ヤブヌマ 侵食されゆく妻の蜜肌

視聴しながら我が手で擦るのが精々の己の男根との状況の差に、屈辱を覚えずにいられない。蓄積された屈辱が歪な恍惚の種となると知っていながら、すでに過去の出来事である映像の中の男に恨みをぶつけずにいられなかった。

藪沼の肉棒は、一見しただけでわかる際立った大きさと、異様な圧力を有している。黒く血管を浮き立たせた肉竿は誇らしげに天井を向き、巨大キノコを思わせる傘部分の出っ張り、段差も凶悪だ。

その逸物で、奴は実にゆっくりと、卑猥な腰の動きも用いて、咲美の秘裂を擦り続けている。幾度目かの往復の過程で、藪沼のヒクつく亀頭から垂れた透明な滴が、糸を切らすことなく咲美の下腹部に落ち、摺りこまれていった。

(あれが。あんなものが、咲美の中に入るというのか)

卑しさと逞しさを具現化したような逸物。夫の物よりも一回り以上大きく、長いそれの味を、同じ屋根の下で今も眠っている妻が身に刻み、覚えこまされているやもしれない。危機感に怯え、スウェットの奥のペニスが牽制めいた脈を轟かす。己の右掌に伝わるのみの空しい遠吠えに付随する切なくも甘美な衝動。それを押さえこもうと右掌を押しつければ、圧によって押し出された悦がカウパーという形でトランクスに新たな染みを刻んだ。

『約束通りにゴムはつけたから。先っちょだけ、入れるよ』

羞恥と恍惚に再度呑まれゆく傍観者を煽る言葉が、藪沼の口より発せられる。咲美の忌避を和らげるため、クリアピンクのコンドームに押しこまれた肉厚の筒が、雄々しくも狂おしい脈動を見せつけた。

『ただし、その後は……』

焦らす意図も露わに、ゆるゆると。

「何、言うつもりだ……早くっ、言え。言えよっ……!」

意図にまんまと嵌まった夫と、怯えの渦中で黙りこくるのがやっとの妻に言い聞かすべく、一言一句はっきりとした発音で。

『アサオカちゃんが合図してくれるまでは、入れない』

ニタニタと笑みを絶やすこともなく、余裕たっぷりに言い放つ。

『そうだな。僕の指、軽く握ってくれたら、それが合図ってことで』

ぺらぺらと語り、一人勝手に決めていく奴に耐えかねたのだろう。ようやく咲美が薄目を開けて、抗議する。

『そんなの……いいですっ。いいからさっさと済ませて……』

早口に、恐怖と苛立ちが覗いていた。

(咲美は必死になって……耐えようとしてるんだ)

──さっき、あれほど喘いでいたのを忘れたか?

(うるさい! あれは肉体が生理的に反応しただけ。咲美が望んだわけじゃない)

──どちらにしろ、あれだけ前戯でほぐされた女体が、持ちこたえられるわけがない。

(だからなんだ。それは、話を受け入れた時点で覚悟の上だったはずだ!)

そう、彼女の心さえ穢されなければ。たとえこの先の映像で肉体が穢されるのだとしても。

(それは……僕が望んだことでもあって、だから問題はない……はずなんだっ)

だというのに、延々と炙られ続けた不安と恐怖で、胸がはち切れそうだ。

スウェットにテントを張った男根が意地汚い鼓動を響かせ、むず痒い衝撃が腰の奥に届く。それがまた、さらなる刺激に焦がれる引き金トリガーとなるのだ。

『そんなんじゃ、僕はしたくないんだ。セックスってそんなもんじゃない』

宣言通り、藪沼は決して自ずから突き入ろうとせず、ひたすらに咲美の割れ目を擦る動きに専従していた。喜悦の鼓動と先走りのつゆのみを置き土産に奴の腰が引かれ、肉の摩擦が遠のく際。摩擦を浴びる回数が増えるほど。

咲美の呼吸は乱れ、下腹の波打ちも忙しくなっていく。何事か言おうと口を開いては、慌てて閉じるのを繰り返す。喘ぎが飛び出かけて噤んだようにも見えた、その唇の端に、彼女自身の唾液が一滴。漏れ落ちそうになっているのが見て取れた。

押し殺しきれぬ悦が、今にも溢れ出さんとしている予兆なのでは、と。悪い方に妄想の舵を切ったことで、悶々とした熱が止め処なく男根へと注ぐ流れができあがる。

『今、この瞬間はすべてを忘れてくれなきゃ。でないと、僕は続けられないな』

(当初、酒に酔わせて強引に、なんてほざいた口が何を言う。咲美、そんなの無視しろ。合図なんてしなくていい。……心だけは、強く保っていてくれ……!)

これは過去の出来事なのだ。今さら何を言っても遅い。わかってはいても、否、わかっているからこそ、画面に向かって心の叫びを上げずにいられなかった。

『旦那のこと忘れて思いっきり楽しむ気になったら、合図して』

『そんっ……なっ』

咲美が言葉を詰まらせる。彼女の中に強く「夫を裏切りたくない」感情があるのがわかり、束の間の優悦が夫の胸に染んだ。

『嫌なら合図しなければいいだけの話だよ。じっとしてればいい』

わざと無碍な言い方をする藪沼。ニタつき通しの唇に、いやらしい本性が丸出しだ。

(咲美……っ。奴は、ただ焦らして楽しんでるだけだ。わかってるよな!?)

引っかかってくれるな。こんな手に。願いをこめ見つめた画面が、また切り替わる。

別のカメラからの映像なのだろう。後方からの構図で、咲美の濡れた小陰唇に伸し掛かる藪沼のエラ張り亀頭が、ひと際禍々しく大写しとなった。

『とりあえず、先だけ……ねっ』

二度、三度と往復してコンドームに咲美のツユを馴染ませた後、奴が不意に前言と矛盾することを言う。宣言は、夫の制止も、咲美の応答も待つことなく即座に実行される。