ハーレムマンション 僕と美人妻たちの秘蜜な昼下がり

時間的な余裕がある分、のんびりと散歩などを愉しみたい気分にもなる。

その日、洋介は駅からの帰り道、まっすぐにマンションへは向かわずに、なんとなく遠回りをした。

心地よい風に誘われて、途中にある大きな公園を散策してみるつもりだった。

「あっ、足立さんだ。ラッキー!」

一町ほど先のT字路だったが、菜緒が横切る姿を目ざとくも見つけたのだ。

こんな気持ちの良い日に、彼女と一緒に歩ければと、洋介は足を速めた。

けれど、彼女との距離がなかなか縮まらない。

(何をあんなに急いでいるのだろう……)

よほど、声をかけるのを諦めようかと思ったが、洋介は不穏な気配に気づき歩調を緩められなくなった。

菜緒と洋介とのちょうど真ん中にいる男が、二人と同じように早足なのだ。

初めは偶然かとも思ったが、それにしてはその男が、菜緒と付かず離れずの距離を保っていることが気になる。

「もしかして、あいつが足立さんのストーカー?」

しばらく行っても、ずっと男が彼女を付け回していることを見定めてから、洋介は一気に男との距離を詰めた。

「ちょっと待てよ。お前、足立さんのストーカーだろう」

男の背後にまで近づくと、躊躇いなく、その肩を捕まえた。

まったく腕力に自信はなかったが、不思議と怖くもなかった。

「なっ、なんだよ?」

不意に声をかけられ驚いたような表情の男は、情けない声でそう言ながらも、そのまま立ち去ろうとする。しかし洋介は、男の肩を捕まえたままで、それを許さない。

「なんだよ。放せよ。あんた何者? 関係ないだろう」

決して洋介と目を合わせようとせず、それでいてこちらの顔を覗き見るような挙動不審さから、間違いなくこいつが菜緒のストーカーであると確信した。

「関係なくない。足立さんはお前に迷惑しているんだ」

腹から湧き上がる怒りのままに声を出すと、途端に男は竦みあがった。緊張もあってか、洋介は相当にすごい形相をしていたようだ。

「す、すみません。もうしません。許してください」

「今度やったら容赦しないぞ。警察に突き出してやる!」

むんずと捕まえていた男の肩をドンと突き放すと、その男は元来た道の方角に、一目散に逃げて行った。

「なんだあ、てんで大したことない奴」

腹に溜めていた息をぷうっと吐き出し、洋介は破顔した。

「あれ、そういえば足立さんどうしただろう?」

それほど長くもないやり取りであったから、マンションに着くまでに追いつけるかもしれないと、再び洋介は駆け出した。

あわてなくとも、お隣さんなのだから後からゆっくり報告すればよいようなものだが、早く彼女を安堵させてあげたい気持ちでいっぱいだった。

案の定、洋介はマンションの手前で菜緒を見つけることができた。

背中に声をかけようとしたが息が上がっている。やむを得ず、ヘロヘロになりながらもさらに足を速め、彼女へと近づいた。

「足立さん」

名前を呼びながらその肩に手を伸ばそうとした瞬間だった。

「いやーっ! 近寄らないでぇっ」

悲鳴を上げながらも振り向きざま、菜緒がハンドバッグを振り回した。

(もしかして、彼女のバッグはコンクリート製?)

またしても顎にクリーンヒットを喰らい、飛んでいきそうになる意識を、洋介は必死でつなぎとめた。

「ごめんねえ。本当にごめんねえ……」

身を縮め、いかにも申し訳なさそうに謝る菜緒の姿は、いつぞやのデジャブを見ているようだ。

かろうじてKOは免れたものの、結局また菜緒の部屋のソファで介抱を受ける羽目になっていた。二度も洋介をのしてしまうほど気の強い菜緒が、あんな男の影に怯えていたのかと思うとちょっと意外な気もする。

「今回は言い訳の仕様もないわよねえ」

「もういいですよ。怖かったのでしょう?」

ひんやりとしたタオルの感触と共に、まるで焦らすかのように、時折頬に触れるすべやかな手指の感触が心地よい。

「怖かったのはそうだけど。洋介さん、どうして知っているの?」

「たまたまね。通りで足立さんを見かけたんです。そしたらね、その後ろに怪しい男を見つけて。あいつがストーカーかって、あわてて追いかけたんです」

「まあ、そうだったの……」

「それで、その男を途中で捕まえて」

「そんな危ないことをしたの? 洋介さんの身に何かあったらどうするのよ」

菜緒のこちらを見る目が、英雄を讃えるようなそれに変化したこともあって、洋介は半ば有頂天だった。

「そうなんですけどね。でもまったく怖くなかったんです。だから思い切って、足立さんはお前に迷惑しているんだぞって言ってやりました」

「本当に? その男、怒りだしたりしなかった?」

「それが意外に情けない奴でしたよ。すみませんなんて謝りだして、すぐに逃げていきました。今度やったら警察に突き出すって脅しておいたから、もう大丈夫ですよ。僕の迫力にも押されていたみたいだし……」

高揚した洋介が現実に引き戻されたのは、菜緒がぷっと噴き出したからだ。

「なんですぅ。何かおかしかった?」

「ごめんなさい。だって洋介さんったら、まるで手柄を褒められるのを期待する子供のような顔なのだもの……」

洋介としては幾分バツが悪かったが、こうして彼女の明るい笑顔を見られるなら、笑われるのも苦にならない。

「ひどいなあ。せっかく足立さんのために頑張ったのですよ」