ヤブヌマ 侵食されゆく妻の蜜肌

「母校のすぐそばの通りで」

より舞台を意識させる言葉を放つと、耳まで真っ赤にして、咲美がまたイヤイヤと首を振った。もうすっかり湿り気を吸ってスジ状に染みの浮いたショーツの前面を、夫の手に押しつけながら──。

あえて彼女の知り合いに見つかる危険性の高い場所を選んだのは、正解だった。咲美の人一倍の羞恥心がプラスに作用するのを期待していた智は、思惑通りになった事を密かに喜んだ。

昼まで行動を共にしていた娘は、咲美の実家へと預けてある。迎えに行く約束の時間まで、まだ二時間以上。そのギリギリまで性交に勤しむつもりで、智は自らベルトを外し、ズボンとトランクスを一緒に下ろして、屹立した肉の棒を手に握る。

れちゃっていい?」

ブラジャーのホックを外しながら尋ね、根元を捕まえた状態の肉の棒を見せつけた。こぼれ出た二つの乳丘が、覆いを外された反動で縦に弾む。その様を凝視して、智の肉棒は一層血潮を漲らせ、しなるように躍動した。

「あ……んっ、ほんと、やめようよ……智ぉ」

口だけの抗弁の傍ら、咲美が左右に投げ出した足の付け根をひくつかせ、潤む眼で無言の催促をよこす。

愛する妻の視線が脈打つ男根に注いでいることが、さらに夫の尊厳をくすぐった。智は勃起を握り締めたまま、身を乗り出して咲美の乳を吸った。

「ひゃ……あ……ンッ……だめ、それっ、あっあぁぁ」

吸引の強さによって伸び方の変わる乳房を、優しく揉み解してやりながら、舌先を蠢かす。舐め転がすにつれて硬くなってゆく乳首を、左右交互に愛でては甘い艶声を引き出した。

女体の準備を整えるのと同時に、改めて決断を迫る。

「誰が覗いてたって、咲美だってバレなきゃ、大丈夫。僕が覆い被さって隠すし、もし何かあっても、絶対に護るから」

まっすぐに見つめて告げると、咲美は羞恥でとっくに真っ赤の顔を、照れでより火照らせ。

「ん……もう……知ら……ないっ……」

視線を背けつつも、承諾の意思を示してくれた。夫の手がショーツのふちにかかっても払い除けようとせず、腰を浮かせて、脱がす助けともなってくれる。

「すごいな……いつもよりずっと、濡れてる」

人一倍の羞恥心を煽る作戦の予想以上の奏功ぶりに、目を見張る。ベッドで普通に営む際と比較して、明らかに蜜の量が多い。ヒクヒクと物欲しげに蠢く女陰の淫猥さが、日中の明るさの中で拝むと、より強烈に感じられもした。

「もぉっ、智っ、怒るよっ! ……そっちだって、いつもより、その……おっきくしてるじゃん……」

股に注視を浴びる羞恥に耐え忍びながら、咲美が拗ねた表情を形作る。その内に潜められた恍惚の彩りが、蕩けた彼女の眼差しから嗅ぎ取れてしまう。

「咲美が、とってもエッチだからだよ」

夫の率直な褒め言葉に、そっぽ向いたまま、羞恥と喜びを交えた笑みを密かにこぼす、咲美。

誰よりも愛おしい妻と、一刻も早く繋がりたい。滾る情愛を示すように肉の棒が天を突き、彼女の視線を独占する。もう、言葉での確認は必要なかった。気持ちは、視線で伝え合える。長い時をかけて築き上げた絆の確かさを噛み締めながら、熱漲る互いの生殖器を摺り合わす。

「んっ、ぁは……あぁ、んぁっあぁ」

聞き慣れているはずの妻の甘い鳴き声。それが今日はより高く、一層甘美に夫の耳朶をくすぐった。咲美も、夫の唇が漏らした息の熱を、嬉しげに目を細め、浴びている。共に、相手の肢体の放つ熱に浸り、摩擦の悦に酔っていく。

「と、智っ、早っ……く、っふぅっ、うぅンッ!」

とうとう堪えきれなくなって請願した咲美の、つゆだくの秘裂を勃起ペニスで穿った瞬間。これまでにない膣内の熱っぽさに驚かされる。同時に、痛切な恍惚の痺れが智の股間の芯に突き抜けた。

車中とはいえ白昼堂々人目のある場所で事に及ぶというスリルも相まって、熱情に憑かれた肉の棒を、繰り返し女陰へと突き刺す。

「あっ、あぁ、んっ! は、激しいよ智っ、あっ、やぁ、ぁひっあぁ……っ!」

日頃自宅のベッドで交わるのとは大違いの、貪るようなセックス。学生時代の貪欲さを思い返すに充分の、昂奮が確かに備わっていた。

目配せだけで互いの意図を察して、阿吽の呼吸で双方が腰を振る。ただ貪るのではなく、相手を愛でる意識を常に有し続けられてもいるから、なせること。理解していればこそ、見つめ合うだけで胸の奥から温かいものが溢れ出す。

身と心が、同時に満たされている。至福を噛み締めて然るべき、状況だった。

なのに──打ち消せたと思っていたあの言葉、スワッピングという単語が再び、智の内で鎌首をもたげだす。

(結婚前にもした事がなかった、カーセックスをしてるんだぞ!? なのに……)

結婚前、ホテル代がなく、車中で互いの性器をまさぐったり、手や舌、口での愛撫に興じた経験はあった。しかしその時でさえ、人目につかぬ場所を選んでいたのだ。車中で性交にまで及ぶのは正真正銘今日が初めてだ。

いつも以上に喘いでいる咲美を前にして、突き立てる肉棒の硬度も熱量も増し続けている。

(なのにっ……どうして……まだ、足らないっていうのか!?)

かつてを超える状況を作り、初めて尽くしの昂奮に浸かってなお及ばぬというなら、もはや胸内を占め始めた衝動に抗うすべなどないのでは──と。股間にひしめく愉悦とは真逆の、諦観じみた感覚が胸内に敷き詰められていく。