ヤブヌマ 侵食されゆく妻の蜜肌

すでに咲美の下肢をも弄んでいたのだ。そればかりではない。

驚愕する夫を尻目に、大口を開けた奴の唇が、咲美の右乳房に迫る。

「やめっ」

届くはずもない制止の言葉を、言い切ることすら許されなかった。

『んぶぢゅうううっ』

食らいつくや、舌を蠢かせて乳首を舐め転がし始める藪沼。陰になっていて視認ならずとも、音の響きや男女の身の動きから容易に想像がつく。藪沼は右手で咲美の左乳房を捏ねながら、卑しい吸引音を響かせていた。

『嫌っ、あっ! やめ、やめて、えぇっ』

吸いつかれた瞬間から咲美の表情は歪んでいる。火照りを吐くばかりだった口腔から、拒絶の言葉がこぼれてもいた。

──それでも。

『んぶぷ……ほぉら、こっちも、っ。ぁむちゅッッ』

攻め場所を左乳に変えた藪沼の舌と、おそらく歯にも乳首を嬲られると、あえなく仮面が剥げ落ちた。

『……ンッ、ふ……っ』

堪えきれぬ甘美が、ぎゅっと結ばれた彼女の口腔の底より噴き漏れる。

『乳首、両方ともすっかり硬いよ、アサオカちゃん』

『……ンン、はっ、っン、ン、ッ、ンン、ッッ!』

右から左、そしてまた右へ、藪沼の舌が、歯が、唾液が、咲美の乳房に摺りこまれていくにつれ。テラテラと濡れ光る乳首が、堂々とその勃起を誇示して──けれどそれは夫の目に届かず、ただ一人藪沼の目を愉しませている。

結ばれた妻の唇は、震えっ放し。その内に閉じこめられ、行き場をなくした末に、くぐもった吐息が漏れ落ちる。聞きたくないと思っても、その切なさと甘美の入り混じる響きに、耳を澄まさずにいられない。もどかしげにうねる妻の尻を、叶うなら鷲掴みし、藪沼以上に感じ入らせてやりたかった。

『ぷはっ。それじゃ、こっちも……ねっ』

解放された咲美の右乳首と、藪沼の唇との間で唾液の糸が引く。糸はじきに切れてしまったが、藪沼がわざわざ画面を向いて喋ったがために、奴の唇に残る残滓が嫌でも視認できてしまう。

こっちも、と告げた際、奴の左手が咲美の股下でもぞついていたのも、当然見逃してはいない。その意図を察して、喉奥がひりつく。苦しげに張った股間の根元から、止め処なく湧き続ける嫉妬の熱が、疎ましくも、愛おしい。

「咲美……っ」

──お願いだから、耐えてくれ。

──どうか、もっと、痴態を曝して。

共に愛情を源とする二つの願いが、喉元でぶつかり、結果、嗚咽だけが漏れる。

注がれた側である妻は、股下で蠢く藪沼の手指に喘がされるがまま、頭の位置を下げた。おそらく、愛撫に耐えかねて膝を曲げたのだ。

『やっ!』

咲美の短い悲鳴を受け、改めて画面に食いつく夫の眼に、藪沼のニタニタ笑いが映りこむ。奴はまるで職人のような澱みなさで位置取りを済ませると、屈んだ目線の先にちょうどあった咲美の股座へと、躊躇なく抱きついた。

それと同時に、奴が何らかの方法で操作したのか、画面が突如ズームアップする。

「……ッッ、な……! あ……」

藪沼の指で左右に割り開かれた双臀と、その谷間で息づく薄褐色の窄まり。咲美の秘すべき恥部が、画面一杯に大写しとなった。

『はむっ、んぶぷっ、れぢゅっ、ぢゅちぅぅぅっ』

間を置かずに、藪沼のものであろう吸着、吸引音が響き渡る。

『ひっ! ぁン……! ンン……ふッ、うう……っ! ンン!』

次いで、必死に堪える、なれど艶をまったく隠し通せてない咲美のくぐもった喘ぎが、悶え揺らぐ尻の動きと共に飛びこんできた。

(咲美が、感じてる。藪沼の舌と唇に、喘がされてる……)

震える双臀の谷間でヒクヒクと、物欲しげな収縮を重ねる彼女の尻穴が、何よりも雄弁に物語っている。

十年近いつき合いの中でも初めてまじまじと凝視した、妻の排泄穴。その蠱惑的な蠢きに、目は釘づけとなり、早鐘のように鳴る心臓に煽られるように、スウェットの奥の男根が張り詰めてゆく。

『出てきた、出てきたよアサオカちゃんっ』

じゅるじゅると響く藪沼の吸引音。続けて嬉しげな奴の声が響き。

『はっ、ぅ……あ、あぁっんっ、や、ぁぁっ』

喘ぎの合間に拒絶の意思を知らせる咲美の、切ない声音が届く。

「咲、美っ……ごめんっ……僕は、ふ、っ、うう……ふううっ、ふ、ぅぅぅっ」

彼女の声が切なくあればあるほど、その煩悶が伝わるほどに、夫の胸内で卑しき妄想が成育する。カメラアングルのせいで未だ正面から妻の裸体を視認できないという状況のもたらす焦れと悔しさが、この上なき妄想の糧となった。それもおそらくは、藪沼の目論見の内。屈辱に思えども、一度膨らみ出した妄想を止めるすべはない。

(咲美を、愛してる。だから、だからこそ僕は……)

──この妄執からは、逃れられない。

──逃れたくない。

認めたが最後。歯止めの利かなくなった卑しき塊が、瞬く間に肥大する。

咲美が抵抗らしい抵抗を示さないのは、早く済ませたいと願っているからだ。

──声を堪えるのに手一杯なんだ。この目で見たんだ。それは紛れもない事実。

──奴のしゃぶり方が上手いのさ。だから守勢に回らざるを得ない、音の響きからも想像がつくだろう?

正反対の期待が同時に胸を衝く。胸からへそを伝って、下腹へ──内なる芯に、より強く響いたのは、またも後者。

(咲美は、クンニされるのを嫌ってた。恥ずかしいから、汚いから、って、だから僕は、気を遣って、それだけは避けるように……なのに、どうしてだよ咲美! どうしてそんな奴に)