ハーレムマンション 僕と美人妻たちの秘蜜な昼下がり

「そんな洋介くんだから、話すのだけど……。わたし、芸能界に復帰すべきかどうかで悩んでいるの……」

「うわあ、復帰って、本当ですかあ? 本当なら最高にうれしいです!」

思わず前のめりになる洋介に、まなみは曖昧な微笑をくれた。

コーヒーカップに官能的な唇がつけられ、中の熱い液体がこくんと彼女の白い喉を通っていく。そしてまた、彼女が話を続ける。

「ありがたいことに仕事をしなくても困らないのだけど、このまま何もせずにいると言うのも……。だから、できればもう一度女優として復帰したいのだけど、引退からもう七年も過ぎていて、ブランクがあるし、それにほら年も取ってしまったでしょう……。何より昔のファンの人たちがどう思うかなって……」

「まなみさんが、復帰するならファンは本気で応援します。それにまなみさん全然、年齢なんて感じられない!」

あまりに勢い込んだ洋介に、またしてもまなみは唇をOの字にした。

「あ、いや、だから……お世辞でもなんでもなく、まなみさんは、今でも眩しいくらいにきれいです。十年ずっとファンとして見てきた僕が言うのだから、間違いありません!」

照れくさくはあったが、洋介はいつものように心中を飾ることなく、そのまま口にした。それがまなみを勇気づけることになればと、真摯に思ってのことだ。

「洋介くん、わたし、うれしい……。本当は、怖かったから……」

まなみの目じりに、涙が光った。洋介は、その輝きにどきりとする一方で、必死で笑みを繕うとする彼女の健気さが、愛おしくてたまらなかった。

「まなみさん、きれいです。すごい、すごい!」

モデルのような身のこなしで洋介の目の前で、くるりとターンを決めるまなみ。

フリルのミニスカートが軽やかに躍ると、ローズ系の甘い匂いが洋介の鼻腔をくすぐった。

「昔と変わらないどころか、魅力が増していますよ」

ボキャブラリーの中にある褒め言葉を駆使しながら、艶やかなまなみの姿をしっかりと瞼の裏に焼き付けていく。しかも、ただ記憶に留めるばかりではなく、手中にあるデジタル一眼レフにもしっかりと記録した。

「可愛いばかりでなく、清楚な色気も感じられて……」

光沢のあるラメの生地は、ショッキングピンク。舞台映えがするように、白のレースで縁取りがされている。着るものの美しさを引き立たせるためか、その生地は薄く、素肌のあちこちを透けさせている。

アイドルの頃と体型の変わっていない女体は、けれど妖しまでに熟れが進んでいるため、凄まじいまでの色気がふりまかれている。

特に、ふりふりのミニスカートは、裾がつんと跳ね上がり、むっちりとした艶やかな白い太ももを覗かせて、なんともいやらしい。

艶やかな白い太ももが、妖しい色香を匂わせている。

「この年になって、こんな衣装恥ずかしいわ……」

三十路のミニスカートは、その存在そのものがエロスと言える。そのことを、一番承知しているのは、やはりまなみ自身なのだ。

「それでも断然似合っています。十八の頃と体型を維持しているのもすごいです」

洋介が指摘すると、「うふふ」と笑いながら、もう一度くるりとターンを決め、まなみは寝室へと引き返していった。

「次の衣装は、どんなだろう……。それにしても、高野アンナのイメージDVDを生で見ているようなものだものなあ。なんて、贅沢なんだ……」

洋介は一眼レフに残された映像を一枚一枚確認しながら、この夢のような空間にどうやって紛れ込んだのかを思い起こした。

ピンポーン、ピンポーン──。

まなみが洋介の部屋を訪れたのは、午後八時を少し回った頃だったろうか。

彼女と親しく言葉を交わすようになってから、二週間ほど経っている。

「まなみさん、どうしたんです?」

インターホンでまなみの姿を確認してから、すぐに玄関口に出てみると、彼女が纏っていたはずの美女オーラが、火の消えたようになっていた。いつぞやの夜と違い、酔っている風でもない。

「ここじゃあ、なんなので、とりあえず、あがってください」

昼間には初夏の気配すら感じられたのに、やけに風が冷たい。このままでは、まなみが風邪をひいてしまいそうで心配だった。

「本当にどうしちゃったのですか?」

向かい合ってソファに腰かけると、洋介はすぐに何事があったのかを尋ねた。

「ごめんね。迷惑ばかり……。先日オーディションがあったの、もしかして合格できるかなって、ちょっと思っていたのだけど、ダメだったの……それで、すっかり自信なくしちゃって……。なのに、また次のオーディションがもうすぐあって……なんだか怖くなってしまって……」

「ああ、それで火の消えたようになっているんですね。そっかあ、まなみさんを落とすなんて見る目がないなあ」

何とか彼女を元気づけようと、洋介はことさらに憤ってみせた。強張っていた美しい頬が、少し緩むのを目の端で確かめてから、なおも言葉を継ぐ。

「映画のオーディション? それとも舞台か何か? 大丈夫、そんな見る目がない奴の作品じゃあ、ヒットなんてしませんよ。そんなのは高野アンナの復帰第一作にふさわしくありません!」

「でも、わたし、その役やりたかったの……せんなり監督だったから」

いきなり芸術的映像美で知られる監督の名前が出てきて、ちょっと驚きはしたものの洋介はひるまなかった。