ハーレムマンション 僕と美人妻たちの秘蜜な昼下がり

取り残された洋介と綾香は、思わず顔を見合って笑い出した。

「ごめんね。私が、ドジだったばかりに、不愉快な目にあわせて」

恐縮しきりの表情で「お詫びに、お茶でもいかが?」と誘ってくれる綾香だった。

久しぶりに案内された部屋は、やはりどこか懐かしい匂いがする。

相変わらずその匂いには、高校時代の頃のような、甘酸っぱい気持ちにさせられた。

対面キッチンで、綾香が立ち働く間中、彼女を目で追いかけ続ける洋介。ただ彼女を見ているだけで、幸せな気持ちになれるのだ。

綾香の方も、熱視線に気づいている様子なのだが、何も言わずに穏やかな笑みを浮かべて、お茶の準備をしている。

そのエプロン姿は、いかにも清潔さを感じさせるにも関わらず、どういうわけか上品な人妻を色っぽく見せる。白いエプロンと好対照なストレートロングの黒髪が、より華やかさを醸し出している。

こぽこぽとお湯の沸く音。ソーサーとティカップが、重なる時に起きる軽やかな音。エプロンが、奏でる軽やかな衣擦れの音。きゅきゅっと床を踏む音。

静かな物音は、誰かがそばにいる証しなのだ。

会話がなくても、決して気まずいわけではない。

その心地よい静けさが、洋介にはありがたかった。

元来、話し上手な方ではないと自負している。面白い話や気の利いたことも言えない。寡黙なわけでもなく、とりとめのない会話も嫌いではないが、話の接ぎ穂を探すのはあまり得意ではない。だから、黙っていても息苦しくなく、穏やかな時間を過ごせる相手は貴重だった。控えめで内向的な面もある綾香だからこそ、こういう時間を持てるのかもしれない。

「はい。今日こそは、シナモンティ……」

優雅な身のこなしでティカップをガラステーブルの上に並べると、綾香はエプロンを脱いで、洋介に対面する革製のソファに腰を下ろした。

「この間は、飲みそびれちゃったでしょう」

これに口をつける前に、綾香の唇を奪って逃げ出したことを思い出す。

リアクションに困るセリフに、結局言葉を継げずに、洋介は添えられたシナモンスティックの先を所在なく紅茶に漬け込んだ。

「いい香りでしょう? 私、この匂い大好きなの」

綾香も白魚のような指先でシナモンを掴み、紅茶の中でくるくるかき回している。

いつまでシナモンをかき回していればよいのか判らない洋介は、彼女がスティックを掬い出すタイミングに合わせて自分もつまみあげた。

綾香の言う通り、シナモンのよい香りが湯気に乗って鼻腔をついた。

不意に、綾香がソファの上でスッと脚を組んだ。カジュアルなショートパンツを穿いたムチッとした太ももに、いやでも目が引きつけられる。黒いタイツの細かい網目からうっすらと覗けるはっとするほどの白さが、人妻の艶めかしさを際立たせている。

ゆったりとしたグレー系のチュニックが、シンプルながらよく似合っている。

こうしてあらためて向かい合って座ると、チュニックの胸元が大きく盛りあがっていることがよく判る。

先日、襟元から覗き見た双つの丸みがつくる深い谷間が思い出された。

(ああ、やっぱり先輩のおっぱい大きい! それにすごく柔らかそうだ……)

下半身が、節操なく疼きはじめた。ズボンの前のツッパリを悟られるのではないかと、気が気ではない。洋介は、かしこまっているかのように身体を縮め、綾香の目から股間を隠した。

「洋介くん、顔、赤いわよ」

言われてドキッとしたが、そう指摘されて顔色を変えられるほど器用ではない。

「暑いのかしら。窓、開けましょうか」

ベランダへとつづく大きな窓を開けに、綾香が立ち上がった。

女性らしい丸みを帯びたお尻が小さく揺れて、洋介を誘惑する。

「ごめんなさい。気がつかなくて。蒸しているものネ」

綾香は、チュニックの胸元をパタパタと手で扇ぎながら、またソファへと腰を下ろした。

真正面に向き直った彼女と、まともに視線がぶつかった。くっきりとした黒目に、やや青みを帯びた白目。印象的な澄んだ瞳に、見つめられていると吸い込まれてしまいそうになる。

やわらかい笑顔で、「ん?」と、綾香が首を傾げる。その透明感溢れる仕草に、洋介はどぎまぎしてしまう。高校生の頃に戻ってしまったような自分を、少しでも落ち着かせようと紅茶を口に運んだ。

「うわあっちい!」

想像以上に熱い液体を噴き出しそうになり、あわててカップを置いて唇を押さえた。

「まあ、大変!」

あわてて綾香が席を立ち、キッチンから布きんとおしぼりを手に戻ってきた。

「大丈夫だった? 熱すぎたわね、ごめんなさい……」

紅茶が熱いのは、むしろ当たり前で、彼女のせいではない。自分の不注意が悪いのだ。にもかかわらず、綾香は「ごめんなさい」を繰り返しながら、洋介の口元をやさしく拭ってくれている。

「大丈夫だった? やけどしていない?」

子供の心配をするような綾香の表情。洋介の傍らで傅くように世話を焼いてくれる。

甘い肌の香りが、より濃厚になって鼻腔をくすぐった。

洋介は余計どぎまぎしながら、おしぼりに手を伸ばすと、彼女のほんのりと湿ったような手に触れてしまった。瞬間、背筋をかすかな電流が駆け抜ける。綾香の手は、いわゆる甘手と呼ばれるもので、ぷにぷにとした触り心地は、すあまを思わせるやわらかさなのだ。