人妻フルコース~熟れ頃・食べ頃・味見頃~

晴恵のハスキーボイスに慌てて頷いた拓実は、ぎこちない手つきでタマネギの皮を剥くと、またしても恐る恐るの手つきで、それを八等分の櫛形にカットしていった。妖艶熟女の晴恵も、大和撫子タイプの悠里も、すでに野菜のカットは終えているのだ。この日のメニューは、定番中の定番、「肉じゃが」である。

(まさか野菜ひとつ切るのに、こんなに緊張を強いられるなんて……。これは、受験勉強のほうが百倍楽だぞ)

本来なら受験生であるはずの拓実は、指定校推薦によっての進学が決定していた。しかし、大学のキャンパスは自宅から片道二時間以上の距離にあり、進学と同時に一人暮らしをはじめることも決定。

(料理が出来る男はモテるって雑誌に書いてあったから、簡単に僕も、なんて思ったけど、料理男子への道は、メチャクチャ遠いなぁ)

雑誌情報を鵜呑みにし、色気づいてしまったこともあり、友人が受験勉強をしている夏休みを利用し、この料理教室に通いはじめたのが二週間前。

そのレッスン初日に偶然、同じ調理台を使うこととなり、気軽に話しかけてくれたのが晴恵であった。悠里も同じ調理台で、こちらは優しい姉のように見守ってくれたのだ。以降、レッスンのたびに同じ調理台を使うようになったのである。

レッスンは週に二回、火曜日と金曜日の午後二時から四時。二十人から二十五人ほどの生徒が、市民会館の調理実習室に集まっていた。多くが時間を持て余した専業主婦で、男子は拓実のほかに定年退職をしたという六十代半ばの男性だけだ。

「秋山拓実くん、包丁の持ち方、直っていませんよ」

拓実がどうにか、タマネギを櫛形にカットし終えた直後、柔らかな声が斜め後ろから聞こえてきた。ハッとして振り返ると、身体にフィットしたサマーニットのワンピースの上から、ドレスタイプのエプロンを着用した並木千佳子が立っていた。エプロンには大輪の薔薇の花がいくつも華やかにプリントされている。

(あぁ、並木先生の身体が一番凄いかも)

サマーニットとエプロンを誇らしげに突きあげる双乳のボリューム感は、他の追随を許さないレベルであった。歩を進めるごとに、たわわな膨らみがユッサユッサと揺れ、童貞少年の股間を刺激してくる。

(入会前に見学に来たとき、先生が凄く綺麗で優しそうだったのが決め手だったけど、オッパイが大きそうだったところにも、惹かれちゃったんだよなぁ)

料理教室に入る前のことを思い出しつつ、ウットリと千佳子を見つめてしまう。

「秋山くん」

「あっ、は、はい。すみません」

母性的な声を再びかけられ、拓実は一気に現実に引き戻された。

「ちゃんと持たないと、思わぬ怪我の原因になってしまうんだから、基本は大事よ」

「はい」

(簡単そうで意外と難しいんだよなぁ。単純に僕が不器用なだけかもしれないけど)

母性的で温もり溢れる千佳子の言葉に、素直に頷く。レッスン初日に、包丁の持ち方を指導してもらったのだが、まだ正しい持ち方ができていないようだ。

「じゃあ、もう一回教えるから、包丁をまな板に戻してちょうだい」

「はい」

再び素直に頷き、右手に握っていた包丁をまな板に置き、千佳子に視線を向けた。

千佳子は四十二歳の熟妻で、丸みを帯びたうりざね顔は、目尻が少しさがった優しい瞳に、丸鼻、ふっくらと柔らかそうな朱唇で構成されていた。ミディアムショートの黒髪は、邪魔にならないよう、お団子状にまとめあげられている。

「いい、まずは握り拳ひとつ分、まな板から離れる。──ほら、分かる? 拳が入らないでしょう。秋山くんは近すぎ、もう少しさがって」

千佳子は柔らかな声音でそう言うと、握り拳を作り、調理台と拓実の腰の間に入れようとした。しかし、拓実の身体が調理台と密着するくらいに近かったため、入らない。半歩後ろにさがる。すると今度は、拳の入るスペースが生まれた。

「そう。それで今度は、右足を少しだけ後ろに引く。角度的には、四十五度くらいね」

「はい」

「それで、肩幅程度に足を開く。──そうそう、その体勢よ。その姿勢で包丁を持つと、自然と背筋が真っ直ぐになるし、疲れないの。さあ、また包丁を持ってみて」

「はい」

拓実がまな板の上に戻した包丁を再び手に取ると、後ろから千佳子が身体を密着させてきた。背中に大きく柔らかな肉房の感触が伝わってくる。ビクッと背筋が震え、思わず全身に力が入ってしまう。

(こ、これって、先生のオッパイ? 並木先生のオッパイが、僕の背中に……)

「秋山くん、身体の力を抜いて」

拓実の体側から両手を前に出してきた千佳子が、耳元で優しく囁く。

「はっ、はヒぃ」

(料理教室に通ってるんだから、変なこと考えちゃダメなんだ。落ち着け、僕)

上ずった声で返し、邪念を振り払うように小さく深呼吸をした。背中に感じる初めての感触に、意識が持っていかれそうになるのを必死に食い止める。それでもジーンズの下では、ペニスがピクンッと小さく震えてしまった。

(あぁ、このちょっと甘い匂い、お化粧品かな、それとも、先生の体臭?)

さすがに香水はつけていないようだが、どことなく甘い匂いが鼻腔をくすぐる。それが化粧品なのか、熟女の体臭なのかは分からないが、恍惚とする香りであった。