不貞妻 詩織 視線を感じて、私……

とうとう踏み出す事となる未知の領域に対しては、先達であるユウゴの示す道なのだから、より極上の露出悦に溺れられるとの、揺るがぬ確信がある。

握る手から伝わる温みにも支えられ、詩織は希望に満ちた目で、これより歩み進む道を凝視した。

「……っ、ふ、……」

夜の外気に震えるのではなく、期待に促されるがまま、水色の薄着一枚で覆われた詩織の胸の二つの膨らみが、乱れる呼吸に合わせて上下する。

確かに地に足をつけているのに、ふわふわと頼りのない踏み心地を覚え、それでも前に歩みだそうとした結果。足がもつれ、隣のユウゴへと寄りかかってしまった。

「おっと。へへ。今回も前もって何日も張り込んで、きっちり下調べしてあるから。危険な連中は来ないよ。もし来てもボクがついてるから。安心して、本当の詩織を見せつけて、大丈夫だからね」

抱き留められただけでも嬉しさが溢れたのに、続く彼の言葉に易々と女心が蕩け落ちる。整っているとは言い難い顔の鼻の下をだらしなく伸ばして、下目遣いにサマードレスの胸元を覗いてくる様すら、愛おしい。

元より露出に伴う視姦悦は望むところ。後は信頼と肯定を得られれば良かった。

望んだ通りに与えてくれた男への恋慕もひとしおに、繋ぐ手を改めて強く握る。

「手、離さないで……最後まで、一緒に、そばに居て……ね」

一人では歩めぬ道も、二人一緒なら、導いてくれるのなら、どこまでもゆける。

「もちろん」

パートナーの扱いに長けた、頼れる手が握り返してきた。目論見通り安堵した詩織が、彼の右肩に額をつけ、再び身を預ける。

暗い公園へと先導してくれる手の温みが、共に堕ちゆく背徳感に耽溺した今の詩織には何より頼もしく、誰より愛しく──掛け替えのない存在に他ならなかった。

ユウゴの言った通り、夜だというのに公園には人が複数名。まばらに点在し、各自思い思いの時を過ごしていた。

「……大丈夫?」

わかっているくせに白々しく尋ねるユウゴの態度も、露出のスリルを煽るためのもの。共に経験を重ねてきた今なら理解できる。なればこそ素直に彼の思惑に乗った。

「う、ん……。……少し、お腹の奥がきゅんってなってる……胸の先っぽも、ジンジン、してるかな……」

ちょうど向かいから来たジョギング中の中年女性とすれ違い様に目が合った直後だったから、素直に今の心情を、パートナーが悦びそうな言葉を選んで吐露する。

中年女性がすぐに視線を逸らしたために、実際は物の数秒と見られていないのだけれど、露出中に初めて目が合った、見つめられた、という状況そのものが詩織の身に恍惚を呼ぶ。

ドレスの胸元や脇から忍び込んだ夜の冷えが素肌に染むたび、身に纏う布地の心許なさを痛感させられる。そこかしこの陰から誰か覗いているのではと思わされ、身をビクつかせてしまう。自然と肌が敏感となり、わずかの注視を浴びただけでも心臓が高鳴り、頻繁に背に恍惚の痺れが突き抜けてもいた。

「……なあ、今の」「ちょっと、何見てるのよっ」

(あ……ほら、また、ぁぁ……)

遊歩道を歩んでしばらく経った頃に行き違った男女二人組が、詩織のさらなる被虐を誘う。共に二十代と思しきカップルのひそひそ話に耳そばだてる詩織の興奮を、繋ぐ手の火照りと震えから汲み取ったユウゴもまた、ほくそ笑み。

「……さっきのカップル。男の方がじっと詩織の胸、見てたね」

琴線に触れる言葉と、舐りつくような視線で恍惚の後押しをしてくれた。

「ン……胸、上から覗かれてたの、はっきり感じたわ……。多分、ノーブラなのも、気づかれちゃってたと思う……」

パートナーの奉仕に感謝して、自ら吐いた内容を二度三度と反芻、ひとしきり身悶えた後、蓄積した爛れた熱ごと吐き出すように、大きく息を吐く。

名も知らぬ男の照りつくような熱視を浴びた胸元が、今もってひりひりと疼いていた。そこへ、ユウゴの嫉妬混じりの視線が舐りつく。名も知らぬ男の視線の痕跡を上書きしようと、乳房の隅々まで舐り尽くす恋人の眼差しが、やはり一番肌に合う。

「ユウゴ、くっ、ふぅ……ぅぅんっ……」

不特定の視線を意識する余りに内股歩きとなり、進む都度摺れ合う内腿に、また新たな熱が蓄積する。下着を着けてないのを誰かに気づかれてはいまいか。意識するほど露骨に尻を我が手で覆った。

(こうすることで、かえって変に見られちゃう、かもっ……)

手を繋いで寄り添い歩むユウゴへの強い信頼のもと、望んで危険を冒し、増大した被虐悦に浸る。今も周囲に目を光らせ、安全を図ってくれている彼と一緒なら、宙の綱を渡るような状況も心の底から堪能できた。

「……は、ぁ……ぁぁ」

夜風を浴びた二の腕や胸元とは対照的に、スカートの下の内腿と、ドレスの裏地に度々擦れる乳房とが、粘つく熱を溜め続ける。堪らず口唇より吐き出た短い喘ぎが、予想した以上に闇夜に響き、長く居座った。その際の緊張とスリルを抱いたまま周囲の目を意識すれば、より苛烈な淫熱が四肢末端にまで満ちる。

その間も、並び歩むユウゴの脚は止まらない。目線だけ向けてドレスの胸元を覗き込み、双球と谷間に浮く汗を舐り尽くす勢いで愛でてくれている。

「もう……濡らしてるでしょ」

嘘か誠か。においでわかるよ、と続けたユウゴが、繋いだままの手を動かし、そよぐスカートごと詩織の臀部を撫で回す。