不貞妻 詩織 視線を感じて、私……

涙の浮いた瞳を陵辱者に差し向け、提案を受諾する意思を伝えた。

「……ああ。約束、するよぉ」

にんまりとイヤらしく嗤うユウゴが再度股間の膨らみを押しつけてきたが──詩織は俯き、まともに見返す事ができず、自然と視界に入ったユウゴの股間の膨らみが、脈を打つ。その禍々しさにあてられて、また女芯に正体不明の疼きが奔った。

「じゃあ、まずは自分でエプロンとシャツを脱いでみせて」

夫婦の寝室に移動してすぐダブルベッドに腰を下ろしたユウゴが、その暴挙に顔をしかめている詩織に向けて言い放つ。

(……幸太郎さん。ごめん、なさい……)

夫婦の寝室で事に及びたいと執拗にごねた陵辱者を、撥ね除けられず招き入れてしまった罪悪感。毛布を掛けこそしたが、眠る夫をリビングに残して他人と寝室に入る後ろめたさ。二つが折り連なって、気弱な若妻の胸内に巣食う。

その胸を曝せと告げた直後から、ユウゴの眼鏡越しの視線の粘つきがより増した。

ユウゴ自身、上はワイシャツ一枚。下はズボンを脱ぎ終え、またもボクサーブリーフの赤色と、パツンパツンに盛り上がる勃起の膨らみを見せつけている。

(今日も五回。自分で……したって言ってたのに。あんなに大きくして。本当に、挿入しない約束を守ってくれるの……?)

今にも張り裂けそうなほど内側から押し上げられているブリーフ前面から目が離せないのは、下着の色のせい。赤という刺激色が目を惹きつけるからだ。

(それに見張っていないと、いつ襲い掛かってくるかも、わからないじゃない)

男のワイシャツの胸ポケットには、所有する黒色のスマートフォンが収まっている。ユウゴがまた写真を撮りたがっているのは明白だ。極力いかがわしい写真を撮られぬよう、身を正すとともにユウゴを監視しなくてはならない。

(それ、だけの事……他の理由なんて、ないんだから……)

陵辱された負い目から、夫に性交渉をそれとなくアピールする事もできなくなり、結果、元より消極的だった彼との間でセックスレスが定着している事実。それが影響を及ぼしていると認めたくないがために、己を納得させるための理由を連ねている。

本当は嫌というほどわかっていた。ユウゴが腰を揺するだけでビクついてしまい、慌ててまた張りつけた瞳から視神経、脳神経の順で火照りが伝染してゆく。抗う心を嘲笑うように身の疼きも上昇の一途をたどる。

「……っ、~~……っ」

衣服の上からでも乳首の位置を察しているのか。ユウゴの眼鏡越しの熱視線が、くるくると乳輪を舐るように円の軌道を刻む。

(駄目。じっとしていたら余計この人の思う壺になる……)

自身と、ユウゴ、双方の気を逸らすため。また理由を拵えて、エプロンの紐に手をかけ、勢いそのままに引きほどく。しゅる、と衣擦れて薄布が滑り脱げた。

その様を床に落ちるまで目で追ったユウゴが、唾液の溜まった口を開くなり。

「不貞妻は、主婦の象徴たるエプロンを自ずから脱ぎ落とし、今宵も肉欲の味に酔ってゆく……なんてねぇ。んふ、ふふふっ」

小説の一文を読み上げるような朗々とした口振りで告げた。それと同時に、一枚遮る物を失った胸を、膨らみの円周に沿って視線で舐り回す。

(私は望んで不貞を働いているんじゃないわ。あなたが脅迫をしたから──! 無理矢理はしたない真似をさせておいて、都合のよい解釈しないで!)

よっぽど恨み辛みをぶつけたい衝動に駆られるも、男の興を削げば、地獄の時間が長引くだけ。前回の悪夢の夜の出来事から男の性根が読み取れてしまうだけに、不本意な我慢を強いられる。

「これで……今夜で。最後に、してください……」

代わりに、心の底からの願いをぶつけるも、

「いいねっ。その台詞、すごく官能小説っぽくて、そそるよぉ」

男の身勝手な興奮を煽り立てるだけに終わった。

嘆き過ぎて心の奥から渇いていくのを痛感し、詩織はシャツのボタンを一つ、また一つと外していった。震える手指で難儀する様子も、ユウゴは余さず見届け、急かすでもなくニタつくばかり。その間、彼の股の膨らみが執拗に繰り返し脈を打つ。

「……っ、ぅう……は、ぁぁ……」

そこから目を離せないでいるのは、監視しているからで、想起される内容物の雄々しさに惹きつけられているのではない。膣にぴったりフィットする長さの逸物に貫き通された際の充足感も、夫の物では届かない部位をネチネチ扱かれる悦びも、思い出してなどいない。

腰が揺れ動いてしまっているのは、怯えているからで、焦れているわけじゃない。

拵えた理由の数々にすがりつきながら、やっとボタンを外し終えたシャツを脱ぎ落とす。そうして露出した胸元に汗が浮いているのも、緊張のせい。

「……っ、見ないで……」

無駄と知りつつ乞うた詩織の胸が、男の視線に炙られて打ち震わされる。腕で隠す事は、当然許されなかった。

「おおっ。今日は黒かぁ」

感激した様子のユウゴが、思わずベッドから腰を浮かせ、前のめりで視線を注ぐ。

(嫌……ぁぁ……っ。見られ、てる……っ。また、ねっとり視線に犯されてっ……)

まず、ベロリと舐るようにブラジャー全体を上下に三往復。それから汗の浮いた乳房上弦部。ブラカップに収まらない部分の、乱れた呼吸に合わせ息づく様を視姦された。それから、またブラ越しの乳首探しに興じる男。