人妻フルコース~熟れ頃・食べ頃・味見頃~

「あぁん、ダメよ、こんなに力任せに握っちゃ」

鼻腔をくすぐる芳香同様に、耳元では甘い吐息混じりの囁き。五本指全部で包丁を握っていた拓実の手に、熟妻のしなやかな右の指先が触れてくる。さらに左手も包丁を持つ右手に触れてきたので、自然と千佳子に後ろから抱き締められた格好だ。

「指の力を抜いて。いい、包丁の持ち方はこうよ。親指、人差し指、中指の三本で、柄の付け根付近をしっかりと握って、残った二本の指は、軽く添えている感じ」

「はい」

かすれた声をあげ、言われた通りに包丁を持ち直していく。耳元で囁かれる母性溢れる声音と、包丁の持ち方レクチャーのため手を動かすたびに、背中に押し当たる柔らかな膨らみが悩ましくひしゃげていく感触に、拓実は夢心地になっていた。

「そうよ、そんな感じに持ってね。じゃあ、ニンジンを乱切りしてみて」

正しい持ち方ができていることを確認すると、千佳子がすっと身体を離した。背中に触れていた、大きく柔らかな感触も、瞬時に消え失せていく。

「あっ」

「んっ? どうしたの?」

「いえ、なんでも、ありません」

乳房を欲する欲求を押しやり、ジャガイモと一緒に皮を剥いたニンジンをまな板にセットした。左手でニンジンを押さえ、右手に持った包丁を向けていく。

しかし、集中力が欠けていたことは否めなかった。本来、指を切らないため、押さえの左手は指を内側に折り曲げなければならないのだが、このときの拓実は指がのびてしまっていた。

「あっ、ダメよ、それじゃ、指を」

「えっ? あっ、イタッ!」

千佳子の注意を呼びかける声が鼓膜を震わせた直後、左中指の指先に、鋭い痛みが走った。ニンジンを切ろうとした包丁の切っ先が、折り曲げ忘れた指先をかすめたのだ。顔をしかめ、指先を見つめると、皮膚が薄く切れ、血が滲み出していた。

「切っちゃった?」

「すみません。チュパッ」

心配そうな声の千佳子に、小声で詫びを言い、拓実は指先を唇に咥えこんだ。鉄錆の味が舌に躍り、自分がヘマをしでかしたことを、痛烈に伝えてくる。

「ちょっと、大丈夫、拓実くん。刃物を使うときは集中しないと」

「大丈夫ですか、秋山さん」

晴恵と悠里も声をかけてくれた。自分が指を切ったかのように悲しそうな顔をした若妻とは対照的に、艶妻の声にはいくぶんの呆れも含まれているように感じる。拓実が千佳子の乳房の感触に、恍惚となっていたことを見抜いているのだろう。

「はい、大丈夫です、すみません」

「とりあえず消毒をして、絆創膏を貼っておきましょうか。こっちにいらっしゃい。二人とも、少しだけ待ってあげて」

恥ずかしさに頬を染めつつ、二人に対してペコリと頭をさげると、千佳子が再び声をかけてきた。熟女講師は同じ調理台の二人にも声をかけてから、拓実を促してくる。小さく頷き、千佳子のあとをついていく。調理実習室は土足厳禁のため、入口で履き替えたスリッパがパタパタと足音を奏でる。

(はぁ、並木先生って優しい雰囲気の割に、ほんと身体はすっごくエッチだよなぁ)

身体にフィットしたニットのワンピース。深く括れた腰まわりから、ボリューム満点の双臀の張り出しのラインが、悩ましく拓実の性感を揺さぶってきた。熟れた豊臀がぷるぷると柔らかそうに弾む様子に、ジーンズの前が窮屈になってしまう。

連れて行かれたのは、講師用調理台の後ろにあるホワイトボードの左側。そこにはパントリーに繋がるスライドドアがあった。ドアを開けると、中は三畳ほどの広さがあり、正面に大きな業務用冷蔵庫が鎮座し、左右の壁はすべて棚になっていた。常温保存の食材や調味料が整然と並んでいる。

「ちょっと待ってね、いま救急箱を出すから」

「はい、すみません、ご迷惑をおかけして」

「気にしないで。包丁で手を切ってしまう生徒さん、結構いるのよ」

入ってすぐ右側の棚に置かれていた救急箱から脱脂綿と消毒液、それと絆創膏を取り出した千佳子が、手慣れた感じで応急処置をしてくれる。

「これでよし。ねえ、金曜日は一時間くらい早く来られるかしら? もし来られるんなら、お教室の前に特別レッスンしてあげるけど」

「はい、それは大丈夫ですが、いいんですか?」

(先生と二人きりでレッスンしてもらえるなんて……。もしかして、さっきみたいにまたオッパイが背中に……)

背中に残る豊乳の感触に腰を震わせつつ、平静を装い尋ねた。

「ええ。私は準備のために、その時間には来てるし。さあ、戻ってつづき頑張って」

優しく頷きかけてくれる千佳子に、頬が緩んでしまいそうになるのを必死に抑え頭をさげた拓実は、パントリーをあとにし、晴恵と悠里が待つ調理台に戻った。

「大丈夫でしたか、秋山さん」

「はい、ちょっと切っちゃっただけですから、消毒して絆創膏を貼ってもらいました」

「千佳子先生の巨乳にウットリしてるからよ。自業自得よね、拓実くん」

「そ、そんなことは、ない、ですよ」

心配そうな声をかけてくれた悠里と、憎まれ口の晴恵は、ともにIHヒーターがあるサイドとは反対にいた。拓実はIHヒーター側である。

「さて、皆さん、お肉とお野菜のカットは終わったと思いますから、そろそろ調理に移りましょう。お鍋にサラダ油を適量入れ、薄切りにしたショウガを炒めてください。香りがあがってきたら、牛肉を炒めてください」