ヤブヌマ 侵食されゆく妻の蜜肌

『おぅ、ふ、おっ……ふっ……あぁ。ほんっと、最っ、高だよぉぉ』

蕩け眼の藪沼が耽溺している、その味を。

画面越しに見る限り、苛烈な性的昂奮をもたらすそれを。

妻を想えばこそ、我が身で味わえない。

『ふごっ……! んっ、んむっぢゅうううっ』

画面の中の妻が首を傾ける。上向いた彼女の右頬が、含んだままの男根に内より突き上げられ、ぼっこりと盛り上がっていた。そのまま咲美の頭が前後、上下に振れ動き、右頬も、凹と凸、交互に目まぐるしく様変わりする。

『おぅっ……しかし、仕込まずに済むのも良し悪し、だな。なんとなく物足らん』

喘ぎながら贅沢をほざく藪沼に、咲美の睨みが向く。薄く開いた彼女の瞳は、未だ先刻の交尾の余韻を、潤みを宿したままだ。

『おっと、ごめんごめん。それだけアサオカちゃんの全部を僕色に染めてみたいってこと。愛ゆえにってことで、許してよ。……ね?』

気味の悪い猫撫で声で臆面もなく告げながら、咲美の頭を撫ぜることで許しを請う。咲美は鼻で嘆息すると、また奉仕に没頭するべく、目を閉じた。

諦めを纏った女の喉が鳴る。口中に溜まった唾と、剥き身のペニスから滴る先走り汁との混合液を嚥下したのだ。愛しき妻の胃袋へ、忌まわしき男の分泌液が落ち、染みてゆく。咲美の身体の一部となって息づいているのだと思うと、嫉妬を凌駕する昂揚が、手淫に耽る肉竿に漲る。

出し入れの際に垣間見える藪沼のペニスに、先刻の情交の痕跡はまったく見当たらない。藪沼の性格と、セックス後すぐにフェラに及んだ流れとを勘案すると、自然と一つの答えにたどり着く。

(咲美に、舐め取らせたんだ、全部っ……。あのこってりとした種汁が、フェラに勤しむさなかにも咲美の腹の中を泳ぎ回って……っ!)

吐き気を催さずにいられない。なのに、一層硬く猛った肉竿と掌との摩擦がもたらす電撃めいた痺れが、罪深き夫の脳と、心と、股間を焦がしつけてやまない。焦土と化しながらも未だ麻痺せぬ痛みと甘露に憑かれて、無様な自慰を敢行し続ける。

『ぇはっ……はぁ、は……れぢゅぅぅぅぅっ』

ようやく咲美の口より吐き出された藪沼の肉棒が、ホカホカと湯気を立てていた。その幹へと間を置かずに吸いついた舌が、亀頭目指して滑り這う。舐めながら啜る猥褻音が、またも咲美の唇と藪沼の肉棒との接点より轟き渡った。

ヤブヌマ 侵食されゆく妻の蜜肌 ヤブヌマシリーズ

その音色にまで炙られて、見入る瞳から涙を、開けっ放しの口からよだれと吐息を落としながらの自慰が続く。

「咲美……咲美っ、咲美ぃ……っ」

妻の名を呼びながら、みじめを噛み締めるほどに、掌に擦れる肉竿の内に巡る喜悦の量が増してゆく。咲美に対する恋慕の深さを再認識しながら、自傷さながらの自慰に没頭する。他者から見れば理解不能な行為に違いないと思う一方で、だからこそ魅入られている己を痛感せずにはいられない。

そんな男を嘲笑うかのように、また咲美の携帯電話の呼び出し音が鳴った。

『っふ、っ!?』

藪沼の逸物を根元まで頬張った状態で、動きを止めた咲美が狼狽える。

それを目にしていながら。否、目にしたればこそ、藪沼はさっと伸ばした手で携帯を取り、許可もなしに通話のボタンを押した。

(きっと最初から。僕からまた電話がかかってくるのを見越したうえで、携帯に手が届く位置取りをしていたのだ)

卑劣な男が口の動きだけで『出て』と咲美に語りかけている。咲美は首を振って拒絶の意思を示したが──無理に握らされた己の携帯をどうにもできず、結局は恐る恐る耳に宛がう。

『……もし、もし……』

咲美の震え声が受話器越しに夫に届いたのと同時に、藪沼の口がまた大げさに動き、ある言葉を無声で表現した。

『……と、智……っ』

咲美は奴の指示に従うことなく、夫に、助けを請うような声音を、掠れ、震えながらの響きを発する。

(この時の咲美は……受話器の向こうで、不安のあまりに怒鳴りつけるような声を発した僕に、何を思ったのだろう)

涙目を、藪沼の陰毛の茂みに埋まらんばかりに伏せている様子から窺う他なく、そうすると嫌でも、雄々しく反り返った奴の逸物までもが視界に割りこんでくる。

続けて──三度重ねての要請にも咲美が動くそぶりを見せないでいると、藪沼の目の色が変わった。悪巧みを楽しむように、逸物までもが喜々と弾む。

「……ッッ!! 咲美ッ……気づいて、ないのか? 奴の手がっ」

通話に意識を傾ける咲美の傍らを行き過ぎて、そろりと近寄った奴の左手が、もじつき通しだった牝尻の谷間に這うや、一気に滑り入った。

不測の事態に、咲美はどうにか声こそ堪えたものの、揺らぎだした尻を制御するまでには至らない。当初は抵抗のためだった尻振りが、藪沼の手がもぞつくたび、わずかずつ卑猥なくねりを帯びてゆく。

藪沼を睨みつけていた咲美の顔に、羞恥と恍惚の火照りが差しこみ。

『智っ……』

そのまま、再度夫の名を口にする。

(この時、僕はただ鸚鵡返しに問い返すのみだった)

状況を知っていれば。もっと他に何かできただろうか。しても詮無い仮想に気を取られたのも、束の間。

『い……いいの……』

諦めるようにまた目を伏せた妻が、藪沼の手指に尻の内側の肉と、たぶん、尻穴までも穿られて、切々と腰を震わせる。そうして、堪りかねたようにまつ毛も震わせたのち。赤舌を静々と、黒ずんだ肉幹に添わせた。