなって、そそくさとキッチンに逃げ込み、スプーンですくったインスタントの顆粒をカップの底に落とした。その中にお湯を注ぎ込むと、顆粒がふわぁッと溶け、香ばしい匂いが漂いはじめる。

「これインスタントなんですけど、すごくうまいんです」

まなみの前のテーブルにコーヒーカップを置き、自分も彼女の対面するソファに腰を落ち着けた。

「どうもありがとう。それにしても洋介くんって、学生さん? それでここに一人暮らしって優雅ねえ」

あらためて彼女の美貌をまじまじと見つめると、かつてのアイドル女優・高野アンナとこうしていることがとても不思議で、夢でも見ているとしか思えなくなる。

「そんなんじゃないです。ここは叔母夫婦の持ち物で、たまたま叔母たちが仕事の都合で海外に行っている間、使わせてもらえているだけで……家具だって全部……」

「ふーん。そうなんだあ。でも、優雅なことに変わりないじゃない。まあ、そういうわたしも、洋介くんと同じ一人暮らしだけど」

「えっ、一人暮らし? まなみさんご主人は?」

考えなしに疑問を口にしてから、しまったと思った。

「一年前にあっけなく、逝っちゃったの」

案の定、彼女があまり思い出したくはないであろうことが、返事としてきた。知らぬこととは言え、まなみが一人暮らしと口にしたのだから、それ以上立ち入るべきではなかったのだ。

それにしても、ご主人を亡くしているとは、想像もしていなかった。まして、年若い洋介には、こんな時、なんと言葉を継げばよいのかも判らない。

「あら、何も洋介くんが、そんな深刻な顔をしなくてもいいじゃない。気にしないでね。わたしは、もう吹っ切れているの。でも、まだ未亡人に慣れていないのかなあ。昨夜みたいに酔うと、夫が亡くなっていることを忘れてしまって、ついあんな失敗」

おどけて見せるまなみだったが、その美しい微笑には、心なしか寂しさの欠片が浮かんでいる気がした。

「あ、えーと、そうそう、ファンの僕に、聞いてほしいことってなんですか?」

あわてて話題を変えようと、先ほどから気になっていた彼女の言葉を口にした。

「そうそう。そのこと……。洋介くんって、わたしの旧姓まで知っていてくれるくらいだから、コアなファンよね?」

大きめのコーヒーカップを両方の掌の中に収めたまま、まなみがゆっくりと話しはじめる。その一挙手一投足を何一つ見落とさないように、洋介は彼女のことを真剣に注視した。あるいは彼女を視姦するような眼差しと、そう変わらなかったかもしれない。

「まなみさんがデビューして間もなくから、引退するまでずっとファンでした。コンサートやイベント撮影会、何度も足を運びましたよ」

「ありがとう。わたしを見つめてくれる洋介くんの熱い視線、とっても懐かしいわ」

洋介の心を蕩かしてやまなかったあの笑顔が、今洋介のためだけに注がれている。あまりにも幸せ過ぎて、泣き出してしまいたいほどだったが、彼女の話を聞き逃すわけにはいかない。