不貞妻 詩織 視線を感じて、私……

「いいよぉ、いいっ……」

小刻みに震える手足に難儀しつつ、摘まみ上げたスカートを腰にまで登らせ、纏わせる。位置調整のためにスカートを回せば、フリフリとそよいだ裾にユウゴの視線が集中し、また三枚。連続で撮影された。

「つ、次はソックス……」

スカートのファスナーを上げて装着し終え、手に取ったソックスを丸め縮めてゆく。足の指がちょうど隠れるサイズにまで縮め終えたところで、背後のベッドへと腰を下ろして、わざとためを作り、ユウゴの目を惹きつける。

(あぁ……ほら。見て……)

腰かけた状態で膝を曲げれば、スカートの奥の下着が覗く。理解してあえて見せつける状況に酔い痴れた詩織の内腿は、じっとり汗ばみ、火照っていた。それも余さず写真に収められ、メインディッシュとばかりに最後に股間を接写された。

「高校生が指輪はおかしいよ、ねっ?」

詩織の左手薬指に嵌まる結婚指輪を見て、ユウゴが捲し立てる。

──本当の自分を見つけるため、高校当時に立ち返る必要があるのだからと、言い訳を拵え安堵した女の喉が鳴り。

「う……ん……。じゃあ……」

リングを外す瞬間に芽生えた、自責の念と、解放感、正反対の感情を持て余し、そこから逃れたいがために、外したてのリングを、眼前に伸びてきた男の手に乗せた。

「ボ、ボクもすぐに着替えるからっ」

握り締めた指輪をテーブルに置くや、興奮も露わに慌てふためく、いつにない彼の姿が妙に可愛らしく思えて、つい。

「う、ん……待ってる……から」

完全に高校時代の口調に戻った詩織が、上目遣いと、腋を締め強調した胸とで媚を売る。辛抱堪らずズボンを下ろした彼の赤いボクサーブリーフと再会を果たし、今にもはち切れんばかりの膨らみに魅入られた詩織の口中に唾が溜まった。

(……幸太郎、さん……)

夫と同じ赤いボクサーブリーフ。けれど、前面の膨らみぶりはまるで違う。内容物の形状が穿いた状態でもわかるほどに張り詰めているその様を一目見ただけで、詩織は腰の芯が甘くときめくのを自覚した。

比較対象として思い出してしまった夫への申し訳なさ、後ろめたさが募る一方で、女芯に点った焔の揺らめきに炙り立てられる。

「あ……っ……ンッ」

薄布一枚隔てた程度では遮れぬ強烈なフェロモンを発し、女の視線と意識を惹きつけてやまぬ、男性器。期待に駆られ、火照りが一段と強まり、否応のないくねりが女体に現れた。

身に巡る火照りが増すにつれ、頭の片隅に居残っている夫の笑顔と、それに対する申し訳なさが疎ましく思えてしまう。

(あと少し……もう少しで、本当の私がわかりそうなの。だから……お願い。今だけ……思い浮かんでこないでっ!)

自責の念を振り払いたい一心で、努めてユウゴの醜面と股間に意識と視線を張りつけ、妻という殻を名実共に脱いだ女が、火照った息と共にさらなる媚を売る。

「……っ、優しく、してくれなきゃ、嫌だよ……?」

男の視線の当たる場所、熱量から意図を察した女の指が、上目遣いはそのままに自身の眼鏡をクイと押し上げた。

「するっ、するよ。約束するっ、一生詩織を大事にするからっ……」

度の過ぎた興奮の果てに紡がれた誓いなど、真に受けるものではない。頭では理解しているのに──早々に着替え終え、高校時代の姿で迫ってくるユウゴを眼鏡越しに見た瞬間。期待と恍惚が溢れてやまず、唾に滑った舌が、なお躍る。

「……ン……ぅ、ん……約束……っ、ね……っ」

最後の一着、ブレザーを羽織り終えて高校時代の姿を取り戻した詩織は、陶然と頷き、喜びと艶を振り撒いた。

午後四時二十分。出張先である隣県で一仕事終えた幸太郎は、会社が手配した旅館に戻り、露天風呂に浸かっていた。

仕事で掻いた汗を流し、熱い湯に身を浸せば、心身共に溜まった疲れが取れて軽くなった感じがする。

(……詩織は今頃、何してるんだろうな……?)

常であれば近所の店で夕食の買い出しをしている頃合。しかし、今夜は彼女一人なのだし外食という事も考えられる。

(……いや、ないな。ない)

妻は、一人で出歩くのを恐れる気質の女性。習慣通りに生活する事に安心を覚える、後ろ向きな思考の持ち主で、だからこそ夫の側も安心して留守を預けられる。

思い直して改めて、自宅で待つ妻が寂しがっているだろうとの認識を強めた。

明日、帰ったら優しく扱ってやろうとも思う。

(でも、それまでは……)

出張先では、妻からの無言のセックス催促を受ける事もない。性欲が強くない夫にとっては申し訳なく思いつつもストレスを感じるだけの案件から、一夜だけでも距離を置ける喜びを噛み締めていたかった。

ふと見たスマホの画面が、現時刻──午後四時二十分を表示している。想い人と一緒に入室してから、早もう一時間が過ぎたのを知り、ユウゴは改めて自分達二人の性欲と想いの強さを認識した。

「詩織と一緒だと時間がアッという間だねぇ」

ベッド上。眼下で仰向けに寝る彼女に向け、問いかける。

問いかけられた詩織は、ブレザーを全開、カッターシャツも半ば以上ボタンを外しはだけた状態。すでにブラジャーも取り去り、丸出しとなった両胸を自ら寄せ上げて支え、より深くなった谷間に夫以外の肉棒を迎え入れていた。

「んぅ、っ……ンあ……また、ピクって、したぁ……」