女子校生令嬢たちの淫らな保健実習

薫の弱々しい弁明など誰ひとりとして聞いていない。ある少女は胸元を両腕でかき抱き、またある少女は胸元と股間に両手をあてがい、甲高い悲鳴を発していた。

「どういうことですのっ?」

桜子は、脱いだばかりのブラウスで胸元を隠しながら、鋭い視線で新任教師を射抜いている。下半身には制服のスカートを穿いているのに、上半身はブラジャーのみ。まさに着替えの最中だったのだろう。

令嬢の気高い美貌は朱に染まり、その瞳は静かな怒りに満ちていた。

学級委員から少し離れたところでは、伊勢由香里が棒立ちになっている。

眼鏡が似合うこの内気な少女は、ブルマーを穿き、控えめなふくらみのブラジャーをさらけ出したまま、身体を硬直させていた。

「ひいっ……」

薫と目が合うと、由香里は小さな悲鳴をもらす。

知的で可憐な顔は一瞬にして蒼白になり、それから見る見るうちに赤くなった。両手に握りしめていた体育シャツを、弾かれたように胸元へ当てる。

「あ、あの……。桜子くんも由香里くんも聞いてください。これは違うんですっ。ぼ、ぼ、僕は陥れられたんです……」

「言い訳など聞きたくありませんっ!」

桜子の顔つきがさらに険しくなる。

「違いますっ。教室で喧嘩が起きていると飛鳥さんから聞いたので……」

「見え透いた嘘など、見苦しいですわ」

取りつく島もない。

「早く出ていってくださいっ」

女生徒たちの視線も痛い。

三十人以上の眼差しは鋭い針となり、四方八方から薫を突き刺すのだ。

「は、はいっ……。すみません……」

こけつまろびつ、下着泥棒さながらに薫は教室から逃げ出す。

飛鳥をとがめることさえ忘れて、命からがらに教官室まで逃げ戻ったのだった。

そんなことがあったため、球技大会で審判をしている時も、女生徒たちの視線が気になって仕方がない。覗き魔とか変質者とか噂されているような気がするのだ。

いや、それよりも薫を困らせたことがある。

(ど、どうしよう……。女生徒たちのブルマー姿を見ていると、何だか……)

国語教諭の薫は、体育の授業をまじまじと見たことなどはない。女生徒たちが体育シャツやブルマーを着けている姿は新鮮で、心ならずも胸が高鳴ってしまう。

真っ白なシャツの胸元に乳房のふくらみが浮き出ている様や、濃紺のブルマーが描き出すお尻の丸みを目にすると、平常心ではいられないのだ。ボールを追いかける少女の胸元で体育シャツのふくらみが揺れ弾む様や、ブルマーを穿いたお尻がぷりぷりとくねる様に、ついつい目を奪われてしまう。

心が騒ぐだけならばよいのだが、股間のものまでが落ち着きをなくしてしまう。

(鎮まれ。鎮まれったら……。ああぁ、こんなところを生徒に見られたら……)

ジャージの布地はスラックスのそれよりもずっとやわらかく、逸物の状態を顕著に映し出すこととなる。早い話が、男性器の勃起ぶりがあらわになってしまうのだ。

鎮まれと自らに言いきかせてみても、一向に効果がない。

それどころか、股間の逸物はますます脈動して、身を強ばらせつつあった。

(恥ずかしいのに……どうして勃起しちゃうんだろう……)

ジャージの内部で男性器を強ばらせながら、薫は思い悩むのであった。

球技大会の初日が終わった午後、薫はひとりで体育倉庫の後かたづけをしていた。

(どうして僕が……)

教室での一件が学院長の耳にまで届いてしまったのだ。

女生徒の悪戯によって陥れられた、という薫の訴えは何とか認められたが(どうやら、新任の男性教師にそういう悪戯をするのが女生徒の間に伝統としてあるらしい)監督不行届ということで体育館の倉庫での備品確認を申し渡されたのだ。

外の体育館では早くも部活動が始まっていた。運動部員たちのかけ声や床を蹴る音、ボールを打ちつける音などが、体育倉庫にまで聞こえてくる。

賑やかな音を聞きながらひとり寂しく備品確認をしていた時、倉庫の重い扉が細く引き開けられた。人ひとりが身体を横にしてようやく通れる隙間からすべり込んできたのは、体育シャツとブルマーを身に着けた二人の少女。

「薫先生、いますか?」

悪戯な笑みを浮かべながら、飛鳥が扉の隙間をすり抜けてきた。

もうひとり、胸のふくらみをつかえさせながら隙間を抜けてきたのは桜子。

「話は飛鳥から聞きましたわ」

旧家の令嬢は、球技大会の時とはうって変わって穏やかな表情をしている。

覗き事件の後、桜子が薫を見る眼差しはまさに氷点下であった。

しかし今は違う。つんと澄ましているのはいつも通りだが、凍てつくような鋭いとげが視線からすっかり消えているのだ。

「飛鳥にだまされたそうですわね」

どうやら、ことの顛末を飛鳥が洗いざらい白状したらしい。

ポニーテールの猫科美少女は、体育倉庫の扉を閉めながら悪びれずに笑っている。

「女子校の教師として、着替えシーンにも慣れてもらおうと思ったんです」

全く謝る気のない飛鳥を、桜子は冷ややかな視線で射抜く。

「飛鳥さん。あなた、薫先生に謝罪なさい」

野性味の香る美貌が、とびきり悪戯で蠱惑的な笑みに輝いた。

「もちろん謝るよ。そのつもりで来たんだから」

密室になった体育倉庫で、飛鳥はさりげなく新任教師の身体に寄り添う。

体育シャツとブルマーが似合う肢体をすりつけて、上目づかいで薫を見つめた。