「うわあ、どうしよう。選べって言われてもなあ。菜緒のことは好きだろう。まなみさんも大好きで、綾香先輩は愛してるし……。やっぱり僕には決められないよぉ」
調子のよい自分、自己中な自分を嫌悪しないでもないが、またぞろ優柔不断が邪魔をする。
「そうなんだ。全てに真剣な想いなのだから決められるわけがないんだ」
独り立ちつくし、身をよじりながら懊悩した。
ピンポーン、ピンポーン──。
ほとんど妄想にも近い悩みに、滑稽にもまじめに煩悶していた洋介は、突然鳴り響いたインターホンにビクンと身を震わせた。
「うわああああ……」
情けない声をあげた自分を恥じ入りながら、ドキドキして受話器を取り上げた。
「私よ。開けてぇ~」
洋介の悩乱とは裏腹に、やけに明るい菜緒の声。画像にも、にこやかな美貌が映っている。
「えっ、あれ? 菜緒しかいない?」
洋介は、大慌てで玄関へと出向いた。
けれど、洋介がドアを開けるまでもなく、すでに菜緒は框で靴を脱いでいる。
「お邪魔してま~す。ごめん、鍵かかってなかったよ。物騒ねえ」
あっけらかんと言う菜緒。しかも、その後ろには、まなみと綾香までが続いている。
「お邪魔します」
申し訳なさそうに、遠慮がちに挨拶する二人。それでも、彼女たちも洋介に案内を請わぬうちに靴を脱ぎ、お邪魔してしまっている。
「え、あれ? 何? どうなっているの?」
あっけにとられている洋介の前を、菜緒、まなみ、綾香の順で通り過ぎ、三人そろって居間のソファに腰かけてしまった。
「ほら、洋介もそこに座って」
相変わらず菜緒が、主導権を握っている。さっきまでの青い顔が嘘のようだ。
何となく気圧されながら、洋介は大人しく彼女たちの対面に腰を下ろした。
「あのね私たち、話し合ってよく判ったの。三人とも洋介のこと本気だってこと……」
菜緒の言葉に、一瞬驚きつつも、すぐに嬉しさが込み上げてくる。けれど、それもつかの間、続くまなみのセリフでまた落とされる。
「でも、洋介くんって、どこか優柔不断よね……」
「私たちの中から誰か一人を選べる?」
核心を突く綾香の問いかけに、洋介はドキンとした。
(やはりそう来たか。どうしよう、困ったぞ……)
先ほどから何度も自問していた難題。今度こそ機能停止してしまわぬよう、思考回路をフル回転させるが、出てくる回答はやはり同じ「どうあっても決められない」とのものだった。
完全に窮した洋介は、よほど困った顔をしていたのだろう。三人の美女たちが、一斉にぷっと噴いた。
「思った通りの反応!」
「ほんと、しょうがない人ねえ……」
「でも、それだけ、誰に対しても洋介くんは真剣なのよ」
綾香のやさしいフォローに、洋介はぶんぶんと首を縦に振った。
思わぬ方向に話が向かいつつあることに困惑しながらも、険悪な雰囲気ではないことに洋介はほっとした。笑われることには、いい加減慣れている。たとえ道化役を買ったとしても、彼女たちが争うよりはよほどいい。
「安心して、わたしたち洋介くんを取りあうの、やめることにしたの」
穏やかな表情でまなみが言う。
「洋介くんのこと、三人でお世話しようって……」
嬉しそうに綾香。そして、それを引き取る菜緒も、いつもの優しい表情。
「ちょっと、妬けるけど、私と綾香さんは夫のある身だし、まなみさんは仕事に復帰するから忙しくなるって……。だから三人でお世話する位がちょうどいいのよ!」
「でも、これ以上、人数を増やすのはダメよ。洋介くんは、私たち三人だけのアイドルってことになったから……」
アイドル顔負けの美女たちからそう言われ、悪い気はしない。
「本当に、それでいいの? なんだか僕ばかり得をしているみたいで申し訳ない気がするけど……」
本気で恐縮していると、まなみの怖いセリフが降りかかる。
「あら、女盛りのわたしたち三人を相手するのは、そんなに甘くないわよ」
「そう。その代わり、私たちが、他の女性になんて気が回らなくなるくらいに、洋介くんを満足させてあげるわ」
一番大人しい雰囲気の綾香の口から零れ出たセリフに、洋介はおろか菜緒とまなみまでが目を丸くした。
「え、私、変なこと言いました? いやだ、恥ずかしい……」
頬を赤らめた綾香に、みんなが一斉に笑った。笑われた綾香まで、愉しそうに笑う。
まるでレンゲが風にそよぐように、華やかに三人が笑っている。それを見ているだけで、洋介は幸せな気分になれた。
「それじゃあ、せっかく話がまとまったのだから、試してみましょうか」
茶目っ気たっぷりに菜緒が、大胆な提案をはじめる。
「試し?」
「そう。女性陣の絆を深めると共に、洋介にはこれからもよろしくってことで……」
うれしそうに菜緒が、隣に座るまなみの乳房に手を伸ばした。
華やかな初夏の装いのワンピースは生地が薄く、その分だけ肉感的な乳房がひしゃげる様子が生々しく見て取れる。
「きゃあ! な、何を……?」
悲鳴を上げるまなみを他所に、むにゅんむにゅんと豊かな膨らみを菜緒がまさぐる。
「まなみさんの大きなおっぱいうらやましい! ほら、綾香さんも参加しようよ!」
唖然としていた綾香も菜緒に促されると、思い切ったように、その美貌をまなみの首筋に近づけていく。
「え、あ、綾香さんまでなの? あん、そこ、感じやすいの……ゆ、許してぇ……」