不貞妻 詩織 視線を感じて、私……

男の言葉を受け、詩織が記憶の糸を手繰り寄せてゆく。すると確かに、タクシーに乗ってすぐの時点でぷっつりと糸が切れていた。

「だ、だからって、こんな……、っ、つうっ!」

二日酔いの頭痛が、急覚醒する頭に繰り返し嫌な鈍痛を響かせる。その悩ましさも相まって、同窓会の宴席で見せた姿とはまるで違う情欲丸出しの言動を連ねるユウゴへの怒りが増幅した。宴席で語らった時間が楽しかった分、信用していた分だけ、裏切られた思いが強く、どす黒い怨嗟となって渦を巻く。

「まぁわざと強い酒を飲ませたのはボクだし。あわよくば、とは思ってたけどね。こんなにうまくいくとは思わなかったなぁ。篠宮さん、世間慣れしてなさ過ぎ」

嘘を吐いていたと自白してなお、小太りの腹を押しつけてくる。ふてぶてしいその態度が、詩織の激昂を炙った。

「放して……! 帰りますから……離れてっ」

内気な性根にしては稀有な激情に身を焦がし、詩織が上に乗るユウゴを睨みつける。まだ胎内にしつこく潜む情動の余韻も、怒りでどうにか押し殺した。

「駄目だよ、まだ。なんせ十六の時から十二年分の想いがやっと成就するんだからね。ずっとずうっと片思いしてきた篠宮さんと、やっと一つになれるチャンスなんだ。絶対、離さないよ」

十二年も想っていたと告げられて、ほんの一瞬気勢を殺がれた。が、昏睡レイプを働くような輩に心許す謂れなどない。高校時代もずっと邪な目で見られていたと思うと、一層の嫌悪が胸を衝く。

「とにかく退いてっ! 離れてくださいっ」

早く身体の汚れ、特にユウゴの身体から移った汗と熱を洗い流したかった。激情に駆られ怒鳴った詩織の、釣り上がる眉尻を見て、なぜか恍惚とした表情となったユウゴ。全く理解不能の彼の有様に、恐怖感情が募りゆく。怒鳴り続けていないと挫けてしまいそうで、意識して声を荒らげる詩織の内実を見透かしてでもいるかのように。

「やっ、やめて……」

グッと再び体重をかけたユウゴの顔が、詩織の唇に接近する。横に逸れる素振りを見せたところで肉々しい彼の手指に顎を掴まれ、退路を断たれてしまった。

(幸太郎さん、助けて……!)

この場にいない夫に助けを請う事に意味はない。それでも唯一すがれる人の顔を思い浮かべた若妻の唇に、分厚い陵辱者の唇が重なり被さる。無駄に弾力のある肉厚唇との接吻は、ただただ気持ちの悪さを詩織の心に刻んだ。

「ぷは、酒臭ぁ。へへ、旦那さんはキスの仕方教えてくれなかったのかな? ブルブル震えてまるで初チュー前の女子みたいだったよ」

どうして逐一この男は癇に障る言い方をするのだろう。エネルギーの無駄と知りつつも、腹立たしさを抑えられなかった。

「夫は……! あの人は貴方なんかと違って立派な人です! ……ひっ!?」

眼鏡越しに正視し合う状況にあって、男の手指が再び迅速に動きだす。

右の手は衣服からこぼれっ放しの右乳房に摺りつき、乳頭の円周に沿ってくるくるとくすぐった。

同時に左の手指が純白生地にレース装飾の施されたショーツへと張りつき、絶頂を経て湿り気たっぷりの股布を執拗に、奥の恥肉ごと揉み捏ねる。

「ひっ! や、ぁ……っ! やめ、て……くぅ、んぅぅぅっ」

いずれの部位も、一度覚えた肉の昂りを欲して、即座に内から疼きを発した。

「いっ!? やっ、痕つけちゃっ嫌っ、ンンッ、ンッ……っああ……」

「んばぁっ……ひひ、キスマーク。つけちゃった」

乳房と股の痺れに気を取られていると、その間に首筋に強く吸いつかれ、痣を刻まれる。次いで左の乳房上限にも、厚ぼったいユウゴの唇が吸いつき、乳肉ごと啜られた。目一杯引っ張られた末にちゅぽん、と音を立てて解放されたそこにも、男が啜った証拠となる痣が刻まれる。

ジンと疼くそこを間を置かずに舐られると、過敏になっている分だけ甘みの増した衝撃が突き抜けた。

「はぁ、はっ……あぁ……もう、許して……」

一度肉悦の高みを味わわされた肉体の感じやすさを思い知り、そのたった一度の経験で性感帯を的確に見抜いたらしい男への恐怖がより募る。自然と声に混じった弱気が余計に彼を増長させた。

「欲しいって素直に言えば、すぐにぶち込んであげるんだけどな」

居丈高に告げ、詩織の腹へと押し当てられた赤いボクサーパンツの前面。こんもりと膨らむその部位の、火傷しそうな熱量と、下着越しにも如実な弾力と硬度を併せ持った感触に、慄いたのも束の間。窮屈そうに収まった状態で脈動という形で自己主張を繰り返す肉勃起に、否応なく詩織の意識が向く。

(幸太郎さんのと全然、違う……!)

奇しくも幸太郎もまたボクサーブリーフを愛用している。最も身近にいる妻なればこそ、双方の差を推し量れてしまう。勃起状態の夫の膨らみと比較して、ユウゴの股間の容積は倍はあるように見えた。だからといって夫の物が小さい部類とも言い切れないが、ユウゴの物の方が大きいのは確実。

少なからずショックを受けた若妻の傷心には目もくれず、ショーツ越しに摺りついたユウゴの指が、縦筋状にできた染みに沿って滑る。

「ふく……っ!? も、もうやめてっ……やっ、あ、はぁあぁんん……っ」

穿るように掻かれた薄布の向こうの割れ目に愉悦が奔り、耐えかねた詩織の背が反った。押し倒されて再度ベッドに沈んだ若妻の黒髪が、白いシーツに散らばる。