不貞妻 詩織 視線を感じて、私……

いつしか全く夢想の続きを創作していない事実に気づく暇も余裕もなく、ただただ肉の悦びに浸り、胸弾ませ、尻を振る。

「最初が肝心だからね。強引にじゃなく、しっかり丁寧に教えないと、ね」

男の粘着質な声が響く。耳障りに感じて詩織が眉をひそめた矢先に、膣から抜け出た太い指が再度、今度は汁で濡れた状態で勃起クリトリスに摺りついた。

丁寧というよりも執拗という表現の似合うねちっこい手つきで、粘る汁を肉突起にまぶしてゆく。そのヌメリを、潤滑油と、緩衝材の両面で活用して、太い指がクリトリスに擦りつく。汁気に滑りつつ粘液の糸を引き、強かに摘まみ上げたクリトリスを磨くように扱きだす。

「ンッ……! あっ、あぁ……ひぁ、あぁっ」

刺激の強さに、詩織の瞼裏で幾度も白熱が散った。火照りを溜め込み過ぎた肉体に、覚醒の時が迫るのを、否応なく実感する。

同時に、また新たな未知の感覚──下腹部の奥底から湧き上がる強烈な愉悦の痺れを察知して、無自覚なまま詩織の尻が持ち上がり、とどめの一撃を乞い願う。

「イクんだね? いいよ、たくさん……篠宮さんが望むだけしたげるから。好きなだけイって、いいからね……!」

親指と人差し指でクリを挟み扱く傍ら、残りの三本を再度膣口に沈めて、穿り蠢かしては卑猥な撹拌音を響かせる。

同時に乳房への吸引と指愛撫も欠かさぬ徹底ぶりで、身を伸し掛からせてもくる。小太りな体格の汗ばんだ触れ心地すら、迫り来る悦楽に咽ぶ身には嬉しく感じられた。

(駄目っ、怖い……でも、でもぉっ、欲しい……!)

恐怖と期待と恍惚の混濁した感情に呑まれた若妻の瞼が瞬いて、差し込む眩さに惹かれたように、緩やかに開く。真上数センチの至近距離から覗き込む、夫とは明らかに違う面構え。眼鏡越しの細くイヤらしい眼光が、舐るように見つめ返してくる。

「篠宮さんっ、ほら、ほらっ、イクんだっ!」

旧姓で呼びかける男──ユウゴの指がとどめの三擦りを、これまで以上に素早く勃起クリトリスに見舞った。

驚愕に慄く間もないままに、顎を上反らせた詩織の背に衝撃の波が駆け抜ける。両脚がピンと張り、とっさにシーツを掴んだ両手にも力がこもった、直後に──。

「やひっ!? ひぐぅっあっひィィィッッ!」

腰から、脳天と足のつま先。上下に連続で強烈な愉悦が突き抜けてゆく。その都度、制御を離れた若妻の肢体が痙攣し、上に乗る半裸男の腹肉を揺すった。

(なに、これっ。こんなの……知らない。こんなっ……ああああ!)

未知への恐怖は、意識が白むほどの快楽衝動に呑まれて消える。後に残ったただひたすらの恍惚を、思う存分に甘受して──。

「あッッ! はひっ、ぃぃっ、っううううう……っ!」

蕩けきった嬌声を迸らせながら、開きっ放しの瞳に自然と涙が溜まり込むのを知覚した。その涙の意味を、起きぬけの脳で理解する事は叶わなかったけれど。

腰の芯を揺さぶり続ける悦の波の衝撃が、堪らなく甘美で抗い難く、いつしか窄めた双臀にえくぼを浮かべ、快楽が逃げ出さぬよう努めもした。

(あぁ……見られ、てる!)

陵辱者の視線を意識するほど、羞恥するほどに腰がうねる。そうしてまた摺れる男の指との摩擦を堪能し、ぶり返してきた波に呑まれて、イキ果てる。

「ひぃぃっ……あ、はあっあくぅぅぅぅ……っ!」

詩織にとって人生初の絶頂は、繰り返し押し寄せる膨大な量の悦の高波がもたらす、延々の恍惚の中で訪れた。

「ふひ、ひひっ。イッたね? ボクの指でマジイキした篠宮さん。可愛い過ぎて、やばぁ……うひひひっ」

眼鏡の他には赤いパンツ一丁のユウゴが、子供のようにはしゃいで身を揺する。

肥満体のユウゴに組み敷かれて囚われた詩織の身は、夢想の中と同じ姿。スカートを捲られた上にストッキングまで破かれてショーツのみに護られている股間と、剥き出しの乳房を曝した状態で、打ち震える身を投げだしていた。

「ひ……っ、あぁっ! は、あ、はぁ……っ、ひ、また、ぁぁっ……!」

波状に再来する肉悦を浴び、その都度細腰と、ピンと張った両脚を小刻みに痙攣させる。荒く乱れた呼吸を整えようにも、やはり伸し掛かる男の重みが邪魔をして、難儀する。募った焦燥が、染み出した恐怖と一緒くたになって、事態の把握に努めようと懸命の脳の邪魔をする。

──どうして? どうして幹本君と、こんな事になっているの?

言葉をうまく発せられないでいる唇の代わりに、不安に揺らぐ眼で問い質す。

「へへ……」

すると何を勘違いしたのか。赤いボクサーブリーフ一丁のユウゴが、おもむろに唇を寄せてきた。

「ひ……! やっ……!」

とっさに顔を背けた詩織の視界に、見慣れぬ居室の様が映り込む。

詩織自身のそれよりだいぶ広めの寝室は、床に書物が散乱していて、悪い意味での生活感に満ちている。掃除が行き届いていないのか閉じ切りの部屋に漂う空気は埃っぽく、上に乗る男と同じ匂いが隅々にまで立ち込めていた。

「タクシーの中で篠宮さんが寝ちゃったもんだから。休憩も兼ねて、僕の部屋へ連れてきちゃった」

今しがたの口づけ未遂の件も含めて一切悪びれる事なく、言ってのけたユウゴが、にんまりとまた気味の悪い微笑を浮かべる。

(タクシーの中で……寝た?)