人妻フルコース~熟れ頃・食べ頃・味見頃~

自嘲混じりの皮肉な笑みが浮かんでしまう。しかし、その笑みが悠里を現実に引き戻させた。

「あっ、あの、本当にごめんなさい。ほんとに反省してますから、だから、都合がいいのは分かっているんですけど、でも、あの、これからも料理教室で仲良くしてください。お願いします」

ビクッと肩を震わせた拓実が、か細い声でそんな訴えをしてきたのだ。

「えっ?」

(どうしたのかしら急に改まって。──あっ! そうか。自嘲の笑みを、簡単に許されたことにホッとしている自分への批難と受け取ったのね、だから、急にまた)

浴室での一件は、悠里自身にも非があることだけに、責める気持ちはなかったのだが、だんまりを決めこみ黙考する若妻の姿に、拓実は恐れを抱いたのだろう。

(秋山くん、可愛いわ。女性経験はあっても、まだまだ初心なのね)

拓実の少年らしい素直さに、悠里の心には優しい気持ちが広がっていた。同時に、それまで抱えていた心のおりを軽くするような悪戯心が芽生えはじめる。

「私ね、秋山くんの秘密を知っているのよ」

喉を潤すようにコーヒーカップに口をつけてから、悠里はそんな言葉を投げかけた。

「僕の秘密、ですか?」

「そう。秋山くんだけではなく、千佳子先生にも関係する秘密」

「えっ!」

その瞬間、拓実の顔色が一変した。青ざめた表情で、真っ直ぐ若妻を見つめてくる。

「なんのことか、分かったみたいね。そう、見ちゃったの、あれ。料理の写真を撮ったあと、スマホを調理台の上に置き忘れちゃってね、取りに戻ったのよ」

「そっ、そう、です、か」

「ふふっ、安心して、誰にも言ったりしないから」

「それは、どうも、ありがとう、ございます」

引き攣った笑みを浮かべた拓実が、震えた声で頭をさげてきた。その態度が、悠里の中の悪戯心を妖しくくすぐってくる。

(もしかして秋山くんなら……。弱みを握る形になっちゃった秋山くんなら、この持って行き場のない感情を解消してくれるかも。それに秋山くんは、私のことを……)

料理教室のとき、拓実がウットリと見つめてくる視線には気づいていた。くすぐったい感じはしていたが、決して不快ではなかった。それどころか、初心な視線を可愛いとさえ思っていたのだ。

(そうよ。私のことをウットリ見つめてきていたのに、千佳子先生ともあんな関係になった秋山くんも悪いんだから。だから、これからのことはお仕置きでもあるのよ)

まるで子供のような嫉妬心も、知らず若妻の胸に湧きあがってきていた。

「でも、タダってわけにはいかないなぁ」

「えっ? あの、ゆ、悠里、さん?」

まさか悠里から脅迫じみた言葉が発せられるとは思っていなかったのだろう。拓実の両目が驚愕に見開かれた。

(イヤンッ、ちょっとなにこの反応。胸がキュンッてしちゃう。こんなの初めてだわ)

「だってそうでしょう。いきなり抱きつかれてお尻を触られたんだから」

「でも、許して、くれるって……」

「もちろん許してあげるし、千佳子先生とのことも内緒にしてあげる。だから、その代わり……ここでオチンチン、出して見せてくれるかしら」

「はぁっ!?」

一瞬、間を空けての言葉に、拓実の声が完全に裏返った。言った悠里も、心臓の鼓動が相手に聞こえてしまうのではと思えるほどに、ドキドキしてしまい、顔にも一気に朱が差してくる。

(あぁ、言ってしまった。もう引き返すことはできないわ)

あまりに予想外の要求だったのだろう。高校生の少年は、驚愕を顔に貼りつけた状態で、ポカンと口を開けたまま固まっている。そのため、若妻も頬を赤らめていることには、気づいていない様子だ。

(ごめんね、秋山くん。私のこの鬱屈している思いを、吐き出させて)

「イヤなの? それならそれで構わないわよ。私への痴漢行為と千佳子先生とのことを、秋山くんの学校に通報するだけだから。もちろん、千佳子先生の名前は伏せるけど、人妻とそんな関係になってるって知られたら、せっかく決まった進学もご破算になってしまうかもしれないわね」

イヤな女だと自覚しつつも、拓実を追いこむような言葉が次々と溢れ出てくる。

「それは困ります。あの、僕、なんでも言うこと、聞きますから。脱ぎますから、だから、黙っていてください。お願いします」

「そう、じゃあ、早速、脱いでくれるかしら」

いまにも泣き出しそうな表情を浮かべた拓実の哀願に、冷たく返していく。

(ほんとにごめんね、秋山くん。これで私のこと、完全に幻滅しちゃっただろうな)

好意を寄せてくれている少年に対し、不埒な要求をつきつけていることに罪悪感も覚える。だが、口から飛び出す言葉は、温もりの欠片もない。

「は、はい」

小さく頷いた拓実は、カップに残っていたコーヒーを飲み干し、覚悟を決めたように立ちあがった。ソファの横に出るとひとつ息をつき、スエットに指を引っかける。

悠里が小さく唾を飲んだ直後、少年はスエットを一気に引きおろした。ズボンだけではなく、その下の下着にも指を引っかけていたらしく、若妻の視界に男子高校生のペニスが飛びこんでくる。

「ハッ! き、綺麗……」

悠里の口から、感嘆の声が漏れた。状況を考えれば当然ながら、拓実のペニスは萎んだ状態であった。すっかり剥けきった亀頭が、消沈したようにうなだれている。若妻を驚かせたのはその色だ。淫水焼けした夫のモノしか見たことのない瞳に、初々しいピンク色をした淫茎が映っているのである。