不貞妻 詩織 視線を感じて、私……

盛りのついた男女の吐息が、視線が絡み合い、飽く事なく悦の波が行き来する股間だけは強く押しつけ合ったまま、どちらからともなくズルズルと床にへたり込み、互いに汗ばみ波打つ、女の背と男の胸が寄り添った。

「はぁっ、は、ひぃぃっ……ン! また、ぁっ、イクぅぅ……っ」

膣内にたっぷりと打ち放たれた種汁の温みを感じて尻を揺すり、まだ脈打ち続ける肉棒を締め絞っては新鮮子種を啜り飲む。

「はぁぉ……っ。ひ、ひひ、みんな、呆れ顔で見てるねぇ……」

後ろ手に回った詩織の両手ごと抱き締めたユウゴ。その彼も、緩やかな腰振りを続行し、互いの絶頂の余韻を長引かせるのに貢献した。

「みんな、羨ましそうに見て……ぁは、あっ……ああああ……っ」

夢想世界で屋上に集った男女の蔑みの視線。その内に潜む羨望を嗅ぎ取って、詩織は、ぶり返してきた法悦の波へと浸り込む。

(あなたたちが知らない気持ちいい事。ユウゴ君はたくさん、私だけに教えてくれるんだよ。私だけの、最高のパートナーなの……羨ましいでしょう……?)

優悦に加え、占有欲も満たされた女の腹奥に、震えるように脈打った肉棒から最後の愉悦の塊が撃ち込まれた。

「ぁは……あぁ、ぁ、んっ……ん……あ……」

ドロッと勢いのないその噴出が、脱力しつつあった女体には堪らなく心地いい。最後の一滴が染みゆく感触まで堪能した男女の顔が、示し合わせたわけでもないのに向き合った。身の内に残った火照りを絞り出すように、開いた口唇から互いに息を吐きつける。

「んっ……ふ、んむ、ちううぅっ」

自然と迫り合った唇同士が競うように吸いつき、啜って、舌を絡めだす。ネチネチと執拗な後戯に等しい口づけの味に、酩酊させられる。

彼の手の内にある乳房が絶え間なく高鳴っていた。

「……ぷは、あぁ……あぁ、もう、一旦打ち止めだぁ……」

二分ほどして一滴も出なくなり、徐々に胎内で肉棒が萎みだしたのを感じても、結合を解こうという気持ちが、男女双方の胸に生じる事はなく。余韻の波が完全に潰えるまで、なお身を摺り合わせ、共に貪り合った。

「……風、気持ちいい……ね」

膣内にたっぷり詰め込まれた恋人の熱情を、腹の上から撫でさすれば、どうしたって頬が緩み、柔らかな笑みがこぼれる。

「っひ、ひひっ。詩織を抱き締めてるから、ちっとも寒くならないよ」

気味の悪い笑い方と口調。そうした認識は変わらずあるけれど、自分だけに向けられるものと思うと、愛しさが込み上げて仕方がない。

夕刻の、徐々に冷えだした風が、はだけた制服を掠め、肌を冷ましてゆくのに──。身じろぎに乗じて膣内の種汁が波打つのを感知して、肛門が「私にも」と言わんばかりに引き攣れた。四か月越しの渇望を満たされた女芯に幸福感が蓄積する傍らで、より欲深く求める気持ちを、もはや押し殺せそうにない。

「風邪ひくといけないし、部屋に戻ろうか」

「あ……っ」

ユウゴに抱かれて共に立ち上がった瞬間。野外露出セックスの悦びを失いたくない余りに、目ですがった。その想いも全て汲み取った上で、ユウゴが囁く。

「まだ今日は長いから。じっくり、ねっちり……ね……?」

「ふぁ……あぁ」

──やっぱり、堪らなくフィットする。思考も、志向も、嗜好も。初めから噛み合わさるために生まれ落ちたのではと思うほど、しっくりと馴染んだ。

舐りつく視線を浴びて、蕩け眼で応じた詩織に、不貞への後ろめたさが再来する気配は、まだない。演技しているという意識ももう、欠片も残っていなかった。

第六章 公園デビュー

例年以上に厳しい猛暑となった、七月。三十一日の午後に海外出張から戻った幸太郎は、疲労と、時差のせいもあったのだろう。帰宅から二時間ほど経った夕方七時過ぎに床に就き、早々に深い眠りに落ちてしまった。

ユウゴの父が経営する会社とのプロジェクトも成功させ、昇進を果たして以降、一層仕事に打ちこむようになった夫。現在取り組んでいるプロジェクトは海外が取引相手らしく、三十一歳の誕生日を迎えた先月辺りから二週に一度は渡航のために家を空けるようにもなっていた。

反比例して夫婦の時間は減り、最近はこうして会話を交わさぬ夜も少なくない。

(……でも、もういいの。私には居場所がある。待ってくれる人がいる)

嘆息後、夫の寝顔を一瞥して立ち上がった詩織は、足早に夫婦の寝室を去り、洗面所へと向かった。

洗面所の戸を開いてすぐ。真正面の鏡面に、三日ぶりに目にする伴侶の寝顔に何の感慨も抱けなかった事実を淡々と受け止める無表情が映り込む。

冷めた自身の表情に一瞥もくれずに、隅に置いてある洗濯籠の奥にあらかじめ隠しておいた水色のサマードレス──夫の前ではもう何年も見せた記憶のない薄着を手にした。着用時の雰囲気を確かめるべく、広げたドレスを胸元に重ねて目線を上げれば、現金にも頬を綻ばせている己の顔に改めて対面する。

諍いを厭う生来の性分を言い訳にして、夫との関係を清算しようともせず、意中の男性との秘密の遊戯に興じるべく、いそいそと身支度する姿。その内に潜む浅慮と卑怯まで包み隠す事なく、鏡面は鮮明に映し出していた。

直視した詩織は、自虐に囚われながらも身繕う手を止めようとは思わない。