ヤブヌマ 侵食されゆく妻の蜜肌

一抹の不安を振り払い、再度画面に目を戻す。事の発端となった呼び出し音、その出所は、画面の内。布団脇に脱ぎ置かれた咲美の衣服の束の内より発せられていた。

『やっ、で、電話が、なっ、鳴ってます、ん……っく、やっ、あぁ、んっ』

自身の携帯電話が鳴っているのに気づいた咲美が、ことさら狼狽した表情と視線を藪沼に注ぐ。

『もう、せっかくいいとこなのに。放っておきなよ』

興を削がれた、という面持ちを隠そうともしない奴の両手が、改めて咲美の尻をむんずと掴み直し、抱き寄せる。同時に深々と蜜壺を抉り、焦らすように浅い抜き差しを重ねだす。

また、一回戦と同じ手口。

互いのことを想い合い、相手の望むところを察して与え合う夫婦の営みとは決定的に違う。心など置き去りに、女体の性感を刺激して、焦らしに焦らした末にひと際の昂りを与える、悪辣な手法。

一度の成功に味を占めた男が、自信満々の様相で、咲美に早期の決断を迫った。

『だっ、だめ、で、すっ、ってば……っ』

拒む口振りと同様に、咲美の尻は頑として動かず。まつ毛こそ震えていたが、未だ意志のこもった彼女の眼差しが、卑劣な藪沼を射抜いていた。

──藪沼のピストンが、二十数度を数えるまでは。

その間、一度呼び出し音は途絶え、ほどなくして再度けたたましい音を発しだす。

そして。

『ンッ……ふぅ、ん、んんんっ……ふ、ァ……ッ』

わずかに開いた咲美の唇が、甘い吐息を発した。藪沼の上に乗った美尻が、申し訳程度にくね、くね、と揺らぎだし──じきに、うねるような楕円軌道に変わった。唇をぎゅっと噛んで瞼も閉じた咲美自身は、まだ最小限の微細な動きをしているつもりなのかもしれない。

だが、粘膜を触れ合わせる藪沼にはもちろんのこと、尻たぶに浮いた玉の汗の動きから、視聴者にだって筒抜けだ。

『誰からか、見てごらん。挿れたままで』

彼女の焦れぶり、性感の相変わらずの高止まりぶりを確信した藪沼が、さも『僕のチンポを引き抜く、なんて選択肢は君の中にないだろう』とでも言いたげなゲスい笑みを湛えて言い放つ。

その間も浅い抜き差しは続き、都度、咲美の膣肉がきゅっと引き締まるのが見て取れた。きっと、少しでも大きなストロークを望んで、内壁も蠢かせているに違いない。結合部の隙間より染み出す愛液の量と粘りが、すべて物語っている。

(咲美は、わかっているはずだ。誰からの電話なのか)

夜半に職場や知人からかかってくるとは考えにくい。そして、すでに約束の時刻を過ぎているにもかかわらずまだ藪沼の部屋に留め置かれているという状況を鑑みれば。

(僕からの電話と、気づいてて……っ)

それでも、藪沼の剛直を股肉で抱き締め、離さない──離せないでいる。

『そのうち鳴り止むよ』

『いっ、やはぁっ、あっ……んっ、ふぁ、あぁぁんっ』

藪沼の囁きにイヤイヤと首を振りながら、咲美の腰もまた乞いすがるように左右に触れ蠢く。

それを見届けたように、携帯電話の呼び出し音が途絶えた。鳴った回数は、夫の記憶の中のそれと合致する。

『さぁ仕切り直しっ。だねっ』

『あっ、だっだめっ、そんな、強っくぅぅっ』

喜々と藪沼がピッチを上げた。口で拒みつつも、咲美はしっかり対応し、自ずから腰のリズムを合わせだす。内心では待ち望んでいた刺激の到来を、声にできぬ代わりに、膣の締めつけという形で相手に伝え、彼女の唇は、隠しきれぬ悦びに綻んでいた。

『ほらっ、当たるでしょ? アサオカちゃん、ほらっ、ほらっ』

藪沼が、待たせたお詫びに、と囁いて、これまでより一段だけギアの上がった腰使いで膣洞を掘り始める。

『はっひ、っあ! んァッああああァッ……!』

艶めかしい安堵の微笑に彩られた唇が、心行くままに嬌声を吐き紡いで応じた。

鳴り止んだ携帯は以後一度も顧みられなかった。

『これが欲しかったんだよねっ、ねっ?』

見上げながら、腰を跳ね上げる藪沼が問いかける。

『ふっうぅ、ぁっひあっ、あんっ、あっあはぁぁあっ』

咲美が、うっとりと惚けた瞳で藪沼を見つめた。恥ずかしがり屋の咲美が夫との性行為中にもよくする仕草。無言の催促。藪沼に、より激しいピストンをねだっているのだ。

もどかしそうに、けれど嬉しげにくねり続ける牝腰のさまからも、それは明白。ずるりと抜け出る藪沼の肉棒、そのピンク色のゴムに包まれた幹が大量の咲美の蜜で濡れ光っていることからも。その幹にすがるように、サーモンピンクの膣粘膜が吸着したまま引きずり出されていることからも、疑いようがない。

「いい、のか……咲美も、そのチンポが……そんなにっ……」

尽くことのない嫉妬が、自慰射精したばかりの肉根に注入されてゆく。手中のぬるつき、床に散らばる白濁をぬぐう意識すらなく、再び上下に扱き立てる動きを再開させた。竿に響く喜悦の痺れと、胸に響く痛切な疼きとが混ざり、また、忘れじの快感が錬り上がってゆく。

(きっともう……これから逃れることなど、できやしないのだ。ならせめて……)

咲美を愛していればこそ生じるものなのだから。味わい尽くさなければ。

(それも含めての僕なりの愛、だから……)

歪な妄執とつき合い続ける覚悟を定めた胸が、わずかばかりの安堵に潤う。

ぶつかる男女の肉の音と、絡まる蜜の攪拌音。爛れた息遣い、蕩けた嬌声。淫猥な諸々の音色だけが、映像の中の密室を支配する。