不貞妻 詩織 視線を感じて、私……

「んぁっ、あはぁぁぁ……!」

ユウゴの指が抜け出た瞬間に、蕩け通しの想いの丈が嬌声となって夜空に上がる。

サラリーマンはその声に激しく動揺し、ほどなく我に返って走り去ってしまった。

「あ……や、ぁぁ」

折角視姦の悦楽に酩酊していたところだったのに。詩織の発したばかりの不満を解きほぐし、より満たしたのは、やはり全て知り尽くした彼の手指だった。

詩織の隆起しきった左右の乳首を、摺りついていたユウゴの指腹が摘まむ。絶妙の力加減で圧迫する傍ら、摘まみ挟んだ乳頭を磨くように摺り捏ねる。

「はくっ、うぁ、あぁっ、ン……! だ、駄目。勃っちゃう、からぁぁ」

──薄着の上からでも一目瞭然なくらいに、勃起させて、言外と眼差しに込めた希望を正しく汲み取って、ユウゴの手指が躍動する。

「……まぁ、急に変態が目の前にいたら、驚いて逃げるよね。普通」

彼はそれも見越し、わざと口唇から指を引き抜いて喘がせたのだろう。

「い、意地悪ぅっ」

してやったり、といった表情の彼を見て、まんまと思惑に乗せられた事を知った詩織の胸にわずかの悔しさが染む。それもじき、指と乳首の摩擦がもたらす悦の疼きに押し流された。

「ほら。歩かなきゃ。立ち止まってたら余計不審に思われるからね」

耳元で囁き、また元の、横並びで手を繋ぎ、その手の甲で尻をさする体勢となったユウゴが先導して歩みだす。

「んっ、あ、ふ、あぁ、はぁぅ……そ、んな、急いじゃ、あぁっんん」

たった今まで尻に触れていた、肉棒の熱と硬さが恋しい──。そう感じた矢先の刺激の再来に、焦れながらもすがりついた双臀が震え、また悦びの汗を噴く。

引き立てられるように歩む詩織は、脚を動かすたび、内股に垂れ絡む蜜汁の粘りも知覚させられた。

ノーパンで、股を濡らしながら散歩して、見知らぬ人々の注目を浴びている。卑猥に過ぎる現実を再認識してくねる詩織の腰は、もはやタガが外れきった状態だった。

「ぁは、あぁ……っ、お尻、いい、よぉっ」

揉む動きも交え始めたユウゴの手の甲との摩擦を貪っては、背に奔る痺れに浸り、煽情的な音色を吐き漏らす。

破滅の潜むスリルを堪能しているだけに、繋いだ手と寄り添う肩に伝う彼の熱と息遣い──明らかな興奮を読み取れるそれらに対して、一層の愛しさが込み上げる。

性的興奮と恋慕。サマードレスの裏生地と擦れる生乳が、二重の高鳴りに見舞われて疼き通しの状況下。夜が更け闇色が増し続ける中で、興味本位で尾行してきていた連中もが、一人、また一人と目減りしていく。

「心の底から露出趣味を好きなわけじゃない連中なんて、こんなもんだよ。今夜抜くためのおかずを担保できりゃ十分ってね」

──さっさとセックスしろよ。しないならもういいや。そんな調子で離れていったのだとしたら、全く「わかっていない」。憤慨しかけた詩織の気持ちを蕩かすのは、結局いつも彼。ユウゴと握る手に力を込めれば、察した彼が尻を撫でる手指で新たな刺激を与えてくれる。

「はぅ……っ、ん、んん……やぁぁ、スカート、食い込んじゃうぅ」

繋いだ手の人差し指を立て、尻谷に執拗に摺りつけてくる。そのネチっこさ、緩慢過ぎず、速過ぎず、焦らしながら昂ぶらせてくれる絶妙な往来速度。全て好みに合致していて、堪らなく甘露だ。

とうとう視姦する周囲の目が一つ残らず消えてしまっても、真横から舐りつくユウゴの視線に炙られ続けるお蔭で、詩織の背徳の悦びが萎む事はない。

その彼の嬉々とした表情を見れば、今宵の散歩がまだ続く、お楽しみが残っているだろう事も容易に想像がつく。詩織は不安を抱く必要もなく、ただただ摩擦と露出のもたらす甘美な痺れに溺れて、喜悦に悶える下肢を前進させた。

夜九時を回る頃。公園を半周ほどした詩織とユウゴの行く先に、消えた連中の代わりとばかりに、二つの影が映り込む。

「ひひっ、若い二人には刺激が強いかな……?」

ユウゴの視線の先。ちょうど今詩織と立つ場所から真正面、百メートルほど先に位置するベンチに、まだ年若い男女のカップルが腰かけていた。

長いベンチの右端近くに仲睦まじく寄り添い座る二人は、共に耳まで真っ赤になりながら、突如姿を現した変態二人組へと視線を注ぐ。時折目を伏せてはまた堪えきれなくなってチラと覗き見る。いけない物を覗いているのだという感覚を窺わせる少年少女は、共に黒髪で、服装もごく普通。

(……可愛い)

純朴な印象に違わぬ初々しさを目の当たりにして、詩織は思わずほくそ笑む。

(こんな子達に、はしたない格好見せつけちゃうなんて、酷い事だわ。でも……きっと、凄くゾクゾクする……本当の私、その全部を見せつけたら、どんな反応するんだろう。見たい。見せ、たい……!)

保護者目線に近しい微笑みは間もなくして淫笑に変わり、ユウゴに摺りつく腰つきも、ベンチの二人が見えやすい角度を意識して、卑猥なくねりを披露した。

「あの二人はこの近くの塾の生徒で、今時分はいつもああして、短い間だけど話をしてるんだ。手を繋いだり、他にひと気がない時はキスしたり、ね」

下見をしてて見つけ、陰から観察したのだと耳打ちするユウゴの口振りにはありありと今後への期待が滲んでいた。彼らのいる時間と場所を狙って連れて来たという事は、接近しても危険はないという判断を下してもいるのだろう。