不貞妻 詩織 視線を感じて、私……

「んぁ……っ、ん……んんっ、ん……?」

口中になみなみ溜まった種汁をどうすればいいのかわからない、そう目で訴えかける詩織に、ただ一言。

「──飲んで」

熱のこもった目線を向けて、ユウゴが告げる。

平素であれば拒否して然るべき通達を受けた不貞妻は、とろり惚けた眼を瞬かせ、あぶくの浮いた白濁が喉元で波打つのを体感し、ほとんど間を置かずに頷いた。

「ふぐっ……んぅ、んっん、く、んんんっ……んくっ、ン……」

絡む喉ごしを味わいながら、口の中に溜まった全てを嚥下する。

(は、ぁあ、また……見てる。はしたなく悦んでる私を、じっと、見てぇ……)

──悪夢に、終わりは来ない。

嘆くべき事態にあってなお、喉を鳴らした詩織の表情は艶やかだった。

「っく、これで一旦打ち止めだよっ」

「ひっ……あ……あぁ、髪、やぁぁ……」

今また黒髪に飛び散ったユウゴの濁汁の粘りと臭気。汚れた実感を味わい、恍惚に震えた胸元で、乳房が嬉々と弾む。その豊かな双球のあちこちにも、陵辱者の放った汁がこびりつき、喜悦に震えるたび、プルプルと跳ねた。

「ほら……凄くエロい顔してる」

長々と撮った動画の最終盤部分を見せて、ユウゴがにんまり、歪な笑みを差し浮かべる。眼鏡の奥で細目にされた眼差しが、べったり肌に付着してもいた。

やはりこの男の視線は、堪らなく情動を煽る。実感しながら詩織は差し出された写真に見入ってしまう。

「……っ。ふ、うぅ……う、そ。嘘よ。そんなのぉ……」

白濁まみれの顔面を自ずと差し出し、望んで射精を浴びているようにしか見えない己の姿。白濁を顔にぶちまけられた瞬間に舌を突き出して喘いだ、卑しい牝の有様。

いくら言葉で否定しようとも、携帯端末に記録された現実は、覆りも消えもしない。

(酷い、顔。はしたない……。嫌だった、はず……なのに。私……)

じわじわと絶頂の余韻が退いてゆく。代わりにやって来た後悔と自虐に苛まれながらも、直接の刺激を与えられずじまいだった詩織の腰のくねりがやまる事はなかった。

女体の火照りが収まらぬ事を見越していたのか。宣告通り、眠る幸太郎のすぐ隣で、詩織の股を舐ったユウゴの責め口は、いつにも増して執拗だった。

全てを見届ける陵辱者の視線が、好ましくて堪らぬものだと疑わぬようになるまで、何度も何度も陰唇と膣口を舐り回した舌と唇の感触が、事が終わり結合の解かれた今も詩織の股にこびりついている。一時間近くに及んだクンニリングスによって、四度絶頂に至り、一度の潮吹きと、さらに終いには失禁までさせられた。

「次からは、携帯に連絡するね」

すっきりとした顔で告げるユウゴに向き直る詩織の表情は──。

「……ッ、ぅ、ぅぅ……っ、ぅ……」

与えられた快楽量に耐えかねて自ら漏らした小便の上にへたり込んだ身を起こす事も叶わぬ状況だというのに、紅潮し、陶然と綻んだまま。

また男が撮った写真を見せつけられるまで、イヤらしい表情と痴態を曝し続けている自覚を持つ事もできぬほど、心身共に蕩かされ、疲弊させられていた。

「今度は、もっと。視線を意識できるシチュで楽しもうよ」

「もっ……と……?」

「露出性癖の道は奥深いからね。もっともっと、一緒にレベルアップしていこう!」

(もっと人の目を意識して、そうすれば……気持ちよくなれる……の?)

満面笑顔で誘うユウゴに抗えるだけの理性は、もう──。

第四章 すれ違いの行き着く先は

自宅でユウゴに穢された日から、ほぼ一か月後の四月の平日。都心のとあるホテルの中に、ユウゴからの呼び出しを受けた詩織の姿があった。

周囲の建物より頭一つ高い三十階建てビルディング。その迫力もさる事ながら、見るからに格式高い外観に気圧されつつ足を踏み入れたのが、正午十分過ぎの事。

約一時間経った今。詩織は二十階にある洋食レストランでスーツ姿のユウゴと向き合い、彼の奢りで振るまわれた豪勢なランチが並ぶ卓を囲んでいた。

ユウゴが予約してあったこの席は、他の客席からやや離された奥まった位置にあり、心置きなく同席者だけで語らえるようにとの店側の配慮が窺える。

夫と二人で訪れていれば、どれだけ心躍った事だろう。空しいばかりの仮定が尚の事詩織の表情を浮かぬものにさせた。

短めのスカートが目を惹く濃紺色のレディーススーツ姿。詩織にしては珍しいお堅い印象の服装が、余計に借りてきた猫の如く強張る様を浮き立たせてもいた。

「あまり、お口に合わなかった?」

相手の表情が冴えぬのを見て取って、心配げな表情になったユウゴが問う。

過去の行いがあるだけに純粋な心配であるとも思えない。詩織は一層所在なさげに肩を縮こまらせ、男の視線を払うように頭を二度振った。

「そういうわけじゃ……ありません」

ユウゴは自分用に頼んだ料理を早々に平らげ、手にしたワイングラスを傾けている。その相変わらずのねっとりとした視線がスカートに向いているのを確かめて、詩織は本日すでに幾度目とも知れぬ嘆息を漏らす。やはり、下心ありと見るのが正解だ。

(……どうして私こんな所で、この男と二人で食事なんてしているんだろう)

不貞の証拠たる写真と動画で脅されたからだ。正当な理由をいくら胸の内で唱えてみても、夫が働いている平日昼に密会をしているという事実に対する後ろめたさは失せてくれない。