『やっ』
『やなの?』
馴れ馴れしいやり取りが交わされる間も、咲美の眼は閉じたきり。自分から腰を動かそうとしないのは、そこが彼女なりのデッドラインだからだろう。
愛しき妻は、じっと股間の歯痒い刺激に耐え忍び、かつ甘受していた。
『なら、ずっとこのままだ』
無慈悲な藪沼の言葉を受けて、瞑り通しの咲美の瞼と、まつ毛が切なげに震える。夫の目には今にも泣きだしそうに映った。
『ほら』
余裕たっぷりに藪沼が腰を揺するたび、あっ、あっ、と小さな響きが咲美の唇よりこぼれ出る。そのぷりっとした唇にも唾液が染み、瞬く間に艶めきを強めていった。噛み殺そうとするものの、結ぶこともできないでいるさまが、彼女の切迫ぶりを鮮烈に伝える、
それでも咲美は自ずから動こうとはしなかった。またイヤイヤと首を振るばかりだ。
(そうだ……咲美は、こんな貶めるような真似をされて、自分から腰を振る女じゃない。まして、夫以外の男に抱かれてる状況でなんて……あり得ないんだ!)
彼女は見かけによらず頑固で、強い意志を持っていて、一度決めたことは必ずやり遂げる。約束だって守る。尊敬に値する、愛しい女性なのだ。
(辛いよな。苦しいよなっ!? だけど……だけど、どうかっ……耐えてくれ)
この時ばかりは、なぜか卑しい欲望は湧かず、期待にすがる想いが急膨張した。
思いの丈をこめた眼差しで、画面を食い入るように見つめる。耳も体感も澄まし、映像のみに集中させた。すると──。
ぱふ、ぱふ、と、ごく小さな音だったが、研ぎ澄まされた聴覚が知覚する。
期待にすがっている夫の眼に、わずかに前後に揺らぐ妻の裸身が映りこむ。
胸のざわめきに抗ってより神経を研ぎ澄ませば、先ほどの「ぱふ、ぱふ」の出所も判明した。それは咲美と藪沼の接点──双方の腿と、咲美の尻と藪沼の腹。各々の肉がぶつかる際に紡がれている。藪沼の腰は、自ずから動いてはいない。
咲美が腰を揺すって、わずかに藪沼の腹をノックしているのだ。
「どう、して……っ」
──身体の疼きを、求めを堪えられるわけない。とっくにわかってたことだろ?
のさばっていた期待を、歪な欲望が凌駕し、呑みこんだ。
『そう、そうっ、いいよ、もっと大胆にっ』
藪沼の導きに従って、ぱふ、ぱふ、が回を重ねるごとに大きくなる。合わせて、藪沼の腰がタイミングを取り出すと、ぱふ、ぱふ、は再び、パン、パン、に変わった。
『ほれっ! これくらいの勢いで!』
平手打ちを食らわせられたような音を、咲美の尻が奏でる。ぶつかった藪沼の腹肉と、咲美の尻肉が共にたわんで、喜々と弾んだ。
『んあっ! はぁ、あぁぁ、っ……ひ、ンンンッッ! はひィィィッ』
お返しとばかりに咲美の腰が勢いよく打ちつける。その返礼で藪沼が、また咲美が、藪沼、咲美──交互にぶつかっていたのが、次第に重なり、ほどなく同時に打ちつけ合う格好となった。
『あっ、んっ、はひ、いぃっ、やっ、ぁぐ、だっ、んひっ、ふぐっぅぅぅんっ!』
藪沼はもちろん、咲美も、もはや性的欲求を押し殺すそぶりすら見せなかった。
勝利の笑みを浮かべた藪沼の両手が、咲美の白く柔らかな、マシュマロのごとき尻たぶを左右に割り広げる。そうして剥き出された薄褐色のすぼまりを、上体を起こして見下ろしつつ。汁気をたっぷりと含み蠢動している、待ち焦がれている秘唇に応えるべく、藪沼の腰がスパートをかけた。
『はひっ、ぃやぁぁっ、あひんっ、はひっああひゃっはあああ……っ!』
忙しく紡がれる喘ぎの合間に、咲美の唇が別の動きを見せる。だめ、だめ──そう、彼女は懸命に拒絶の意思をも紡ぎ続けている。一方で、汗だくの裸身の火照りを色濃くし、滴る汗を糊代わりに、藪沼の腹と己の尻肉とを吸いつけ合わせたまま、フリフリと淫靡な腰振りを披露してもいた。
心と裏腹の肉体の感応。それは、今まさに傍観するしかない身の無力に打ちのめされながら、手中の肉棒を扱かずにいられない、この心情と同一。
ゆえに、より痛切に、彼女の煩悶と昂奮のほどが伝わってくる。
擦るほどに喜悦の衝動を蓄える肉棒の卑しさを恨むほどに、確信した。
(きっと、咲美は。もうじき……)
『んん~? 何が駄目なの? ねぇっ、ねぇっ』
『やっ、だ、めっ、だめっ、なのっ、ぉぉぉっ!』
強烈にウザったい藪沼の口振りにも、余裕のない咲美はすがらざるを得ない。
『ほら、言ってよっ。パンパンがだめ、なんでしょぉっ』
『やっ、あひっぃぃッッ! ひぃっ、いあっ、あひっ、いっ、いぃ……っ!』
『いい? イくの? そうなんだねっ。イくんだねっアサオカちゃんっ』
言葉にせずに済むのなら、と思ったか。あるいは判断する余裕もなく、三度。突き上げる肉棒のノックに合わせて、咲美の顎が上下に跳ねた。
『ちゃんと言うんだよ、イくって!』
『ひやっ、いやああっ!』
『言うんだよッッ』
強烈な藪沼の突きこみを浴びて、膣壺が戦慄く。内に溜まっていた蜜汁が押し出され、止め処もなく咲美自身の内腿に伝った。
「く……そっ、くそっおおおっ」
それを凝視しつつ、画面の中の藪沼に対抗して罪深き陰茎を扱き立てる。喜悦のツユを漏らし続ける肉竿に限界の時が迫っていた。
それでもせめて奴より長持ちさせる、負けるものかという激情に支えられて、擦り切れるのではと思うほどに激しく、きつく握った状態で擦り続ける。